jica 独立行政法人 国際協力機構 jica 独立行政法人 国際協力機構

【開発インパクトの測り方コラムシリーズ第4回】インフラ整備によりどのような開発インパクトが生まれるか?

2026.02.06

全4回の本コラムシリーズでは、「開発インパクト」を学術的にどのように測るかを紹介します。農業、教育、保健、インフラの分野を例に、多様な研究手法を取り上げながら、国際的な学術水準に基づくエビデンスが政策や事業の改善にどのように役立つのかについて考えていきます。

交通インフラ整備には巨額の公費が投じられています。一方、交通インフラは、自らがアクセスしなければそのサービスを受けられないもので、どこでも、誰にでも等しく恩恵をもたらすものではありません。したがって、インフラ整備によって人々の生活や行動がどのように変わるのか、その社会経済的影響の規模や持続性、そして効果の異質性(場所や人による違い)を正しく理解することは、開発計画を立てる上で重要です。 

ここでは、特に都市交通インフラに焦点を当て、最新の研究成果から得られた知見をご紹介します。

執筆者:山田英嗣 経済成長と貧困削減領域 主任研究員)

(写真:JICA/久野真一)

(写真:JICA/久野真一)

インフラ整備で「渋滞」はなくなりますか?

都市交通インフラの主目的で、かつ多くの人が期待するのが、渋滞の解消です。最近の研究では、都市鉄道は渋滞を緩和するという結果が示されています。渋滞が緩和されたかどうかの実証は、伝統的には鉄道開業の前後に主要道路上で車両速度を実測するといった手法が中心ですが、最近はGoogle Mapsなどの地図アプリのルート検索機能などを使った研究ができるようになってきています。1

Gu et al. (2021) は、Baidu(百度)マップのルート検索データを活用し、中国で過去20年程度の間に開業した45の地下鉄路線において、開通後に周辺の道路スピードが約4%向上したことを示しました。JICAの円借款により建設され、2022年末に開業したバングラデシュのダッカMRTについても、Google Mapのルート検索データを使った評価で開業後に道路上の車両スピードの増加が確認されており、交通流が改善したことがうかがえます(Yamada and Jiang, 2025 )。

開発途上国では、BRT(Bus Rapid Transit)の導入も幅広く進められています。例えば、インドネシアのジャカルタにおけるTransJakartaは、総駅数200、13路線を持つ世界有数のBRTシステムです。その初期の整備の効果を計測したGaduh et al. (2022) 2は、実はBRTが渋滞削減に失敗したことを示しています。既存の一般車線をそのままBRT専用レーンに作り替えるというコスト重視の開発を行った結果、道路の容量が減ってかえって激しい渋滞を招くこととなりました。BRTが通っても、その周辺での自家用車の保有は減らず、混雑も減りませんでした。

都市交通インフラ整備のもう一つの目的は、渋滞が減少することの副次的効果である大気汚染の緩和です。Goel and Gupta (2017) 3は、インドのデリーメトロ(地下鉄)の延伸によって、その周辺の一酸化炭素(CO)の濃度が一時的に34%削減されたことを報告しています。

また、中長期的に効果が持続することもわかってきています。衛星画像のデータを活用して、世界121都市の変化を時系列で比較したGendron-Carrier et al. (2022) 4によれば、もともと大気汚染が深刻な都市では地下鉄の開通で大気汚染物質が4%減少し、その効果は4年ほど持続することが示されています。また、年間で約10億ドル分もの死亡率低下メリットがあることがわかっています。

「差の差分析」によるダッカMRT6号線の車両スピードへの効果 (Yamada and Jiang 2025)

「差の差分析」によるダッカMRT6号線の車両スピードへの効果 (Yamada and Jiang 2025)

インフラ整備の恩恵は全ての人が等しく受けますか?

