【終了】開催レポートKenneth King教授らとともに、日本の対外援助の日本らしさを議論

掲載日:2016.03.09

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JICA 研究所公開セミナー 「日本の対外援助の日本らしさ:教育と研修事業の例を通して」 "Japaneseness of Japanese Aid: The Case of Education and Training"

持続可能な開発目標(SDGs)、新たな開発協力大綱のもと、日本の国際協力の特徴、「日本らしさ」をどのようにとらえ、今後どのように生かしていくべきなのでしょうか。JICA研究所は2016年2月25日、英国エジンバラ大学名誉教授で、JICA客員研究員のKenneth King氏らを講師に、東京のJICA市ヶ谷ビルで公開セミナー「日本の対外援助の日本らしさ:教育と研修事業の例を通して」を開催し、このテーマについて研究者や国際協力の関係者らと議論しました。

はじめに、King教授が発表を行い、開発協力大綱などの資料の分析や、セミナーに先立って視察したカンボジアでの日本の協力事例を踏まえて、日本の国際協力に関して、いくつかのキーワードを挙げました。

King教授は最初に、開発協力大綱の中に、「日本語を含むソフトパワーの活用にも留意する」という言葉があり、それ以前の「ODA大綱」では出てこなかった「ソフトパワー」と「日本語」という言葉が初めて登場したことを指摘しました。ソフトパワーの一例として、King教授は自身が視察したJICAの「カンボジア日本人材開発センター」を挙げ、日本の5S(整理、整頓、清掃、清潔、躾=しつけ=)に節約、備えを加えた「7S」の取り組みが行われていることなどを紹介しました。

次に、日本の協力の重要な要素として、経験、知見、技術、教訓を挙げました。日本がODAを実施しているどの国にも、短期および長期の日本人専門家や青年海外協力隊がいます。彼らは現場で現地の人とともに働き、その技術や日本的価値、職業文化を共有していて、「日本のODAと専門家らは切り離せないと考えることができる」とKing教授は述べました。

さらに、King教授は、新しい大綱では多くの個所で「積極的」あるいは「積極的に」という表現が使われており、この「積極的」がおそらく最も重要で、新たに強調されたキーワードであると指摘しました。

また、大綱は公教育についてよりも人材育成について多く述べており、この人材育成を三角協力の形で行うことについても触れていると指摘しました。日本の国際協力の歴史を振り返った「Japan's Development Assistance: Foreign Aid and the Post-2015 Agenda」(加藤宏JICA理事他編、2015年11月発行、Palgrave Macmillan社)の第1章も人材育成に焦点を当てており、人材育成は教育分野に限らず、あらゆる分野に浸透していると述べました。

King教授の発表に続き、大野泉・政策研究大学院大学教授が「開発協力の新時代における英国と日本」と題して英国との比較で日本らしさを、黒田一雄・早稲田大学教授が「日本の対外援助の日本らしさ: 教育と研修事業の例を通して」で教育と研修事業を例に日本らしさの変遷を紹介しました。また松永正英JICA東南アジア・太平洋州部次長は「知識の4つのカテゴリー」と称し、形式知か暗黙知か、文脈抜きか文脈ありかの2方向の軸の組み合わせによって知識を4つに分け、援助の効果は、いかに文脈の中での暗黙知を関係者間で共有できるかによると述べました。

発表の後、King教授は、参加したJICA関係者、コンサルタント、学生などから日本の国際協力についての幅広い意見を引き出し、活発な議論を展開しました。

小寺清JICA研究所顧問は、開発途上国にとってより重要なことは、具体的にどんな知見が国際協力に生かされるのかであり、日本人の中だけで日本らしさを議論することは適切ではないと意見を述べました。

あるコンサルタントは、「暗黙知」は「暗黙知」のまま他の場所で受け入れられることはない。現地の人によって、日本の経験が現地化されるのであって、コンサルタントの役割は、それを促進するために、あるいは触媒となることにあると発言しました。

萱島信子JICA国際協力専門員は、JICAの事業がもともと持っている特徴が長い時間をかけて現地化される、その混じり合いが大切だと述べました。

こうした意見に対し、King教授は、「『混じり合い』は、今回のカンボジア訪問でも現地で聞くことのできた"Hybrid"というアイデアと同じだと思う。例えば教育開発のプロジェクトであれば、単に日本の教員研修の教材を翻訳して持っていくわけではない。もっと時間がかかる過程です。日本は、現地の人が『これは私たちのプロジェクトだ』という認識に至るまで長い時間をかける」と補足しました。

King教授は今後、研究成果を論文にまとめる予定です。