インタビュー【JICA-RIフォーカス 第2号】恒川惠市 初代所長にインタビュー後編

2009.04.20

所長の研究スタイル——恒川惠市 初代所長にインタビュー 後編

Tsunekawa, Keiichi

2008年10月1日、新しくJICA研究所が誕生しました。今後、このコラム『JICA-RIフォーカス』では、研究所の活動をインタビューや報告によって皆さんに知っていただくことで、国際協力や開発研究について一緒に考えていきたいと思います。

JICA研究所の恒川所長へのインタビュー後編となる今回は、所長個人としての、また新しい研究機関の組織としての、今後の研究スタイルについてさらに詳しく聞きました。

新所長が開発途上国研究に取り組んだきっかけ

どのようなきっかけで開発途上国に関する研究を始めたのですか。今までに一番印象に残った研究はどんなことですか。

私は、1966年に大学に入学しました。当時は高度経済成長の真っただ中で、日本がやっと戦後の混乱から抜け出して、世界の貧しい国々に目が行くようになった時代でした。南北問題やアジア・アフリカ問題が注目されていて、自分も「南」の国のことを勉強したくなりました。青年らしい正義感もあったでしょう。スペイン語が舌に合っていて、自分はラテン・アメリカについて卒論を書き、大学院ではカストロの「変節」を修士論文のテーマに選びました。

当初若くてポピュリストだった彼が、数年以内に社会主義の一党独裁に傾倒していく。その過程を研究するうちに、キューバの政治動向が実は経済発展モデルの失敗と結び付いていること、それはラテン・アメリカという地域全体について言えることに気付きました。これが自分の政治経済学を確立するきっかけになったのです。

人事交流や若手研究者の育成

研究人材の育成については、どう考えていますか。当研究所の若手研究者には、どのようなキャリアプランが必要と考えられますか。

若手研究者には2種類あって、1)主に大学で活動してきた院生、そして2)主に実務経験を積んできた人たちがいます。大学出身者は先行研究を踏まえて人に対して説得力のある文章の書き方ができ、自分の意見と他人の意見とを明確に分けて説明する手法にたけています。他方実務研修者は、理論だけではうまくいかない点がたくさんあることを知っています。

大学出身者は理論化を急ぐあまり複雑な事象の重要な部分を見逃す危険があります。その解決法はできるだけ現地に行くこと、実務研修者に話を聞くことです。一方、実務出身者は自分の経験を性急に一般化してしまうのではなく、面倒でも先行研究を踏まえたり、複数の事例を比較して客観的な規則性を探すことの大切さを学ばなくてはなりません。

飲み込みが早く、ちょっとしたヒントで伸びる人はたくさんいます。互いに切磋琢磨すれば、シナジー効果が得られると思います。

JICA研究所の研究スタイル

どのような研究手法・スタイルを確立していく予定ですか。

計量分析と比較事例分析を中心にしますが、場合によっては一つの事例を深く掘り下げる研究もあり得ます。数量分析は厳密な検証を可能にします。他方開発というのは数量化できない部分が多々あり、無理するとゆがんでしまう面もありますので、定性的な分析を軽視してはなりません。

JICA研究所は小さいのにデパートのようにテーマが豊富なので、外部との協力関係が不可欠です。研究交流を図りつつも研究所が主導する形で、研究成果を発信していきたいと思います。

最後に、若手研究者、大学、大学院生へのメッセージをお願いします。

8月に、アフガニスタンで無私の奉仕をしていた青年が命を落とす、痛ましい事件がありました。世界各地で彼のように活躍している人たちがいることを日本人として誇りに思います。だからこそ臨場感を持った研究ができなければ、現場でやっている人たちに申し訳ないと感じるべきです。

私もこの8月まで大学に在籍し、実務経験はありません。しかしアカデミックでありながらJICA研究所共ども、臨場感を持った研究を進めていきたいと思います。

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