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インタビュー【JICA-RIフォーカス 第13号】細野昭雄所長に聞く

2011.05.25

基礎固めから、研究活動の本格化へ——JICA研究所 細野昭雄所長に聞く 新所長が重視する3つの柱とは

JICA研究所の新しい所長に、細野昭雄氏が就任しました。細野所長は、今後の抱負として(1)援助効果の向上に資する研究、(2)知見と情報の共有化、(3)国際援助コミュニティへの貢献、の3つの柱を挙げ、それぞれ活動を強化していきたいと語っています。

援助現場へのフィードバック機能を強化

まず、所長就任にあたっての抱負からお聞かせください。

2008年10月にJICA研究所が設立されてから、ちょうど2年半になります。新しい組織はスタート段階が非常に重要であり、特に研究機関の場合、研究活動にあたっての基本方針、重点領域などを一方で定めながら、研究課題を特定し、成果が出たら評価する体制を整備し、さらにその内容をどう発信していくかという一連の基本的なシステムを構築していくことが欠かせません。設立からの2年半は、まさにその基礎固めの時間だったわけですが、この基礎を生かし、どう研究内容を充実させていくかが、これからの大きな課題です。その観点から、当面は3つの柱を考えています。

まず一つ目は、あくまでも「援助効果の向上に資する研究」を基本に据えていくということです。当研究所は援助実施機関であるJICAの一組織であり、私たちの研究成果が実際の援助に生かされないと意味がありません。援助現場を持つ実務者と研究者のコラボレーションをさらに強め、援助効果を高めていけるような定量的、定性的な研究に力を入れていきたいと考えています。援助現場に詳しい実務者が同じ組織にいるということは、当研究所の大きなメリットであり、比較優位にもなっている。こうした特性を十分に生かして研究活動の充実を目指していきます。

研究成果の現場へのフィードバックをどう進める方針ですか。

JICAの援助現場、本部各部のニーズをしっかりと把握していくことがまず重要になります。研究すべき分野やテーマ、また研究によって何を明らかにすることが期待されているか、こうしたことを各部とじっくり相談した上で研究を進め、フィードバック機能を強化していきたいと考えています。その一環として、今般、研究所に対するJICA内の研究ニーズ調査を実施しましたが、各部から計36件の研究提案が寄せられており、期待の高さを痛感しました。その一つ一つについて丁寧に意見交換しつつ、今後の研究方針に反映していきたいと考えています。

研究成果の現場へのフィードバックの最近の具体的な事例では、フィリピン・マニラ首都圏を対象とした気候変動適応策の研究、またCD(キャパシティ・デベロップメント)の一事例としてバングラデシュの地方行政技術局(LGED)を対象とした研究活動が上げられます。前者は東南アジアの沿岸部に位置するメガシティに及ぼす気候変動の影響をテーマに据えたもので、具体的に洪水などの被害シミュレーションを行い、将来的な気候変動適応策をADB(アジア開発銀行)、世界銀行と共同で行いました。この成果をマニラだけではなく、ジャカルタなど他の都市の気候変動適応策の検討にも生かせるのではないか、と考えています。東日本を襲った大震災と津波は、東北地方に甚大な被害をもたらしましたが、アジアのメガシティにとっても決して他人事ではありません。

一方、後者は、バングラデシュでもっとも優れた行政組織と言われる地方行政技術局(LGED)を分析したものです。概して非効率だと言われるバングラデシュの公的機関にあって「何故、LGEDは効率的な運営が出来るのか」、いわばその“強み”を理論的に分析した点に大きな特徴があり、新しい切り口による類例のない分析成果を出したと思っています。その成果をワーキングペーパーとして発表したところ、LGED自身がその内容を非常に重く受け止め、これからの組織運営に役立てていきたいと言っています。LGEDに対してはJICAもこれまで多様な協力を実施しており、JICAにとってもきわめて意義のある研究になったと捉えています。

こうした事例をイメージしつつ、援助現場や各部の要望を十分に踏まえ、フィードバックの積み上げに最大限努めていきます。

知見と情報の共有化

第2の柱としては、どのようなことをお考えですか。

途上国と開発課題についての「知見と情報の共有化」を目指したいと考えています。途上国は国の大小を問わず、さまざまな課題、問題を抱えています。それを個別の単体としての問題のレベルにとどめず、国全体としてどう捉えればいいのかを考えていく必要がある。つまり、途上国が直面する課題なりを的確に捉え、狭い視点からではなく、広範的かつ体系的な知識、知見として整理していくことが大切です。JICAは非常に長きにわたり、開発協力事業を実施してきているわけですが、その実施を通じて得てきた豊富な経験や情報が必ずしも十分に整理されているわけではありません。研究を通したその体系的な整理は、まさにJICAの中にある研究所の仕事であり、その成果を途上国政府関係者や援助実務者はもちろん、NGO/NPOなど市民セクターの方々も含め、必要とする広範な関係者に、いわば一つの「公共財」として提供していきたいと考えています。

