インタビュー【JICA-RIフォーカス 第23号】 村田旭研究員に聞く

2013.08.26

村田旭研究員に聞く

村田研究員は、2012年5月以来JICA研究所の研究員として、フィリピン、バングラデシュ、および中東・北アフリカにおける3つの研究プロジェクトを担当しています。近く、フィリピン農村部における成長と貧困削減をテーマとしたワーキングペーパーを発表する予定です。また10月初頭にフィリピンのマニラで開催される政府関係機関主催による会議でも、そのペーパーの内容に基づく発表を行う予定です。
今回は、村田研究員が研究所に所属する以前の研究や、研究所で現在携わっている研究プロジェクトについてお話を伺いました。

まず、どのようなきっかけから国際協力分野の研究に携わるようになったのでしょうか。

学生のころから、日本の政府開発援助(ODA)がどのように途上国の人々に貢献しているのかに関心がありました。直接のきっかけとなったのは、大学4年生になって、卒業論文のテーマを模索していた時でした。指導教官から、漠然とODAについて調べるのではなく、1つの開発プロジェクトについて調べてはどうかとアドバイスされ、フィリピンのバタンガス港湾における日本のODAプロジェクトに着目しました。バタンガス港はメトロマニラの南方110kmに位置しています。プロジェクトでは、接岸施設や後背地が極めて狭くて混雑しているために、効率的な港湾運営が不可能であった港を国際的な港湾へと整備・拡張することにより、物流の効率化による周辺地域の開発促進・交通環境改善を目的としています。このプロジェクトでは、その港湾地域居住者の住民移転などの対策も行われていました。実際の調査では、報告書やレポートだけでなく、自らフィリピンの国際協力銀行(JBIC)マニラ事務所を訪問し、初めて現地で地域住民に聞き取りを試みるなど、今考えるとその後の研究生活に非常に有益な経験を積むことができました。

JICA研究所に所属される前の経歴についてお話しいただけますか。どのような研究テーマが中心だったのでしょうか。

留学生として、英国のサセックス大学の博士課程で「海外送金」をテーマにした研究をしていました。今考えると留学時代は、日本ではなかなか馴染みのない移民問題に関して様々な視点から議論する機会を得られたのはとても貴重な経験でした。例えば、博士課程も後半に差し掛かり、そろそろラストスパートという時に、フィリピン中央銀行主催の「海外送金」に関する会議に招待していただきました。その際、国際移住機関(IOM)や国際労働機関(ILO)といった国際機関のスタッフと知り合い、ネットワークを築くことができました。後にこの両機関で併せて7か月間程、インターンとしてフィリピンでの業務に参加する機会を得ました。このときに築いたネットワークは今も継続しています。私自身、英国で論文を書き上げるよりも、直接フィリピンで現場の声を聞きながら研究をまとめ、発表したいと考えていた矢先でしたので、非常によいタイミングでした。

その後、インターンをしていた時に出会ったアジア開発銀行(ADB)の職員から、「海外送金」に関する研究を手伝ってほしいと依頼され、2010年の3月からコンサルタントとして採用されました。私が主に担当したことは、2009年の世界金融危機が如何に海外出稼ぎ労働者からの海外送金に影響を与え、家計はどのようにその影響に対処しているかを調査することでした。その際、家計調査票の作成の仕方、グループディスカッションの実施など、研究者としてデータ分析をするだけではなく、実際の調査に必要な家計調査をゼロから準備する知識を身に着けることができました。また、専門分野である家計調査データの分析を用いてADBが毎年発行している報告書「Key Indicators 2010」の作成作業などにも関わりました。その後、世界銀行コンサルタント、フィリピン開発研究所客員研究員などを通して、フィリピンを中心として研究者・実務家とのネットワークを広げたことは、現在のJICA研究所での研究業務にも大変役立っています。

研究所では、3つの研究プロジェクトを担当されていますが、近くワーキングペーパーとして発表されるフィリピンでの研究プロジェクトを中心にお話いただけますか。

ワーキングペーパーのタイトルは『Ex-post risk management among rural Filipino farm households』です。この研究は、2010年に研究所がフィリピンの3地域で実施した農村家計調査を用いて、災害時あるいは経済的な困難に直面した際に、家計がどのような対処法を選択しているのかを分析しています。

フィリピンの農村部は、台風、洪水、干ばつなどの自然災害による広範囲におよぶ負のショックから、家族の病気・怪我・死亡による個々の家計レベルでの負のショックまで様々な影響を受けやすく、経済的にとても脆弱です。このような負のショックの影響を受けた家計は、それぞれ個別に対処法を選択しています。例えば、1)貯蓄の取崩し・資産の売却 2)コミュニティや銀行などからの資金繰り・家族・親戚からの送金、3)家族内での労働力の再調整などが考えられます。

本研究では、ショックのタイプ・頻度、個々の家計の特徴、村レベルでの農業インフラや金融へのアクセスなどの要因をコントロールしながら、フィリピン農村家計がいかなる対処法を選択しているかを分析しています。分析結果を踏まえて、経済的に脆弱な農村家計への支援策として、収入源をひとつに頼らないこと、農業インフラのさらなる整備を進めること、社会的な保護をすすめることの必要性を指摘しています。

その他の研究プロジェクトについて簡単に現状を紹介しますと、「バングラデシュにおけるリスクと貧困」プロジェクトについては、いくつかの重要な研究事例を書籍としてまとめることで現在複数の研究者と調整中です。「中東・北アフリカにおけるアラブの春後の包摂成長に関するブルッキングス研究所との共同研究」では、若年層の失業問題をテーマとして、エジプトにおいて工学部の大学生を対象に職業選好に関する聞き取り調査を実施しています。ブルッキングス研究所と共催で、10月頃に東京で関連のワークショップを実施予定です。本研究の最終成果は、来年の1月にワーキングペーパーとして発表予定です。
(両プロジェクトともに2013年7月現在)

最後に、途上国での調査は、現地の政治・経済的な情勢が不安定なことが多く、柔軟な対応が求められます。こちらが思い描いたように事が進むのはまれですので、選択肢をいくつか用意した上で計画を立てる必要性をいつも念頭に置いています。しっかりと準備をした後は、「ポジティブでいる」ことを考えています。

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