同じ場所に住んでいても、人によってインフラから受ける影響に違いがあることもわかってきています。ペルーのリマで整備されたBRTやLRT(Light Rail Transit)に関する研究(Martinez et al. 2020 )5では、BRTやLRTの近くで女性の雇用が10%増え、収入は23%増加しましたが、男性の雇用には影響がありませんでした。

この背景には、女性の方が家事負担が重く、移動時間がより大きなストレスになっていることがあると考えられます。妻の移動コストが高いことを反映して、共働き世帯は「妻の職場」に近い家に住む傾向がありますが、BRTやLRTがビジネスエリアへの移動時間を削減したことで妻の職場が実質的に近くなり、その結果として女性の雇用が増えたと考えられます。6なお、北京における研究(Barwick et al. 2024 ) 7でも、家族は夫の通勤を減らすより「妻の通勤」を減らすことに18%も多くのお金を払う(=家賃を払う)価値があると考えていることが示されています。

インフラ整備に伴う「居住地の移動」も重要な問題です。用地取得に伴う立ち退きが多くのインフラ事業ではやむを得ず発生しますが、インフラは自発的な人の移動も生じさせます。タンザニア、ダルエスサラームでの BRT に関する研究(Balboni et al. 2025 8)では、BRTの沿線では、もともと住んでいた世帯が、より所得の高い世帯に置き換わっていることがわかりました。BRT整備の結果、地価が上がり、より高い地価を払える人たちが移入して、もともといた所得の低い人々を置き換える(Gentrification)ことになったようです9

一方、メキシコシティのMRTをケーススタディとしたZárate (2022) 10では、路線が低所得地域とビジネスエリアを結ぶ場合、低所得層の雇用が拡大し、インフォーマルセクターからフォーマルセクターでの労働にシフトしていくことが分かりました。これは、インフラをどのように配置するかによって、格差を拡大するのか縮小するのかに影響しうることを示しています。

インフラ整備を他の政策とどのように組み合わせれば、より大きな開発インパクトを生み出せますか?

インフラそのものの効果だけでなく、インフラ整備と合わせてどのような政策を実施すべきかも、重要な論点です。Barwick et al. (2024) は北京の交通サーベイのデータを使い、地下鉄建設に加え「車両通行規制」や「混雑税」といった交通規制を行う場合の複合的な効果について、シミュレーションによる評価を試みています。地下鉄は渋滞を緩和しますが、地下鉄の拡張に加えて、走った距離に応じて課金する「混雑税」を組み合わせることが最も効率的で、社会全体の厚生(平均的な実質所得で計測)を3%分高めることを明らかにしています。しかも、混雑税による収入で地下鉄の建設コストをすべて賄うことも可能という試算になっています。

都市交通インフラによる経済効果の最大化には、街づくりのルールである土地利用政策との連携が重要なことも複数の研究で指摘されています。基本的に必要とされるのは、土地利用の規制緩和(高さ制限の緩和)です。その効果は大きく、コロンビアのボゴタにおけるBRT(TransMilenio)の研究Tsivanidis (2023) 11では、規制緩和を適切に行っていれば、得られた社会的厚生(平均実質所得)はさらに40%高まっていたはずだとしています。インドのベンガルールは厳しい高さ制限が適用されていますが、Chen et al. (2024) によれば「公共交通指向型開発(TOD)」の一環として高さ制限を緩和していれば、街全体の生産性や社会的厚生は数倍増大するとしています。12

ここまで、主に開発経済学の分野で都市交通インフラの効果に関する研究を紹介してきました。様々な切り口から場所や人の属性による効果の違い、その持続性など、多くのことが分かってきています。一方で、開発経済学からの知見を実際に開発計画に活かしていくための対話が、今後より一層重要になっていくと考えます。


[1]具体的には、Google Mapsなどに対し、都市圏の様々な地点間でのルート検索を長期間・高頻度で自動的に行って所要時間のデータベースを構成した上で、差の差分析などを用いてインフラ導入の効果を計測するといった方法があります。Google Mapsを活用した所要時間データの構築については、Akbar, Prottoy, Victor Couture, Gilles Duranton, and Adam Storeygard. 2023. "Mobility and Congestion in Urban India." American Economic Review 113 (4): 1083–1111. に詳細があります。

