インタビュー【JICA-RIフォーカス 創刊号】恒川惠市 初代所長にインタビュー前編

2009.04.20

世界の開発潮流とJICA研究所の方向性——恒川惠市 初代所長にインタビュー 前編

Tsunekawa, Keiichi

2008年10月1日、独立行政法人国際協力機構と国際協力銀行(JBIC)の海外経済協力部門の統合を契機に、新しくJICA研究所が誕生しました。今後、このコラム『JICA-RIフォーカス』では、研究所の活動をインタビューや報告によって皆さんに知っていただくことで、国際協力や開発研究について一緒に考えていきたいと思います。

創刊号および第2号は、機構理事への就任と同時にJICA研究所の初代所長に就任した恒川所長に新しい研究機関がどういう意味を持つのか、また、本人の抱負について聞きました。

世界の開発潮流と研究の方向性

途上国ではどんな課題があり、なぜ今、研究に取り組んでいくことが重要なのでしょうか。

国際協力の実施機関にはさまざまな課題がありますが、現時点での主な課題としては以下の3つが挙げられます。

旧JICA、JBICの強みを活かした研究所作りとは

国内外の他の研究所と比較してJICA研究所の独自性とは何でしょうか。

発足したばかりの研究所なのでこれから提示できることは未知数ですが、JICAの独自性とは、1)援助の種類に3つのモダリティー:無償資金・有償資金・技術協力があり、世界的にも類のない規模の援助機関となることで、本来開発が持つ多元的、複合的な問題に対応する研究が出来るということです。また、2)学術的研究と実務機関の機能を両方兼ね備えていることも特徴です。そして、3)JICAもJBICもすでに世界各地で何十年も事業を実施しており、過去の莫大なデータと経験があるにもかかわらず、これらはほとんど利用されていないのです。日本語で存在するこのデータと事例の活用には、当然日本人研究者に比較優位があるといっていいでしょう。

国内外のJICA研究所の発信ターゲットと手法

研究成果を世界に発信するのに、そういった独自性をどのように活用していくのでしょうか。主に誰を対象にしているのでしょうか。

世界に発信するための魔法のフォーミュラはありませんが、ターゲットははっきりしています。まず1)世界で国際協力に携わっている人々、現場で実務に携わっている人たち、そして、2)JICAの活動費用を出してくださる国民と企業に、私たちは説明責任を果たす義務があります。それから3)他の国際協力機関(外国でJICAと同じようなことをやっている機関、UNDPのような国際機関)に対して、われわれは国際開発潮流の一角に主体的にかかわっていくための発信をしていく。そして、4)内外の研究・教育機関です。研究所は援助に関心のある将来の研究者を引き付ける研究の場であるとともに養成する場所でもあります。

では、どのようにそれをやっていくのかは、今後考えていかなくてはいけないのですが、例えば、外国に対して、英語での発信を強化すること、また研究の内容や結果をセミナーやシンポジウムの開催を通じて内外の関係者に公開したい。国民の代表である議員の方々など、ポリシーメーカーにも研究内容を発信していきたいし、また国民にもマスメディアとの会合の共催などを通じて研究成果を知っていただけたらと希望しています。

共同研究についてはどう考えますか。

研究所は非常に規模が小さく、内部の人員が少ないのに対し、研究課題はたくさんあります。当然、JICA本体や外部の組織の力もお借りして共同研究を推進することが求められます。JICA内部では実務者と研究者とが共同で研究するとともに、国内外の機関との研究交流も必要です。大学から出向やサバティカルで来ていただいたり、非常勤の研究員になっていただくということが考えられますし、逆に研究所の研究員が他の機関に教えに行ったりすることも発信の一つの形態になります。外国の研究チームとの共同研究もあり得ます。あまり固定的に考えず、柔軟に対処したいと思います。

初代所長としての抱負

新JICA研究所の所長として、何をこれから一番やっていかれたいか、抱負を聞かせてください。

実務の現場に役立つと同時に、アカデミックな評価に耐え得る研究をしていきたいですね。ただし、研究の結果を利用することに関しては、広い視点でとらえる必要があります。例えば、武力紛争について比較研究した結論が必ずしもすぐに開発援助に生かせるとは限らない。外部から操作することが難しい「長期的な集団間関係を変える」などの結論に突き当たるかもしれないからです。リサーチの結果を一つの理論モデルとして示すことと、開発の実務に反映させる方法の探求という両方向で、試行錯誤しながらやっていくしかありませんね。

初代所長インタビュー 後編 に続く

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