学校運営における住民参加のインパクトとは:教育開発プロジェクトのインパクト評価分析に関するセミナーを開催

2014.10.06

9月22日、JICA研究所は「途上国における教育開発プロジェクトのインパクト評価分析:学校運営における住民参加を事例として」と題して、公開セミナーを開催しました。

「効果的な援助」の議論が高まり、開発事業のモニタリング・評価が重視される中、実証データと計量経済学の手法を用いてプロジェクトの効果を分析する「インパクト評価分析」が注目されています。JICA研究所は、研究プロジェクト「JICA事業の体系的なインパクト分析の手法開発」を実施しており、その一環として、JICAがブルキナファソで実施している「みんなの学校プロジェクト」のインパクトについて厳密な分析を行っています。今回のセミナーでは、教育開発プロジェクトにおける学校運営改善(School-Based Management: SBM)のインパクト評価分析に焦点を当て、最近の研究成果や課題について共有しました。SBMとは、学校運営の権限を、学校やその運営委員会に移譲し、教育サービスの改善を目指す取組で、多くの国のSBMは住民参加を促しています。

セミナーは、細野昭雄JICAシニア・リサーチ・アドバイザーが司会を務め、澤田康幸東京大学大学院経済学研究科教授(JICA研究所客員研究員)、Nazmul Chaudhury世界銀行リードエコノミスト、Menno Pradhanアムステルダム大学教授がそれぞれの研究について発表しました。

初めに澤田教授は、SBMのインパクト分析に関する既存研究及び最新の研究課題について総括し、その上でJICAが支援する「みんなの学校」を対象としたインパクト評価分析について発表しました。「みんなの学校」では、選挙により選ばれた保護者、校長、教員などがメンバーとなっている学校運営委員会が中心となって、コミュニティのリソースで教育環境を改善するための取り組みを行っています。介入対象を無作為(ランダム)に選択するランダム化比較試験(Randomized Controlled Trial: RCT)と公共財実験を組み合わせた新たなインパクト評価手法により、プロジェクトの介入がコミュニティメンバーや親、学校関係者間での社会関係資本(Social Capital)を強化した可能性があることが明らかになりました。同時に澤田教授は今後の研究課題として、SBMの一連の取組の中で鍵となっている要素の因果関係を明らかにすることや、対象国や地域が異なる中での普遍性の検証などを指摘しました。

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(左から) 細野SRA、澤田教授、Nazmul氏、Pradhan教授

次に、Nazmul Chaudhury氏は、世界銀行によるSBMのインパクト評価について発表しました。Chaudhury氏は、SBMは教育におけるガバナンスの改善のためのツールであると位置づけた上で、学校現場を最も良く把握している保護者やコミュニティメンバーを巻き込むことが、より効果的な学校運営につながることをネパールの事例を用いて説明しました。ネパールでは、一度国営化された学校の運営主体を、2001年以降コミュニティに戻す政策が取られています。世界銀行はその政策を支援するプロジェクトNepal Community School Support Projectを実施し、インパクト評価を行いました。その結果、学習成果の向上は見られない一方、学校運営における保護者の参加や、子供の就学機会の向上が確認されました。

最後に、Menno Pradhan氏がインドネシアのプロジェクトについてプレゼンテーションを行いました。このケースでは、学校運営委員会を強化する二つの異なる手法のそれぞれのインパクトを測定しました。一つ目の手法は、学校運営委員会メンバーの選挙による選出、もう一つは委員会と村落評議会間の合同会議による関係強化です。同時に、学校運営委員会に対する補助金やトレーニングの提供も行われましたが、分析の結果、委員会と村落評議会の関係強化の実施、また選挙と関係強化の組み合わせが、生徒の成績を向上させる上で効果があり、その費用対効果も高いことがわかりました。

発表に続いて行われた意見交換では、研究者や学生、NGO、開発プロジェクトの実務者などが参加して活発な議論が行われました。その中では、SBMは全ての課題を解決する万能薬ではなく、他の介入との組み合わせが重要であること、SBMの効果は教材・トレーニング内容等のプロジェクトの中身や対象国・地域の状況によって異なること、効果を評価するには時間を要することなどが指摘されました。また、今後の研究課題として、学習成果を高める要因分析の重要性や、費用対効果のさらなる分析などが挙げられました。JICA研究所は本セミナーの結果を踏まえてインパクト分析に関する研究を進め、その成果を事業へと活かしていきます。

開催情報

開催日時:2014年9月22日(月)
開催場所:JICA 市ヶ谷ビル

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