[2]JICAがジャカルタ首都圏総合交通計画調査(2000年~2004年)およびJABODETABEK 地域公共交通戦略策定支援プロジェクト(2011年~2012年)において実施したパーソントリップ調査のデータが使用されているます。前者の調査がBRT開業前、後者が開業後に行われているため、それらをベースライン・エンドラインのデータとして、BRTに近接している場所と離れた場所の差を前後で比較する、差の差分析を行っています。

[3]この研究ではデリー市内の複数地点で日次定点観測されていた汚染物質濃度(SOxやPMなど)が、開業日を境に統計的に有意に減少したことをRegression Discontinuity(回帰不連続)デザインという手法で推定しています。

[4]ここで使われている手法は、差の差(Difference in Difference)分析です。

[5] BRTおよびLRTの開業前(2007年)と開業後(2017年)のNational Household Surveyと、JICAの2005年都市交通マスタープランのパーソントリップ調査個票を使用し、差の差分析で計測しています。

[6] Seki, Mai, and Eiji Yamada. 2020. Heterogeneous Effects of Urban Public Transportation on Employment by Gender:Evidence from Delhi Metro. JICA-RI Working Paperでは、人口センサスのデータを使いデリーメトロの近傍で開業後に女性の就業割合が増加したことを示しています。

[7] 北京市のパーソントリップ調査および住宅ローンデータの個票を主なデータとし、観測されたデータが市場均衡として実現するような経済モデルを作った上で、仮想的な政策によって市場均衡がどのように変化するかをシミュレーションしています。

[8]BRTの整備前にベースライン、整備後にエンドラインとして家計パネル調査を実施。ベースライン時点から引っ越した家計の追跡、引っ越した家計の家にエンドライン時に転入してきた家計のデータも取得することで、BRT開業に伴う置き換わりを分析しています。

[9]Akbar (2025)によるアメリカの都市を対象とした研究では、高所得層は鉄道、低所得層はバスと利用手段が分かれやすく、鉄道整備が進むほど駅周辺に高所得層が集中し、居住地の分断や格差が広がる傾向が確認されています。

[10] MRT開業の前後に実施された人口センサス・経済センサスのデータを使用して差の差分析を適用しています。

[11]JICAが1995年に実施した「パーソントリップ調査」を主要なデータとして活用しています。

[12]Tsivanidis (2023)、Chen et al.(2024)とも、Barwick et al.(2024)同様、センサスや住宅取引のマイクロデータで観測される状況を市場均衡として実現するモデルを作り、規制緩和の効果をシミュレーションしています。開業に伴う地価上昇によりLand Value Captureが可能なことも示しています。ただ、開業後直ちに不動産価格が上昇するとは限らず、Shimizutani, Satoshi, Tomoyoshi Suzuki, and Eiji Yamada. 2025 ‘The Impact of Urban Transportation Investment on Property Values: Evidence from the Jakarta Mass Rapid Transit’. Asian Development Reviewでは、ジャカルタMRT近傍のオフィスの賃料がMRT開業に伴って有意下がったという結果を得ています。

※本稿は著者個人の見解を表したもので、JICA、またはJICA緒方研究所の見解を示すものではありません。

■プロフィール
山田 英嗣(やまだ えいじ)
JICA緒方貞子平和開発研究所研究員。2008年4月から国際協力銀行(JBIC)入行(同年10月JICAに統合)、南アジア部第5課(バングラデシュ担当)、総務部金融リスク管理課を経て、2014年から現職。バングラデシュ事務所、南アジア部第4課と兼務。

関連する研究者

\SNSでシェア!/

  • X (Twitter)
  • linkedIn
トピックス一覧

RECOMMENDこの記事と同じタグのコンテンツ