インタビュー【JICA-RIフォーカス 第25号】 下田恭美研究員に聞く

2013.12.11

下田恭美研究員に聞く

下田研究員は、現在、事例研究に基づくCD(キャパシティ・デベロップメント、能力強化)アプローチの再検証と南南・三角協力の二つの研究テーマを担当しています。南南・三角協力では、今年2013年10月28日から11月1日にかけてナイロビで開催された国連南南協力エキスポで配布した冊子『Tackling Global Challenges Through Triangular Cooperation』のなかで、JICAが支援しているトルコと近隣諸国間の省エネ分野の三角協力についての事例を紹介しています。
今回、以前JICAインドネシア事務所で担当した南南・三角協力を中心とした活動や、研究所で現在取り組んでいる研究プロジェクトについて語ってくれました。

2004年から2007年にかけて、JICAインドネシア事務所でのご担当業務についてお話しいただけますか。

私がインドネシア事務所で企画調査員として南南協力を担当していたのは、ちょうどJICA本部に南南協力タスクフォースが設置され、組織として南南協力が推進されていた時期でした。インドネシアでの主な担当業務は、三角協力で実施していた第三国研修、第三国専門家派遣に係る企画・運営などでした。インドネシア事務所はJICAの在外事務所の中でも規模が大きく、当時はナショナルスタッフを含めると約80人が勤務していました。日々の業務は、経験豊かなナショナルスタッフによって担われており、私はそうしたスタッフに支えられながらインドネシア政府機関との情報交換、南南・三角協力や研修全般に係るニーズ調査、関連調査団の受け入れなどについて日本側と調整していました。近年、国際開発分野において南南・三角協力がクローズアップされていますが、それ以前からJICAは三角協力を推進していて、インドネシアでもアジア・アフリカ諸国の関係機関から研修員を招いて様々な分野で研修を行ったり、インドネシア人専門家を要請のあった国に派遣していました。こういった環境のなかで、南南協力や研修事業をゼロから学ぶことができました。 また、当時、JICAが中心となって、ASEAN諸国の政府や開発援助機関などと協力し、南南・三角協力のニーズとリソースのマッチングを行っていた年次会合JARCOM (Japan-ASEAN Regional Cooperation Meeting)にも参加しました。そのおかげで、毎年数日間ですが、ASEAN各国のJICA事務所のスタッフ、関係機関の方々と直接顔を合わせてゆっくり意見交換する機会に恵まれ、貴重な経験となりました。

その後、西オーストラリア大学の大学院博士課程では、どういった研究をされていましたか。また、どういうきっかけでJICA研究所に入ることになったのでしょうか。

私が博士課程を取ったのは、インドネシアに近い西オーストラリア大学でした。博士論文のテーマは、インドネシアの日系企業や日系機関などで働く日本人駐在員とインドネシア人スタッフとの関係についてでした。受入国と隔離された生活や仕事をしていると思われている日本人を含む海外勤務者と、現地の人々との交流について人類学のミクロの視点から研究したもので、根底にあったのは、現地の人との接点があるからこそ、駐在員の仕事や生活が成り立つという考えです。インドネシア事務所での経験がなければ、このテーマは扱っていなかったと思います。事務所でナショナルスタッフと共に働き、彼らから教わったことや、助けられた経験がきっかけとなっています。ジャカルタの日系機関で一年間インターンとして勤務しながら調査を実施し、130人以上の日本人やインドネシア人へのインタビューと参与観察によって収集したデータをもとに論文を執筆しました。 JICA研究所の求人を知ったのは、ちょうど博士論文の審査結果が出る頃でした。JREC-INという研究者人材データベースで「CD研究(南南協力)」分野で募集があり、インドネシア事務所での企画調査員時代の経験と大学で学んだことが生かせるのではないかと考えて応募しました。JICA研究所で仕事が得られたのは、応募時期のタイミングと、私のインドネシアでの三角協力の経験、さらに大学院の研究、すべてがうまくマッチングしたのだと思っています。

研究所で現在担当されている研究案件は何でしょうか。

昨年から担当しているのは、南南・三角協力とCDの事例研究です。今年(10月28日から11月1日)、ケニアのナイロビにおいて、国連南南協力事務所(UNOSSC)とパートナーの国連機関(UNEP)の共催により国連南南協力EXPO2013がアフリカで初めて開催されました。JICA研究所では、この国連南南協力EXPOに向けた南南・三角協力事例集を昨年に引き続き作成しました。この事例集では、本年度のテーマである、「環境・グリーンエコノミー」を意識した事例を多く取り上げ、私個人は、JICAと協力しながらトルコが近隣諸国と共に取り組んでいる省エネ分野の三角協力についての章「A Process of Scaling Up: Initiatives for Energy Conservation by Turkey and Neighbouring Countries」を執筆しました。 また、2003年から取り組んでいるCD国別事例研究では、インドネシアのスラウェシにおける地方行政の能力強化に係るCDについて研究を行っています。インドネシアでは、1990年代後半から政府主導で地方分権化が進められ、JICAだけでなく他のドナーからも支援を受けながら、地域社会の開発に係る能力強化に取り組んでいます。この研究では、そのプロセスを中央レベルからコミュニティレベルまで追いながら、彼らの取り組みを検証する予定です。現在、文献レビューや関係者から情報収集を行っており、将来的にはワーキングペーパーとしてまとめる考えです。

最後に今後の抱負や、座右の銘とかありましたら、教えてください。また、国際協力、開発研究部門に進むことを考えている後輩へのアドバイスがありましたら、合わせてお願いいたします。

抱負とは言えないかもしれませんが、「研究」と「実務」の間を繋ぐ研究をしたいと考えています。ただ、実際は、研究者と実務者が「研究」に求めるものには、ずれがあり、そのバランスを取るのが難しいと感じています。この二つの橋渡しをどうやったらできるのか、それが今の課題です。 わたしの座右の銘は、「思い続ければ夢は叶う」です。また、日中友好に奔走した岡崎喜平太氏の「人の身になって考えよう」という言葉が人間関係の基本だと考え、それを頭において研究に取り組むようにしています。 国際協力を目指している方へのアドバイスとして、私自身の経験からしか言えませんが、国際協力には様々な形態があり、政府機関、民間、NGOなどどういう立場で関わるかによっても活動が異なります。自分がどういった国際協力をしたいのか、何に向いているかを知るには、いろいろな経験が役に立つのではないでしょうか。私も何度かの転職を経て、今この研究所にいます。自分の思い込みで道を狭めたりせず、様々な経験をするために多少の寄り道はしてもよいのではないかと思います。

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