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人間開発と危機を再考する:JICA研究員が人間開発をテーマとする国際学会で発表

2014.10.07

9月2日から5日、人間開発と潜在能力学会(Human Development and Capability Association: HDCA)の年次会議「Human Development in Times of Crisis - 危機の時代における人間開発」がギリシャ・アテネで開催され、JICA研究所からゴメズ・オスカル研究員が参加しました。

HDCAは、人間開発と潜在能力開発のアプローチに関する研究や知見の共有と、その政策へのフィードバックを目的としており、およそ70か国・地域の会員を有する学会です。今回年次会議は、社会的不平等が拡大し、社会正義が損なわれ、国家主義や民族主義が台頭する現在を「危機の時代」と捉え、危機の時代にこそ人間開発に関する知識と関心を高めることが重要であるとし、特に、社会的不平等の原因、社会的排除と包摂、そして教育と社会政策のインパクトについて焦点を当てて開催されました。

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学会会場でのゴメズ研究員

ゴメズ研究員は潜在能力開発の実践をテーマとしたセッションにおいて、「Human development at the emergency room? Checking the toolbox before next crisis」と題し発表しました。途上国の貧困削減の進捗や紛争発生率の相対的な低下など、国際社会では様々な問題の改善が見られる一方で、金融危機、食糧危機、感染症の世界的流行といった新たな危機への対応が必要になっています。ゴメズ研究員は、国際人道システムはこれまで、危機発生後の対応が中心であり、日常の段階から人々のニーズやその脆弱性を把握し、危機を「予防」する観点の取組が不十分であったこと、また、人道支援と開発の境界線があいまいになってきていることを踏まえ、危機を人間開発の観点から捉えなおすことの重要性を指摘しました。

危機を人間開発の観点から再考した場合の示唆として、ゴメズ研究員は次の四点を挙げました。第一に、人間開発の中でも、特に人間の安全保障の考え方に近い防災や紛争学などの理論を組み合わせることが、危機を理解する一助となること。第二に、人間開発論で蓄積されてきた評価の手法や経験は、社会を構成する人々の多様性に焦点を置く点において効果的であり、危機対応、およびその影響と根本的要因の評価にも活用できる可能性があること。第三に、危機発生時の保護する主体(エージェンシー)の問題については、人間開発論の応用が難しいこと。すなわち、危機発生時は危機からの保護を背景に、保護する側の「パターナリズム*」による統制が発生するが、緊急援助から復旧・復興過程において、保護する側がどの段階まで主導権を持つべきか定かでなく、逆に、平時における予防段階では保護する側が一方的に予防対策を決める傾向があるという問題については、人間開発論では有効な示唆を示していないこと。最後に、危機対応に関与するアクターとして、開発関係者への注目が集まりつつあるが、危機対応時には様々なアクター間での共通言語を用いる必要がある。その際には、人間開発のアプローチと同時に、人間の安全保障や人権の考え方を踏まえる必要があり、それが総じては人道的ニーズの充足に貢献する可能性があること。

発表を通じゴメズ研究員は、危機対応に従事する実務家や研究者は、人間開発の考え方を踏まえた上で、人間の安全保障と人権の実践と主流化に努めるべきであると主張しました。

注:
*パターナリズム(英: paternalism)とは、強い立場にある者が、弱い立場にある者の利益になるようにと、本人の意志に反して行動に介入・干渉することをいう。

開催情報

開催日時:2014年9月2日(火)~2014年9月5日(金)
開催場所:ギリシャ、アテネ

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