インタビュー【JICA-RIフォーカス 第22号】 ラミチャネ・カマル研究員に聞く

2013.04.25

ポストMDGsの目標に障害者を対象者として明記—ラミチャネ・カマルリサーチ・アソシエイト(RA)が提唱。

ラミチャネRAは、これまでの障害学、インクルーシブ教育、開発学、そして国際協力の幅広い分野にわたる研究から、ポスト2015年の新しい目標には、障害者も対象として取り上げ、その目標の中に明記し、優先事項にするべきだと語っています。

障害者の社会への参加と経済的自立

研究所での現在の研究内容と、研究所に入る以前の研究テーマとの関連性についてお話頂けますでしょうか。

障害学の研究者として、以前から障害者の社会への参加とインクルージョンに関する研究をいろいろな形で行ってきました。教育や雇用などがいかに障害者にとって重要であり、また、障害者にそういったものを提供することが社会全体にとってもメリットがあることを実証する研究を、研究所に入ってからも続けています。そういう意味では、現在の研究と過去に行ってきた研究の方向性は一貫しています。

現在携わっている研究の目標や意義について詳しく教えていただけますか。

一言で言えば、開発のプロセスにおいて周辺化されている障害のある人々が、何をすれば同じ社会の一員として生活でき、社会への参加と経済的な自立が可能になるかを研究するのが目的です。たとえば、障害者が教育の機会を与えられると何が起こるでしょうか。スキルや能力を習得することによって、「自分にも出来る」という自信を初めて持つことができるようになるかもしれません。その結果、障害のない人々と同じように仕事を得られることにもつながると思います。教育の機会がエンパワーメントをもたらす、そこに因果関係があるのだということを実証研究によって示していきたいと考えています。

現在の研究は、ほかの研究者との共同でしょうか、それとも単独の研究ですか。

研究所の「ポスト2015における開発戦略に関する実証研究」というプロジェクトの一員としてこの研究を行っています。このプロジェクトでは、他にレジリエンスや保健を専門とする研究者などと一緒に研究をしています。

ポスト2015年と障害との関連性

MDGsおよびポストMDGsと障害との関連性について教えていただけますか。

現行のMDGsの中には8つの目標がありますが、どの目標にも障害については明記されていません。女性については書かれているものの、女性のなかにも障害のある人がいる事は見落とされています。子供たちへの教育についても取り上げられていますが、障害児について何も書かれていません。社会開発に向けてのMDGsとしては、私から見れば不十分に思えます。「インクルーシブな開発」が喧伝されているにもかかわらず、障害者は排除されているのが現状と言わざるをえません。しかし、なんらかの障害をもっている人は、世界の人口の約15%を構成しているというのも現実です。このことは、2011年に世界保健機構と世界銀行が一緒に出した報告書にも書かれています。
私は、障害者のような周辺化されている人々こそ、開発プロセスに取り込んでいくことが必要だと感じています。ポスト2015年の新しい目標では、障害者も対象として取り上げ、その目標の中に明記し、優先事項にするべきです。MDGsの目標は途上国を中心に考えられたものですが、15%の障害者のうち約80%は途上国に住んでいますから、そのような人々が貧困から脱却して社会へ参加するには、障害者を含めた目標は不可欠です。そのためには、私たちが何をすれば障害のある人々の生活を変える事が出来るのか、そのような人々の生活が変わる事によって社会にどのようなメリットがあるのかを、研究によって証明したいと思っています。

研究の成果を近々どこかで発表する予定はありますか。

この4月末にハワイ大学で開催される「障害と多様性:Disability and Diversity」に関する学会で基調講演を依頼されており、「なぜポストMDGsにおいて障害者問題を取り上げなければいけないか?」について講演をする予定です。障害者は、障害のない人に比べて貧困の罠に陥るリスクが高いのが現実です。しかしその一方で、障害者が高度な教育を受ければ受けるほど貧困から抜け出す確率が高くなることも、私の研究から明らかになっています。こうした分析結果に基づいた講演をする予定です。

5月末には、フィンランドにて開催される北欧地域での障害研究の学会に出席します。ここでは、ネパールの一般の学校において、視覚障害のある先生が障害のない子供たちに対して、障害のない先生と同じような方法で一般科目を教えている事例を紹介したいと思っています。この事例は、障害の有無にかかわらず、同じ環境で仕事をすることが出来ることを示す重要なエビデンスだと思います。実はこういった実践は、先進国の中でもほとんど前例がなく、ネパールが誇る「インクルーシブな雇用のモデル」として位置付けることができると考えています。

最後に、研究を通じて最終的に何を達成したいか、長期の到達目標・ビジョンを教えていただけますか

「障害者がどのようにして社会への参加と経済的な自立ができるか」、その答えを解き明かすことが私の目指している最終的な研究目標です。いろいろな状況下で、人間はお互い依存し、それぞれ持っている異なった能力を生かしながら共存しているのだと思います。そのことを念頭に置いた上で、女性やその他の周辺化されている人々に対する差別や、障害者に対して障害のない人からの差別を減らす事が大切です。差別、偏見、不平等、貧困をなくしていけるような総合的な研究を今後も続けていく、これがわたしのミッションだと考えています。

【関連サイト】
インタビュー動画 「障がいのある人の経済的自立と、社会へのインクルージョンの実現に教育がいかに貢献できるか」(外部サイト:YouTube) 映像提供:Kantipur Television(ネパール)

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