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【コロナ関連インタビュー】牧本小枝上席研究員に聞く

2020.06.24

新型コロナウイルスの世界的な感染拡大を受け、JICAは「新型コロナウイルス対策に関する比較・実践的研究会」を立ち上げ、2020年5月31日、簡易分析結果と今後の取り組みのコミットメントをまとめた「To Our Friends and Partners Fighting Against COVID-19 In Developing Countries」を公開しました。

この取りまとめにあたったメンバーの一人、JICA緒方貞子平和開発研究所(JICA緒方研究所)の牧本小枝上席研究員に、この発信の目的や込められたメッセージ、そして今後JICA緒方研究所が果たすべき役割について聞きました。

JICAのパートナーである開発途上国の人々へのメッセージ

—この発信の目的と経緯について教えてください。

COVID-19パンデミックは、先進国、開発途上国双方に大きな影響を与えており、今後世界・社会の在り方にも大きな影響を及ぼしうると考えられます。JICAのパートナーは、まさに今、COVID-19に立ち向かっている途上国の人々です。彼らに対して、JICAがこのパンデミックの影響をどう分析し、途上国の状況や取り組みをどう理解しているか、COVID-19の第一波の影響を先に受けた国々からのどんな教訓を踏まえて今後の流行に備えるか、またさらなる国際協力にどう取り組んでいくかについてメッセージを伝えたい、という北岡伸一JICA理事長の強い想いを受けて、立ち上がった取り組みです。

2020年4月、JICA職員、専門員、外部の有識者らの合同チームによる「新型コロナウイルス対策に関する比較・実践的研究会」が立ち上がりました。私はJICAでの保健医療人材として、そしてJICA緒方研究所からのメンバーとして参加しました。2020年5月末の発信は情勢が動く中での短期での分析でしたので、今後はこれをJICA緒方研究所の研究プロジェクトに移行し、政策提言につながる分析・研究を進めていく予定です。

途上国と共に歩むJICAの強みを生かして

—メッセージの概要と、最も伝えたいことは何ですか?

COVID-19の流行に立ち向かう途上国の人々への北岡理事長のメッセージ、日本や世界の現状分析、データの国際比較を交えた考察、そしてJICAのコミットメントが示されています。

これをまとめるにあたり、世界各国で多様なセクターで長年協働しているJICAの強みを生かそうとしたことが特徴です。具体的には、JICAの100近くに上る在外事務所のネットワークを駆使し、現地での情報収集と、各国のカウンターパート、政府リーダー、有識者らへのインタビューを実施するなどして、その国におけるCOVID-19の社会への影響と対策の状況、創意工夫、人々のJICAへの期待などについて幅広く把握を試みました。COVID-19は数カ月で世界中に拡散するスピードを見せましたが、多くの途上国政府が、過去の感染症や災害の対応経験、他国の対応情報、判明している科学的エビデンスなどを得て、早期から徹底した対策に取り組んでいる状況や、世界的な医療資機材不足と先進国からの支援が限られる中で、物資供給や感染予防などの国民によるアクションが、多くの国で自発的に、セクターを超え連帯して進められていることが分かりました。その一方で、ロックダウンなどの強い対策の反動が脆弱層にしわ寄せとして起こっている社会の脆弱性の実態も見えました。これは、各在外事務所が日頃の信頼関係で培ってきたネットワークがあったからこそ短期でも収集できた情報です。

そして、JICAはこれまでも日本の経験・知見の活用を重視してきたことから、日本におけるCOVID-19対応の整理、国際機関などのデータを活用した国際比較分析も行いました。例えば、1人当たりGDPや肥満率、高齢化率、都市居住人口の割合を示す都市居住率といったデータと、COVID-19による単位人口あたりの死亡数を相関分析し、傾向の分析をしています。

このような現場からの生きた情報や生の声と、より客観的なデータ比較を踏まえながら、JICAは、途上国の人々と、今まで以上にCOVID-19への対応、中長期的な保健システム強化と社会づくりに取り組んでいく—。今回の発信は、まさにそのメッセージの表れなのです。

保健システム強化に向けた新しい研究で変化を生み出す

—今回の発信を踏まえ、今後JICA緒方研究所はどのように関わっていくのですか?

COVID-19に関する世界の状況は常に動いており、今回の分析はまだ暫定的な段階です。東アジア諸国もCOVID-19による死亡が少ないですが、この1カ月弱の短い分析を通して、興味深いことが分かってきました。同じような高齢化率の国と比較して、日本は飛び抜けてCOVID-19による死亡率を低く抑えられています。介護・高齢者施設での死亡率の低さも特徴的です。それは日本にどういう要因があったからなのか、今後分析して発信していくことは、多くの国から関心が持たれるところではないかと思います。

同じような高齢化率の国と比較すると日本はCOVID-19による死亡率が低い

さまざまな仮説が議論されていますが、医療・公衆衛生体制の充実や、介護・高齢者施設での感染予防などの対応、日本人の健康意識の高さや感染予防のための一人一人の行動様式などは、国際協力で共有可能な知であると思います。今後の研究の柱の一つとして、日本が保健システムを強化してきた長年の経験を、COVID-19対策に関連づけて発信できるのではないかと考えています。

他方で、COVID-19はこれまでの感染症対策や保健システム強化では、今日的な脅威に十分対応できないことを私たちに突き付けています。特に社会的に脆弱な立場にある人々が十分守られていない事実、多くの国で見られた医療崩壊、あらゆるセクターで健康リスクファクターに取り組む必要性などです。これまで以上にマルチセクトラルなアプローチや科学的根拠に基づいた協力、そして国民のエンパワメントを通じた連帯の強化が必要でしょう。まさに今、この脅威に対応しようと世界中の研究者や実務者が取り組んでいます。JICAもJICAならではの視点をより事業に反映すべきであり、JICA緒方研究所ではそれに資する研究を進めていきたいと考えています。

■牧本小枝上席研究員プロフィール
東京大学大学院医学系研究科修士課程修了。1995年にJICAに入団(当時)。医療協力部、国際保健機関西太平洋地域事務局拡大予防接種課への出向、無償資金協力部、企画部、人間開発部感染症対策チーム、バングラデシュ事務所、人間開発部保健グループ、ラオス事務所を経て、2017年8月から現職。

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