インタビュー【JICA-RIフォーカス 第17号】 室谷龍太郎リサーチ・アソシエイトに聞く

2011.09.21

世銀・JICA合同セミナーの開催を準備──室谷龍太郎リサーチ・アソシエイトが語る援助現場と研究の相互補完

世界銀行・JICA合同セミナー「紛争・安全保障・開発(Conflict, Security, and Development)」が9月27日、JICA研究所で開催されます。セミナーでは世銀の「世界開発報告(WDR)2011:紛争・安全保障・開発」の発表も併せて行われます。本WDRの作成段階から関わり、今回のセミナー開催に向けて準備した中心メンバーのひとりが、現在、研究所のリサーチ・アソシエイト(RA)として働く室谷龍太郎です。援助の現場経験も豊かな室谷RAに、今回のWDRとJICAのコミット、研究と援助現場・実務との連携などについて聞きました。

世界銀行「世界開発報告(WDR)2011」とJICA

9月27日に世界銀行とJICAの合同セミナー「紛争・安全保障・開発」がJICA研究所で開催されます。このセミナーは、世銀の「世界開発報告(WDR)2011」の日本での発表会も兼ねており、当日の意見交換に期待が高まっています。JICAはWDRの作成段階にどうコミットしてきたのでしょうか。

WDR2011のテーマは「Conflict, Security, and Development」で、複合的に絡み合う「紛争と開発」という問題を取り上げ、その2つの問題を同時に解決していくためにはどうすればいいのかをトピックにしています。執筆・作成作業に対するJICAのコミットとしては、まず大島副理事長が「有識者諮問委員会」の委員に就任し、JICAの取り組みや経験を背景に「人間の安全保障」の重要性、この分野に対するJICAの協力実績、国連や地域機関の役割などについてインプットしました。有識者諮問委員会は、例年、開発分野の高名な方々がメンバーになっており、国連大使などを経験した大島副理事長が委員会に入ることにより、JICAの現場経験、あるいは研究成果などを効果的にインプットできたのではないか、と思います。

2つめは、世銀とJICA研究所で日本を含むアジアの有識者・実務経験者との意見交換の場を設けようと、昨年の4月に東京ワークショップを当研究所で開きました。ワークショップでは、世銀のWDR編集責任者と当研究所の研究者らが幅広く意見を交換するとともに、日本の学者やNGO/NPO関係者との意見交換を図ることを目指し、多様な経験、意見の反映に努めました。また、それに引き続き、ジャカルタで「アジア地域コンサルテーション会合」を世銀・ASEAN・JICAで共催し、東南アジア地域の専門家らに集まっていただき、意見交換を図る場を設定しました。コンサルテーションには大島副理事長、JICA研究所の恒川所長(当時)も参加し、アジアの専門家の意見を聞く貴重な機会になったと思います。

3つめは、JICAの取り組みや経験にもとづいたバックグラウンド・ペーパーを研究所主体に執筆、提供しました。内容は、アフガニスタンとカンボジアに対する復興支援の経験を分析・整理し、JICAの取り組みがどういう形でそれぞれの国づくりにつながっているかをとりまとめたもので、世銀の執筆チームに提出しました。私はカンボジアの経験をとりまとめています。

WDRのテーマについては、例年、何が取り上げられるのかが関心を集めます。今年は“紛争”が前面に出ています。

面白さのひとつは、世銀という開発金融機関がこのテーマを扱ったということです。「平和構築」という観点から言えば、国連などはかなり以前からさまざまな取り組みを展開しており、決して新しいトピックではありません。ただ、視点の据え方が変わってきていると思います。例えば90年代の東ティモールでは紛争終結直後に、どう現地に入り、どうやって復興していくかということが焦点になりました。ところがその後、それだけではすまない、さまざまな問題が背後に横たわっているということが分かってきた。それらの問題、課題を一度まとめて、紛争、脆弱性あるいは安全保障の問題を整理してみようというのが今回のWDRの狙いなのだと思います。

