細野所長と本郷専門員がブラジル・セラードを現地調査、「農業開発の奇跡」を書籍化へ

2012.03.31

JICA研究所の細野昭雄所長と本郷豊非常勤客員専門員は2月4~19日、JICAの成功プロジェクトの歴史を紹介する書籍「プロジェクト・ヒストリー」シリーズ(発行元:ダイヤモンド社)の取材(現地調査)で、ブラジルを訪問しました。

プロジェクト・ヒストリーはこれまでに4冊が出されていますが、5冊目となる今回のテーマは、ブラジル中西部に広がる熱帯サバンナ「セラード」を農業地帯に変貌させた歴史です。

「不毛の大地」とかつて呼ばれていたセラードは、ブラジル政府が国家プログラムとして開発に着手してからわずか四半世紀の後に、南半球最大級の農業地帯に生まれ変わりました。20世紀の農学史に輝く偉業と賞賛されるほどの大成功を収めたわけですが、その舞台裏ではJICAや日系社会が大きな役割を果たしたことはあまり知られていません。国際協力の観点から農業開発の「奇跡」を描こう、というのが書籍の狙いです。

cerrado.jpg

トカンチンス州内陸部の穀物積出基地を訪問する細野所長 *1

今回の現地調査で訪問したのは、首都ブラジリアの他、トカンチンス州やマットグロッソ州で実施された「日伯(ブラジル)セラード農業開発協力事業」(プロデセル)の事業地などです。ここで細野所長と本郷専門員は①プロデセルによって「社会経済指標(IFDM)」が著しく向上した地区の現況調査(マットグロッソ州ルカス・ド・リオ・ベルデとトカンチンス州ペドロアフォンソの2カ所)②インフラ整備(鉄道と穀物集積地)が進んだ地区(ポルト・フランコなど)の視察③「セラード研究所(CPAC)」での補足調査などを実施しました。

セラードの現地調査を終えて帰国した細野所長は「(今年6月に開催される国際会議)リオ+20でも重視されるグリーン成長の見地から、日伯セラード協力を分析することに重点を置いて調査した」と話します。

今回の現地調査で確認できたポイントは以下のとおりです。

1)高い環境配慮、現地の新聞から表彰も

プロデセルは、1992年のリオ環境サミットの約15年近く前から、環境への配慮をしながら、セラード農業を発展させてきました。この事実は、CPACの元所長で、またブラジル農牧研究公社(エンブラパ)の元総裁をも務めたカルロス・マグノ氏をはじめ、多くの関係者へのインタビューで確認できました。

さらに、リオの環境サミット以降は、環境保全によりいっそう力を入れ、大きな成果を上げていることも、ブラジル環境・再生可能天然資源院(IBAMA)のサノ博士らの専門的な情報によって把握できました。

ルカス・デ・リオ・ベルデ市は2006年、ブラジルを代表する新聞ジョルナル・ド・ブラジルから、最も環境保全に成果を上げた都市として表彰されました。かねてから推進してきた社会環境プロジェクトの一環として「(GPSデーターを元に作成する)農地登録(CAR)」にも積極的に取り組んでいます。こうした努力が受賞につながったのです。

2)住民の所得向上、プロデセルの拠点が人間開発指数の上位に

プロデセルは、拠点方式の組合主導による計画入植事業を基本とし、一定の経営規模での穀物生産体制を確立しました。この拠点が地域の中核となって、穀物をはじめとする農牧畜産品の生産を中心とするバリューチェーン(生産チェーン)が発展し、セラード農業の多角化が進みました。この結果、地元の雇用を増やし、地元住民の所得が向上したことが、今回の現地調査でも広く認められています。

プロデセルの拠点となった場所はいま、それぞれの州の中で、人間開発指数(人々の生活の質や発展度合いを示す)のランキングで上位に入っています。たとえばルカス・デ・リオ・ベルデは、全国ランキングで、5000以上の市町村の中で8位、マットグロッソ州内では1位に輝きました。

細野所長は「ルカス・デ・リオ・ベルデは全国のモデルともいえる成果を残した。この発展の出発点がプロデセルにあったことは、市長をはじめ、市の関係者、農業生産者などが異口同音に指摘した」と話します。

ルカス・デ・リオ・ベルデは、「農産加工」の発展に尽力し、雇用を拡大させました。とりわけ注目されるべきは、工業団地を造成し、鶏肉や豚肉、バイオディーゼル燃料などを生産する企業を誘致していることです。

またトカンチンス州では、州知事が「トカンチンス州の農業発展にとって、プロデセルが果たした役割は非常に大きい」と強調しています。プロデセルの事業地であるペドロアフォンソも人間開発指数ランキングで高い評価を得ています。

細野所長は「セラード農業開発は、雇用機会の創出を通じて国内の人口移動をもたらした。特に南部と東北からセラード地域への人口流入は顕著で、地域格差の是正にも大きく貢献した」と分析しています。

プロジェクト・ヒストリーはこれまでに、第一弾の『南米チリをサケ輸出大国に変えた日本人たち ゼロから産業を創出した国際協力の記録』(細野昭雄)を手始めに、第二弾として『車いすがアジアの街を行く アジア太平洋障害者センター(APCD)の挑戦』(二ノ宮アキイエ)、第三弾に『西アフリカの教育を変えた日本発の技術協力 ニジェールで花開いた「みんなの学校プロジェクト」の歩み」』(原雅裕)、第四弾は『シルク大国インドに継承された日本の養蚕の技 技術者の絆が結んだ高品質な生糸づくりの夢』(山田浩司)が出版されています。

DSC_4649.JPG

マット・グロッソ州のルーカス・ド・リオ・ベルデ市と郊外に広がる大豆畑 *2

*1 セラード地帯の北東部に位置するトカンチンス州のセラード農業開発も勢いを増している。穀物搬出用の鉄道敷設と沿線には積出基地の整備が進み、同州の農産物輸出に拍車がかかる。

*2 セラード地帯北部の遠隔地ルーカス郡は、「プロデセル」第2期事業地の1つに選ばれ、セラード農業開発によって飛躍的な発展を遂げた。今日では州内最高の「社会経済指標値」を示すだけでなく、2006年には「全国最優秀環境賞」を受賞した。(写真提供:ルーカス市 2012年)

開催情報

開催日時:2012年2月4日(土)~2012年2月19日(日)
開催場所:ブラジル

関連する研究者

\SNSでシェア!/

  • X (Twitter)
  • linkedIn
トピックス一覧

RECOMMENDこの記事と同じタグのコンテンツ