平和を目指し土地・不動産問題に挑む:書籍出版記念セミナーを開催

2014.09.19

9月1日、JICA研究所は、研究所の研究成果に基づく英文書籍Confronting Land and Property Problems for Peace の発刊を記念した公開セミナーを開催しました。

本書は、2011年から2013年に実施した研究プロジェクト「紛争後の土地・不動産問題-国家建設と経済発展の視点から」の成果をまとめたもので、暴力的紛争の影響を受けている社会における土地や家屋など不動産をめぐる問題を取り扱っています。

web9-1_Routledge-Tokyo_1.jpg

武内氏の発表の様子

セミナーでは、本書の編者・執筆者の一人である武内進一アジア経済研究所地域研究センター次長(元研究所客員研究員)と執筆者の一人片柳真理広島大学大学院国際協力研究科准教授(元研究所主任研究員)が発表し、コメンテーターとして佐藤仁東京大学東洋文化研究所教授(元研究所客員研究員)と佐藤直史JICA国際協力専門員が出席しました。また、JICA研究所からは花谷厚上席研究員、後藤幸子研究員が参加しました。

武内氏はまず、紛争影響国の復興や平和を実現するには、人々の日常生活に関わる問題に目を向ける必要があるが、土地・不動産はまさに人々の生活に直結した問題であることを指摘しました。その上で、土地・不動産問題は国家・社会関係に深く関係するため、解決に向けては、その国の政治状況や問題が置かれたコンテクストを踏まえた上で、長期的な視点を持つことが重要であると述べました。具体例として、類似した社会構造を持ちながら政治体制の異なるルワンダとブルンジを取り上げ、土地に対する政策介入の効果が社会を統制する国家の能力により異なることを説明し、土地・不動産問題の解決に向けて全体的なガバナンス改革との関連性を意識する必要があると述べました。

続いて片柳氏は、ボスニア・ヘルツェゴビナの国家建設における財産権について発表しました。このケースでは、大規模な国際社会の介入による不動産返還が成功した一方で、国有財産問題の解決が停滞し、適切な農地政策の欠如から農地問題が解決されていない現状を示し、国家と国民の財産権を巡る希薄な関係が、その要因となっていることを説明しました。さらに、研究成果から引き出された政策提言として、平和構築においては人道機関による取り組みに焦点が当たりがちであるが、早期から開発援助機関が関与し、国・地方固有の土地ガバナンスと、政治的側面を考慮した取組みをしていくことが重要であることを強調しました。

両氏の発表を踏まえて佐藤仁氏は、土地・不動産問題は全ての国で重要かつ根源的なものでありながら、これまで十分に研究なされていない中、本書はこの問題を開発援助政策と結びつけて真正面から取り組み、重要な示唆を引き出たものであると高く評価しました。その上で、①紛争後の土地所有権について、紛争を先鋭化させないためにあえて曖昧さを残しておくという戦略もありうるのではないか、②住民間の紛争調停のための国家機能の強化が、かえって人々の問題解決能力を削ぐこともあることから、社会の強化を考える必要があること、③紛争が不平等の解消など肯定的な変化につながる側面があるが、むしろ紛争を経ずに土地が再分配された事例はあるのか、という3つの論点を提起しました。

_photo2.jpg

片柳氏の発表の様子

次に佐藤直史氏は、土地・不動産問題を解決するためのルール作りや、平和構築のための法整備支援の重要性に触れた上で、その難しさを指摘し、紛争影響国の土地・不動産問題を始めとする諸問題の解決のためには、形式的な制度づくりのみならず市民による法的な場面への関与の機会を通じた市民社会のエンパワーメントが重要であると述べ、土地・不動産問題は生活に密着した問題であり、市民の関心が高いからこそ、これに関するルールの適切な整備及び運用は、市民社会のエンパワーメントの手段としても重要であると指摘しました。

これらの問題提起を踏まえ会場からは、土地関連政策が政治化しやすい中で政府による適切な実行をどう確保するかといった質問や、現地慣習法の尊重など「曖昧さを残す」戦略と、紛争後にしばしば政府主導で進められる民間外国資本の導入との間に生じる矛盾にどう対処するかが大きな課題である、などのコメントが挙がり、活発な議論が行われました。

開催情報

開催日時:2014年9月1日(月)
開催場所:JICA 市ヶ谷ビル

\SNSでシェア!/

  • X (Twitter)
  • linkedIn
トピックス一覧

RECOMMENDこの記事と同じタグのコンテンツ