インタビュー【JICA-RIフォーカス 第20号】 鍾 秋悦リサーチ・アソシエイトに聞く

2012.03.22

アフリカ産業集積の実証研究などに従事──鍾 秋悦(CHUNG,Yessica)リサーチ・アソシエイトが語る研究活動と次なるテーマ

大学時代から専門とする「計量経済」を軸に、アフリカと企業動向分析を主テーマに研究活動を続けているのが台湾出身の鍾 秋悦リサーチ・アソシエイトです。間もなく終了する「アフリカ産業集積の実証研究」の模様や次のテーマ、さらに研究活動に寄せる思いなどを聞きました。

台湾行政院での職務経験を生かして

台湾大学大学院の修士課程を修了した後、台湾行政院に就職されていますが、どのような仕事をされていたのですか。

行政院では、主に物価指数のとりまとめやその分析、関連するレポートの作成業務などに従事していました。日本の場合もそうですが、物価指数は毎月定期的に発表されており、台湾の大手企業に毎月電話し、例えば原価などの動向をヒヤリングし、その結果をまとめ上げていくという作業です。台湾行政院には2年半ほど勤務しましたが、膨大なデータの分析スキル、またソフトウェアのスキルについて向上させることができ、良い経験になったと思っています。物事をいろいろな角度から考えるのが好きで、“もしかしたら自分は研究者に向いているのではないか”と思ったのも、この頃のことです。

その後、国費留学試験を受け、一橋大学大学院経済学研究科の博士課程に進学しました。専攻は計量経済で、修士課程から今日までデータ分析などを主体にした計量経済が一貫して私の基本になっています。

博士課程修了後は一時、国際協力銀行(JBIC)の開発金融研究所に在籍されていますね。

当時、JBIC研究所で働いていた台湾時代の先輩がおり、統計分析を行う助手を探しており、手伝ってくれないかというお電話をいただきました。JBIC研究所では、主に東南アジア諸国の金融機関のバランスシートに関わるデータ分析などを行い、非常に良い経験を積むことができたと思います。JICAとJBICの統合後、2009年1月にJICA研究所の公募があり、これまでの経験を生かしたいとの思いから、応募したわけです。

アフリカの零細企業経営者の意識変化を追う

JICA研究所では「アフリカ産業集積の実証研究」などに従事されています。アフリカにはご関心を持たれていたのですか。

地域的なものより、やはり計量経済を軸にした産業動向に関心がありました。それまではバランスシートなどを分析するだけで、現場には行けませんでしたが、産業集積の研究ではタンザニアの零細規模の企業調査を現地で行うことができ、フィールド調査の重要性を痛感しています。調査の内容は、JICAが09年3月から実施した零細企業経営者向け研修をフォローし、経営者の行動と意識はどう変わったかを探り、そこから逆に研修の効果を抽出しようというものです。調査にあたっては「質問表」を作り、研修を受けた約30社の経営者の意識変化を探っていきました。

調査から明らかになってきたことは、例えば掃除や整理・整頓を心がける、お金の出し入れなどをとにかく細かく記録する、といった行動の変化が確認され、その後、実施されたフォローアップ調査でも「KAIZEN(改善)」という言葉が頻繁に聞かれました。個々の企業のパフォーマンス(業績)分析にはもう少し時間がかかると思いますが、私にとっては研究所での初めての研究活動ということもあり、アフリカの小規模企業をターゲットに据え、今後の成長に向けた可能性などを見ていきたいと考えています。現在は研修の効果に関する論文を執筆しており、ワーキングペーパー(WP)も複数発表する予定です。

次の研究プロジェクトのテーマは何ですか。

予定案件はまだ決まっていませんが、アフリカにおける中国企業の動向に強い関心を持っています。日本企業などがなかなか入れないのに対し、中国企業は積極的に進出し、幅広く業務展開を図っています。しかも、成功をおさめているケースが多い。その要因は何なのか。もちろん、中国政府の援助戦略と密接に絡んでいる部分は多いと思いますが、「中国企業のアフリカ戦略」を調べてみたいと強く思っています。研究ニーズも非常に高いと考えています。

現在は、モザンビークを対象とした道路などインフラ整備によるインパクトを実証的に研究していく活動に従事しており、これから分析作業に入るところです。これが一段落したら、中国企業の動向分析に着手したいと考えています。

「現場」と「研究」、双方の長所を伸ばすことが大切

JICA研究所の強み、優位性については、どうお考えになっていますか。

もっとも大きな優位性は、何といっても“現場”を持っていることです。援助実務者に加え、専門家らも幅広い分野で活動しており、彼らから本当の“現実”に近い情報を得て分析できることが素晴らしいと思っています。私は援助の実務者ではないので、JICA職員の方々のお話しを聞いていると“違和感”を感じることも確かにあります。逆に相手の方々には、私の意見を共有できない部分があると思う。その“壁”のようなものを取り払うためには、現場から“現実の”情報や意見を汲み取り、それを踏まえ私たちが仮設を立て、フィールドに出向き、双方の長所を統合、伸ばしていくような方策・手法の策定が欠かせないと思います。こうした取組みが活性化していけば、JICA研究所はさらに良い研究所になっていくと思います。

鍾さんの次なるステップは…。

最終的には台湾に帰国し、母校の国立台湾大学で教えていきたいと考えています。ただ、現在は研究所のプロジェクトに没頭しており、中国企業のアフリカ戦略など取り組んでみたいテーマも2~3本抱えていますので、いましばらくはJICA研究所でがんばってみたいと思っています。

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