難民に関するグローバルな政策会議でJICA研究所の研究員2名が発表

2012.12.12

12月6日と7日に、英国のオックスフォード大学難民研究センターの創立30周年を記念し、「グローバルな難民政策を理解する」と題された会議が同難民研究センターで開催されました。今回の会議は、グローバルなレベルで難民、国内避難民、無国籍者、人身売買およびその他の分野の強制移住に関する政策決定の過程を検証し理論づける目的で実施され、本会議のテーマについて極めて重要な議論を展開するフォーラムを提供しました。

参加者は、難民法・難民問題研究の第一人者のガイ・グッドウィン・ジル教授(オール・ソウルズ・カレッジ)をはじめとして、欧州、米国、オーストラリアなどから多数の難民研究者や、UNHCRの職員、NGOの活動家など幅広い立場の人々が一堂に会しました。JICA研究所からは、片柳真理研究員、三上了研究員両名が参加し、研究所の研究プロジェクト「効果的な難民・国内避難民の帰還支援研究」に関する発表を行いました。

2日間にわたる会議では分科会が同時に進行し、12月7日に実施された「不動産返還と帰還」の分科会で、片柳、三上研究員はボスニア・ヘルツェゴビナ(以下ボスニア)の事例を用いて不動産返還と帰還の関係を分析した発表を行いました。この研究には、定性研究と定量研究を組み合わせた手法が用いられています。両研究員の発表によると、ボスニア・ヘルツェゴビナの武力紛争は民族浄化が行われたことで、当時の人口の半分近くが難民および国内避難民となりました。その人々の帰還を阻んだ大きな要因が住宅の問題で、これには二種類あり、第一の要因は物理的破壊により住めない状態になった場合、第二の要因は他の地域からの避難民などによって住宅が占拠された場合が挙げられています。前者は資金があれば再建することで問題を解決できますが、後者では占有者を退去させる必要が生じます。この研究では、より複雑な要因である後者に着目したうえで、この問題が帰還の障害となったことを統計的に確認し、これに対して国際社会の介入が効果を発揮したかどうかを分析しています。ボスニアでは、上級代表という和平合意の文民面の履行を監督する存在が、法律の改廃、制定や公職者の追放も可能といった強大な権限を持っており、不動産返還および帰還を妨害していると判断された公職者が40人近く解任された事実があります。このような国際社会による介入の結果、「少数民族帰還」と呼ばれる帰還が増加し、帰還民の民族比率が紛争前の比率により近くなったことが確認されています。また、帰還の増加は、「解任」という介入のあった自治体に限られず、ボスニア全土にわたっていることから、この介入により人々の法の支配に対する信頼が回復されたのだと分析しています。

発表後、会場からは、ボスニアで国際社会の介入が成功した例を、他の地域で、例えばパレスチナなどの事例に生かせないのかといった質問が投げかけられました。この質問に対してJICA研究者からは、パレスチナの場合、避難期間が非常に長期なため、ボスニアのように元の所有者に不動産を返還するといった一律の原則を適応することがむずかしいと回答しました。また、このボスニア事例の研究は、今回の会議で定量分析を本格的に行った唯一の研究ではないかとの評価もされています。

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開催情報

開催日時:2012年12月6日(木)~2012年12月7日(金)
開催場所:英国オックスフォード大学

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