能力開発の核心は「相互学習と協働」 コロンビアのスラム再開発を現地調査
2011.02.24
モノやカネを与える援助から、途上国の自立を促し、途上国自身が問題解決能力を高められるような支援へ——。こうした潮流が世界的に強まる中、キーワードとして注目されているのが「能力開発」(キャパシティ・ディベロップメント=CD*1参照ですJICA研究所は、国際協力の現場でこのCDのコンセプトを反映できるようODA対象国・地域のコンテキスト、プロジェクトの分野やタイプに合わせた支援アプローチやCDの適用可能性を明確化することを目指しています。
CDなくして持続的発展なし
「持続的発展を可能にするのは資金や、資材・技術といったハードだけではなく、それを動かすソフト、すなわち人や組織の力。CDのプロセスが回り続ければ、援助を受ける側が成長していく。CDは途上国開発、そして国際協力の重要な原動力となりうる」こう話すのは、JICA研究所でCD研究に携わる佐藤峰リサーチ・アソシエイト(RA)です。
CDの重要性はすでに、世界の援助関係者の間で広く認識されています。ただ、CDのプロセスにはどんな要素が絡み、それらがどのように相互に作用するのか、どのように支援すればよいのかといった「実体」は十分解明されていません。このため、実際のODA事業にCDの考えをうまく組み込むのが難しく、CDという概念と協力の現場の間には距離があるというのが実態です。
こうした背景から立ち上がったJICA研究所の「事例分析に基づくCDアプローチの再検証」研究プロジェクト(メンバーは細野昭雄上席研究員、本田俊一郎RA、佐藤RAら)では、JICAがこれまで手がけてきた多くのODA事業の中から、キャパシティの向上に寄与したグッドプラクティス(好事例)を選び、これらをCDの視点から検証。CDプロセスを体系化することによって、CDの考えを現場レベルで活かしていくことを目指すというのが狙いです。
研究事例の1つとしてメンバーが着目したのが、コロンビア第2の都市メデジンの区画整理・都市計画事業です。メデジンはかつて悪名高い犯罪都市でしたが、今日は平和な街に変貌しつつあります。そのプロセスの中で大きな役割を担った人たちの中にJICAの研修を受けた人たちがいました。
画期的な都市交通手段としてのロープウェー建設
盆地にあるメデジン市を取り囲む傾斜地には、面積158ヘクタール(東京ディズニーランドの約3倍)、居住者数23万人という巨大スラムがあります。今回、この広大なスラム地区の一部を再開発する、パイロットプロジェクトの行われた、ホアン・ボボ地区とその周辺を訪れ、そのプロセスがどのようなものであったかを調査しました。
「コロンビア全体の治安は最近10年間で、大きく改善しましたが、警察による強力な取り組み、政府の、一部武装勢力との合意などがその背景として指摘されています。 しかし、メデジン市の場合、他の主要都市を超える治安の改善がありました。この都市の場合、地味で着実なスラムの再開発などの努力を市政府が、住民と共に進めてきたことが重要であったと考えられます。」(細野上席研究員)
メデジンの場合、治安改善の、突破口の役割を果たしたのはロープウェーでした。スラムの広がるメデジン北西部の傾斜地の中心部に通勤・通学用のロープウェーを造ったのです。これが絶大な効果を生みました。
「観光用のロープウェーは世界中にたくさんあるが、公共交通機関として利用されているのはここが初めて。受益者のほとんどが低所得者層というのもユニークだ」(細野上席研究員)
Photo: provided by Empresa de desarrollo
Urbano - EDU (Medellin)
このロープウェーはメデジン市を横断する鉄道につながっているので、スラム住民にとっては通勤・通学の所要時間が大きく短縮されて所得の改善につながる一方、警察の活動も容易になり、治安も改善されたのです。メデジン市内の殺人率が、1991年の人口10万人あたり、381人から、2007年には、26人にまで減少したと発表されています。(メデジン市資料)
ロープウェーの開通と併せて、ホアン・ボボ地区のような、駅周辺の土地も区画整理され、粗末な家の代わりに5~6階建ての共同住宅が多く建てられました。利用できる空間が増えたことから、道路は拡幅され、またコミュニティーの核となる公共施設として学校や図書館、公園なども整備されていきました。駅の近くには銀行の支店も置かれました。
このロープウェーと都市再開発を起爆剤に、スラムの環境は大きく変わっていったのです。
JICAの元研修生たちが活躍
この事例の詳細を検証するため、細野上席研究員は2011年2月11~15日、コロンビアのボゴタとメデジンで現地調査をしました。目的は、再開発事業の進ちょく状況の確認、その関係者へのヒアリングなどです。
コロンビア政府、ボゴタ、メデジンなどの主要都市の都市開発・計画を担当する部門は、かねてから、低所得者向けの住宅建設や、都市交通の充実などにより、都市の再開発を目指す努力を行ってきました。その中には、JICA帯広国際研修センター「都市計画・土地区画整理」コース(*2参照)に参加した修了生も少なくなく、日本での土地区画整理を参考にした、事業を行ってきています。例えば、ボゴタ、メデジンの地区計画にそれは生かされています。そうした経験は、貧困地区での都市再開発のあり方を考えていく際にも役立ったと考えられます。
