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「みんなの学校プロジェクト」は地域住民のソーシャルキャピタルを高める、澤田客員研究員が日本経済学会で発表

2011.07.05

みんなの学校外観IMG_0667.JPG

「みんなの学校」プロジェクト(ブルキナファソ)

住民による話し合いの様子

JICA研究所の澤田康幸客員研究員は、熊本県熊本市の熊本学園大学で5月21~22日に開かれた日本経済学会2011年度春季大会で、「住民参加型小学校はソーシャルキャピタルを蓄積させるか?-ブルキナファソにおけるCOGES(学校運営委員会)パイロットプロジェクトのケース」のテーマで発表しました。

発表内容は、JICAが08年11月~09年6月にブルキナファソで実施した「みんなの学校プロジェクト」(*)パイロットフェーズのインパクトを評価したものです。みんなの学校プロジェクトでは、COGESと呼ばれる、地域住民らで構成する組織を作って小学校の運営に参加します。このインパクト評価では、COGES校と非GOGES校(みんなの学校プロジェクトの対象でない小学校)の関係者(児童の父と母、校長・教員、COGES執行部メンバー)を対象に、プロジェクトを通じて、これらの関係者の間でどれぐらい信頼関係が醸成されたのかを計測しました。サンプル数は延べ248人です。

計測するに当たって使用した手法は「公共財実験」と呼ばれる、実験経済学の分野では標準的な手法となっているラボ実験です。ソーシャルキャピタル(関係資本)は、ここ10年ほど、開発経済学の分野で重要な概念となってきましたが、人間関係という目に見えないものであるため、厳密に把握することは難しいという問題がありました。最近の先端研究では、公共財実験がソーシャルキャピタルを厳密に測るための有効な手法であることが明らかになっています。

澤田客員研究員らが実施した公共財実験ではまず、関係者で構成する4人1組のグループを、児童の父と母、校長・教員といった様々な組み合わせで作ります。参加者はその際、1人100CFAフラン(約17円)の硬貨5枚が与えられますが、各参加者はそこで、これらの硬貨のうち、何枚を自分のものとして確保し、残り何枚を公共財としてグループのために差し出すかという選択をします。実験のルールとして、グループのために差し出したお金は2倍に増えて戻ってきますが、その代わり公共財として集められた資金は参加者全員で平等に分配しなければならない、というルールを設定します。

この実験で、参加者がどれだけのお金を自分のために確保するか、またどれだけをグループのために差し出すか、といった意思決定のデータを計測し、COGES校と非COGES校の間で、公共財への自発的供給という意味での人々の信頼関係がどのように異なるかを比較することが可能になります。

ただし、プロジェクト対象校の選定においては、初等教育卒業試験の点数などが考慮されているため、パイロットプロジェクトにおけるCOGES校(処置群・トリートメントグループ)と非COGES校(対照群・コントロールグループ)を単純に比較するだけでは、そもそもの学校や生徒・親の違いという「セレクションバイアス」がかかってしまいます。このため、操作変数法や傾向スコア法(PSM)など計量経済学の手法を駆使して、このバイアスを取り除くなどして、結果の頑健性をチェックしています。

この結果明らかになったのは、COGES校の関係者のほうが非COGES校の関係者より、平均して多くの硬貨をグループのために差し出していること、つまりCOGES校の方が公共財の自発的供給額が有意に大きいということです。様々な計量経済学的手法の結果を比較しても、この結果は頑健となっています。これらの計量分析の結果からは、COGES校関係者の公共財への貢献額は、非COGES校関係者の貢献額の平均値よりも約16~27%多いことがわかりました。この分析結果は、COGES校の関係者の方が相互の信頼関係が高く、学校運営のために自発的に協力する傾向があるということを意味します。とりわけこの結果が顕著だったのが、COGES校の執行部メンバーです。また、COGES校において公共財の自発的供給額が2割もの有意な増加を示しているということは、受益者による費用分担を通じたプロジェクトの持続可能性を高めうる効果をCOGESプロジェクトが持っていることを示唆しています。

途上国の教育プロジェクトを通じて関係者の信頼関係・ソーシャルキャピタルがどれぐらい向上したのかを定量的に測定したのは、この研究が世界で初めてです。JICA研究所は現在、この厳密な政策インパクト評価をさらに拡大し、サンプル数6,870人(270校、うち公共財実験の対象校は42校)の本格な調査研究を進めているところです。

*)みんなの学校プロジェクト(正式名称:住民参加型学校運営改善計画)とは、小学校の校長や教師、児童の親、地域住民らで構成する「学校運営委員会」(COGES)を立ち上げることによって、住民参加の学校運営を目指す取り組み。具体的には地域社会のメンバーが、活動計画を策定し、そのための資金や労働力を提供し、教室や井戸、トイレなどの整備、地域の食材を使った給食の提供、校庭のそうじ、問題集の購入など、児童のためにより良い学習環境を作る。この教育改善プロジェクトは04年にニジェールでスタートし、セネガル、マリと広がり、ブルキナファソは4カ国目。

注)JICA研究所は今年4月、「西アフリカの教育を変えた日本発の技術協力 ~ニジェールで花開いた「みんなの学校プロジェクト」の歩み~」(著者:原雅裕JICA客員国際協力専門員)を上梓しました。JICAプロジェクトから厳選し紹介している「プロジェクト・ヒストリー」シリーズ第3巻です。ダイヤモンド社発行。

住民の活動のよって建てられた食堂.JPG

住民の協力で建設された食堂

関連研究領域:成長と貧困

関連研究プロジェクト:南部アフリカにおけるインフラ整備のインパクトに関する実証研究

開催情報

開催日時:2011年5月21日(土)~2011年5月22日(日)
開催場所:熊本県熊本市、熊本学園大学

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