JICA緒方研究所

出版物

ワーキングペーパー

No.215 A Quest for Learning and Beyond: Aiming at Second Chance Education in the Occupied Palestinian Territories

暴力的紛争は人々の生命及び教育を受ける権利を含む基本的権利に大きな困難と制限をもたらす。世界中で人道的危機の発生が続く今日、そのような緊急下においてどのように教育を提供していくか、という問題への関心が高まっている。本稿は、パレスチナを事例として、この新たな領域に含まれる諸課題のうち、紛争により学校を辞めざるを得なかった人々による教育機会の再獲得(セカンド・チャンス教育)に焦点を当てる。

パレスチナの人々は、何十年にも渡る軍事占領により、土地、家、財産、そしてその他広範囲に及ぶ基本的人権を奪われ続けてきた。パレスチナ人に対する社会的・個人的自己決定権の否定は、終わりの見えないまま何世代にもわたって続いている。そのような状況にあっても、パレスチナの人々は自身の生活及び社会の構築に奮闘し、教育はその中で多大な努力がなされ成果を上げてきた分野の一つである。パレスチナ自治政府の教育・高等教育庁が運営する“Al-Taleem Al-Moazy”と呼ばれる2年間の教育プログラムもそうした努力の一つであり、学校教育を中退した成人及び青年層の人々に教育を保障することを目的としている。本稿では、このMoazyプログラムの卒業生に着目し、被占領地パレスチナ(oPt)のヨルダン川西岸地区及びガザ地区において、教育機会を逸した経験を持つ人々の声を明らかにすることを試みる。これまで、比較的教育水準の高いパレスチナ社会において、教育機会を失うという経験がどのようなものであるか、という点には十分な関心が払われてこなかった。本稿はこれを明らかにすることで、oPtにおける教育の意味について考察を深めることに貢献する。

本研究が主なデータとして使用するのは、詳細インタビューを通じ収集された23名のMoazyプログラム卒業生のライフストーリーである。インタビューでは、彼らの学校教育はどのように阻害されたか、社会の中で「教育を受けていない人」である経験はどのようなものであったか、どのような内的・外的要因が教育機会の再獲得を可能にしたか、について聞き取りが行われた。

インタビューにより、占領が教育へ及ぼす影響は、学校閉鎖、拘束、移動制限といった直接的な障害をはるかに超えた広範囲なものであることが明らかとなった。占領はoPtにおける生活のあらゆる面を阻害し、それは経済や人々の心理的側面にも及ぶ。このことが、子どもたちを学校に通わせる各家庭の能力及び意思にも重大な影響をもたらしている。特に、インタビューを受けた多くの女性たちのライフストーリーが明らかにしたのは、軍事占領が暴力や嫌がらせ、種々の制限をもたらす環境の中で、少女たちが家族により退学させられ、少しでも安全な選択肢としての結婚を余儀なくされている厳しい現実である。

こうした様々な困難にも拘らず、多くのインタビュー協力者は、自身の教育を受ける権利、そして自らが有する将来への可能性に対して確固とした信念を持っており、その強さが教育への再度のアクセスを可能にした重要な要因であったと考えられる。また、パレスチナの文化的環境及び社会的風潮として、教育が非常に重視されるあまり「教育を受けていないこと」が恥とみなされる傾向があることも確認された。一部のインタビュー協力者にとっては、こうした文化的・社会的規範が再教育の機会を求める主要なモチベーションになっているものと見受けられた。

さらに、本研究では、パレスチナ社会において教育がそのように価値あるものと高く評価される背景について、教育を追求することが次の三点の達成に繋がるとみなされていることを明らかにした。第一に、占領当局によりあらゆるものがいつ何時奪われるかわからないという環境の中で、個人及びコミュニティの自律と尊厳を確保することである。第二に、占領の過酷な現実に直面する中でも、希望を保ち続ける原動力となることである。第三には、正義公正の実現にむけ、国際社会において自分たち自身の声で語ることである。


キーワード: パレスチナ、セカンド・チャンス教育、紛争、ライフストーリー、尊厳

ページの先頭へ