また、焦点を当てているのは紛争だけではなく、「暴力と脆弱性」を問題の中心に据えて幅広く議論しています。つまり、国と国の戦争や国内の民族対立だけではなく、紛争終結後に横行するギャング集団の存在、あるいは政府の過度な強権化に伴う抑圧状況の深刻化等のガバナンスの課題、その他さまざまな形の“暴力”や“脆弱性”を含め、その対応を取り扱っています。世銀が「セキュリティー」ということを正面から取り上げ、多様な角度から焦点を当てようとしていることは、非常に興味深い点だと思いますし、「人間の安全保障」の概念にも近いものだと思っています。

合同セミナーでは、WDRの発表に加え、JICA研究所が進めているアフリカにおける紛争予防に関する研究の中間報告も行います。いずれにしても、21世紀における紛争の性質の変化を読み解き、暴力と脆弱性に対応するための政策手段などにつき、活発な意見交換の場になれば、と期待しています。

研究と援助現場、双方の足りない部分を補い合う

室谷さんは、JICAのプロパー職員として援助現場の経験も積み上げられている。「平和構築」分野ではどのような現場を経験されていますか。

外務省の有償資金協力課(当時)に出向していた頃、ちょうどイラク戦争が勃発し、中東地域担当だったこともあり、3~4週間、バグダットに行きました。紛争と開発の問題に関わりだしたのは、ちょうどこの頃からです。その後、2004年から3年間、ボスニア・ヘルツェゴビナの日本大使館に赴任し、援助業務にあたったわけですが、現地の政治状況は非常に複雑で、行政制度も民族ごとにそれぞれ違うという状態でした。くすぶり続ける民族間の対立を、援助を行うことでどう解消できるのか、関係者と盛んに議論したものです。

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ボスニア大使館時代、紛争中に虐殺のあったスレブレニツァの
農村を調査する室谷RA(中央)

ボスニアの3年間は、現地の政治状況を見ることもできたし、援助と政治、外交と開発援助、さらに貿易といったファクターを、どう対立の解消に位置づけ、機能させていくかを、さまざまな視点から考える貴重な機会になったと思っています。帰国後は、JICAの留学制度によりハーバード大学に留学、現場調査という形でコソボ、インドネシアのアチェなどに行きました。紛争地のいくつかは、この目で見ています。

現在はRA(リサーチ・アソシエイト)として、研究活動にも携わっています。援助現場との連携、研究成果の現場へのフィードバックについてはどう考えていますか。

RAには、私のような立場ではない、研究を専門とする方々もいらっしゃいます。そうした中、自分も研究者としての資質を磨きつつ、私自身の特色を出していくとすれば、援助現場での経験を踏まえ、まずは研究部門の中でそれらをシェアすることに留意しています。また、現場にいる人やJICA本部で実務に当たっている職員の方々には機会を捉え、研究活動の必要性であるとか、進行中の研究活動など関連情報を伝えながら、逆に現場サイドの問題意識や意見などを拾い上げられるよう努めているところです。

RAとして2年間仕事をしてきて感じることは、やはり研究だけでは見えない部分があり、実務の経験や、そこから得られた知識、知見なりを研究活動につないでいくことが欠かせないということです。私自身、そこのところはしっかりやらなければいけないと思っています。一方、紛争と開発などの問題では、通常の援助とはかなり様相が異なっており、現場だけでは解決できない問題も多々あるはずです。例えばこれから復興支援が本格化しようとしている南スーダンに対し、通常の援助のやり方ではうまくいかないという状況が必ず出てきます。その新しい課題に対し、どういう新しいアプローチがあるのか、その部分ではどうしても研究活動との連携が欠かせません。そうした部分をつないでいくのが、まさにJICA研究所の役割ではないか、と考えています。長い目で考えると、RAとしての業務、研究活動から見えてきたことについては、外側から“ああしろ、こうしろ”と言うのではなく、やはり自分自身が現場に戻り、実践していくことも大切だと思っています。

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