メデジンでは、ホアン・ボボ地区で、住民のリーダーの一人として、再開発に関わった人や、市政府と住民との橋渡しをしたメデジン市の都市開発公社の職員から話を聞くことが出来ましたが、再開発のプロセスで、市政府と職員がお互いに理解しあい、信頼しあうようになったことが、成功の重要な要因であったこと、話し合いを通じて、再開発の具体的方法を考えていったこと、その間に、主婦たちの委員会ができたことなどが確認できました。このプロセスは、行政にとっても、住民にとっても、CDのプロセスであったと考えられます。
JICA研究所は、途上国でのCDプロセスを強化するためのファクター(*1参照)として「オーナーシップ」「CD変化プロセスの起爆剤(環境や制度など)」「相互学習と協働」「スケールアップのための戦略」「支援」の5つを挙げています。
メデジンの事例では、たとえば「オーナーシップ」の観点からは、スラムの住民(不法占拠者)に,法的に、土地・建物などの所有権を与え、都市再開発事業への参加が促された面があると考えられます。
また「CD変化プロセスの起爆剤」について、制度面において、法律第388号が97年に施行されたことで、総合的な都市計画法制が確立していたことが挙げられます。この法律は、地方分権と地方の自主性を尊重するという理念に立ち、その市町村の整備計画の権限は市町村にあると謳っていることが特徴です。
難しいのは、これらの要素が合わさってどんな化学反応を起こしているかを把握することです。今回の現地調査で明らかになった重要な点の一つは、CDの核となる5つの要素のうち「相互学習と協働」であることです。
この点、信頼関係がなかった人たちが信頼関係を築き、皆で知恵を出し合って具体的な課題解決方法を共に考え、そして共に実行した、その協働のプロセスが、スラムの多くの問題の解決につながっていったということが出来るでしょう。
細野上席研究員は「CDの中身をより体系的に解き明かすだけでなく、ODA事業にCDの視点を組み込むことができるようにするための、いくつかのパターンを具体的事例から整理・分析したい。これを進めることにより、ガイドラインの策定や各国のCDのレベルを表せるような指標化も視野に入ってくる。CDをより包含した援助を実現できるようになれば」と今後の展望を話しています。
開発前のメデジン
Photos:リニューアルされたメデジン
provided by Empresa de desarrollo Urbano - EDU (Medellin)
関連研究領域:援助戦略
関連研究プロジェクト:事例分析に基づくCDアプローチの再検証
*1 CD研究が目指すのは自立的な途上国開発を促進する支援アプローチ
CDとは、ある課題に対して、個人や組織が対処できる能力(=キャパシティ)を、当時者意識の醸成や相互学習、さらにはそれらを支える仕組みを構築することなどによって高めること。CDプロセスの有無が援助の成否を大きく左右するとの認識もいまや一般的となっています。
CDについての調査・研究は、国連開発計画(UNDP)やOECD、ドイツ国際協力公社(GIZ)、世界銀行などの援助機関も手がけてきました。しかし、キャパシティが、人々、行政官やNGOなどの組織、それらの背景にある社会や制度、さらには援助機関からの支援が相互に関係しあいながら醸成されていくプロセスは、あたかもブラックボックスのように扱われてきました。JICA研究所のCD研究はそのブラックボックスの中身を明らかにしようとしています。
JICA研究所CD研究は、途上国でのCDプロセスを促進する鍵となる要素として次の5点を挙げています。
1)オーナーシップ=関係者の当事者意識とコミットメント
2)CD変化プロセスの起爆剤=政策・制度環境の変化やリーダーの登場など、CDプロセスを促進する起爆剤となるような変化・出来事など
3)相互学習と協働=利害関係者が具体的な課題解決方法を共同で創り出していくための相互学習、またその"場"・機会の創出
4)スケールアップのための戦略=人々のニーズや現地の文脈に根ざした課題解決方法が持続的にスケールアップしていくための道筋(戦略)や仕組み
5)支援=資金協力や技術協力などを活用した、ドナーによる効果的なCDプロセス支援
現在進行中の事例研究では、これらの要素の具体的な中身を明らかにするだけでなく、5つの要素が互いにどのように作用しあっているかの検証をめざしています。CDの要因を客観的に明らかにすることを通じ、都市化や貧困といった困難な課題に取り組む途上国をどのように支援するのがより効果的なのか、より具体的なアプローチを提示していくことを目指します。
*2 JICA帯広国際センターの研修
JICA帯広国際センターの研修の1つに、南米アンデス5カ国(ボリビア、コロンビア、エクアドル、ペルー、ベネズエラ)の行政官を対象とした「都市計画・土地区画整理」コースがありました。土地区画整理の技術を中心に日本の都市計画全般を学ぶもので(期間は2カ月半)、98~02年はコロンビアのみが対象。03~07年はアンデス5カ国に広がりました。10年間の修了者数は合計100人にのぼっています。このうち、メデジンからの研修生は10人ほどで、都市別では最多。彼らがメデジンの都市計画・区画整理事業に従事しました。2011年2月からはコロンビアで第三国研修(研修を受けたコロンビア人が中心となり、日本からも講師を派遣することにより、南米アンデス5カ国の研修生を教える)が始まりました。
JICA研究所 企画課
電話:03-3269-2357
開催日時:2011年2月11日(金)~2011年2月15日(火)
開催場所:コロンビア ボゴタ
事業事前評価表(地球規模課題対応国際科学技術協力(SATREPS)).国際協力機構 地球環境部 . 防災第一チーム. 1.案件名.国 名: フィリピン共和国.
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