以上のことを一言で言えば“木を見るだけではなく、森も見ていく”ということです。“木”は個別の課題であったり、JICAが現場で行う個々のプロジェクトであったりするわけですが、それを取り巻く国の状況や開発課題を鳥瞰し、分析していくことも必要です。これまでも、アフリカ・ASEANといった地域に視点を当てた研究や新興ドナーの台頭など、新たな動きに対応する開発課題への取り組みを行ってきましたが、今後もそうした意識をもってのぞんでいきたいと考えます。発信という観点でも、木”と“森”双方において、援助関係者等専門の方々に対しては、詳細な分析に基づくワーキングペーパーを中心に成果を提供し、他方で一般の方々に対しても、しっかりした分析・研究で裏打ちしつつ分かりやすくまとめた「プロジェクトヒストリー」などを発刊して知見と情報の共有を図っていく予定です。

釜山のハイレベル会合、TICAD Ⅴなどに向けて

JICAの援助現場へのフィードバックとともに、国際援助コミュニティに対するフィードバックにも期待がかかります。

国際的な援助潮流というものを展望するとき、新しいアクターがどんどん増えており、同時に新しい課題にも直面していることを痛感します。それに伴い、新しいアプローチも必要になっています。それらを統合したグローバルなプラットフォームや、援助アーキテクチャーなどを構築していかなければなりません。また、今回の大震災を受けて日本が直面する課題も大きく変わりつつある。こうした中、新しく、かつ強力な援助アプローチや援助戦略を模索し、国際的に何を提案していくかが問われており、研究所は広く国際社会の取り組みに貢献できるような研究を一層拡充していかなければならないと考えています。これが第3の柱です。

具体的には、近隣の中国や韓国はもちろん、インド、南アフリカ、ブラジルといった「新興ドナー」のプレゼンスが高まっており、G20などでの発言力を強めています。こういった新興ドナーの動きをフォローしていくことも大切です。また、新しいチャレンジでは気候変動や災害予防などへの取り組み強化が求められており、特に今回の大震災を踏まえ、“災害脆弱国”にも注目していく必要もあるでしょう。最貧国、あるいは内陸国とカテゴライズされる国がありますが、私は「災害脆弱国」というくくりがあっても良いと考えています。例えば、内陸国には内陸国共通の問題がたくさんある。では、内陸国の全部が災害に脆弱なのかと言えば、必ずしも一致しない。地震帯や火山帯に位置する国、ハリケーンや台風の通り道にある国々は被害を受けやすく、さらにこれらが重なれば被害程度は大きくなります。こうした脆弱国を視野に入れた災害対策、災害予防は、これから国際社会が取り組んでいかざるを得ない重要な課題だと捉えています。

一方、新しいアプローチとしては、途上国同士が協力し合う「南南協力」、その協力に対してJICAなどが支援する「三角協力」が一層重要なアプローチになる可能性があると考えています。新興ドナーの台頭についてはすでに述べたところですが、それ以上に途上国が自ら努力して培った経験、技術は、南の国同士で使い易いという側面がある。例えば耐震建築を例にとれば、南の国々で使える建築材料は、必ずしも北の先進国と同じ材料ではない。南の国々の材料を使いながら、強度を高めるにはどういう工夫が必要なのか、今度はその部分にJICAの技術協力などが求められてくる。「三角協力」の有用性は、こうした点で高いと思われます。研究所では、有用性の高いアプローチについても研究を深めていきたいと考えています。

国際援助コミュニティに対する発信、フィードバックという面では、すでにいくつかの成果を発表してきています。まず、気候変動関連ではCOP16に向けて気候変動適応策に関する研究成果を発表し、サイドイベントにも参加しました。また、新しい援助アプローチや新たな援助プラットフォームに関しては、米国のブルッキングス研究所と韓国のKOICAとの三者共同研究を行っており、その成果は出版物として刊行されました。今後の予定としては、これまでに実施した研究成果も活用しながら、2011年末に予定されている韓国・釜山の「ハイレベル会合」をはじめ、ポストMDGs、TICAD Ⅴに向けた研究を推進し、国援助コミュニティに役立つ成果を発信していきたいと考えています。

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