東アジアの金融レジリエンスと今後の展望:書籍「Two Crises, Different Outcomes: East Asia and Global Finance」出版記念セミナーを開催

2015.02.08

2015年2月2日、JICA研究所の研究成果に基づく書籍『Two Crises, Different Outcomes: East Asia and Global Finance(二つの危機、異なる結果—東アジアとグローバル金融)』の出版記念セミナーがJICA研究所で開催されました。

本書は、2010年7月から2014年3月に実施した研究プロジェクト「東アジア通貨危機からの回復の政治経済学」の成果に基づき、政策研究大学院大学の恒川恵市教授(元JICA研究所所長)とカリフォルニア大学バークレー校のT・J・ペンペル教授により編集されました。本書は、1997−98年のアジア金融危機と2008−09年の世界金融危機を取り上げ、97−98年危機が東アジア諸国に甚大な経済的損失をもたらしたのに対し、08−09年の危機の影響が軽微にとどまったのはなぜか、東アジア諸国が世界金融危機を乗り越えたことは、第二の「東アジアの奇跡」を予兆するものなのか、という問いに政治経済学の観点から答えようとする試みです。

セミナーでは、出版に至る経緯やねらいが紹介されたあと、ペンペル教授が本書の要旨について発表しました。その中でペンペル教授は、東アジア諸国が08-09年の世界金融危機の被害を軽微にとどめることができた理由を次のように説明しました。アジア金融危機の経験を踏まえて、デリバティブやクレジット・デフォルト・スワップなど投機的な金融取引を控えていたこと。また、アジア市場は世界市場に組み込まれている一方で、各国においては高い外貨準備高の保持、短期資本移動のモニタリング、金融規制・監督制度の強化といったリスク回避の手段を講じていたこと。アジア諸国はこれらの取り組みにより、高い金融リスクを回避し、世界金融危機の影響を抑えることに成功しました。今後の同地域の経済の見通しについてペンペル教授は、短期的・中期的には明るいものだと考えられるが、各国の抱える高齢化社会や中所得国の罠、政治経済的不安定といった課題を考慮すると、過度に楽観視するべきではないと指摘しました。

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ペンペル教授

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恒川教授

次に恒川教授は、本書に取り上げられた各国の事例の概要を具体的に説明した上で、東アジア地域の今後の成長を促進するために日本が取るべき五つの政策を挙げました。第一に、金融レジリエンスを向上させるために地域内の連携を強化すること。第二に、東アジア諸国が「中所得国の罠」に陥らないよう、企業間の連携と生産性の向上、高度人材育成を支援すること。第三に、財政的に持続可能な社会保障システムを構築・運営するために、日本の過去の教訓と知見を提供すること。第四に、資源や人的資本の効率的な活用のために、運輸交通や通信インフラの整備をすること。最後に、安定的な成長と持続可能な社会保障システムを両立させることができる長期的な政策モデルを打ち出すことです。

最後に行われた質疑応答では、97-98年危機におけるIMF(国際通貨基金)の対応の影響や、為替市場政策の作用などに関するコメント、アジアインフラ投資銀行の設立に見られる中国の動きについての質問など、今後の東アジアの経済展望について、活発な議論が行われました。

開催情報

開催日時:2015年2月2日(月)
開催場所:JICA市ヶ谷ビル

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