ADBチーフエコノミスト就任を前に開発経済学の変遷と課題を語る-澤田客員研究員

2017.02.23

JICA研究所の澤田康幸客員研究員(東京大学教授)が2017年3月からアジア開発銀行(ADB)のチーフエコノミストに就任するのを前に、開発経済学の変遷と今後の課題を語るとともに、澤田客員研究員のJICA研究所での取り組みを紹介するオープンセミナーが2月17日、JICA市ヶ谷ビルで開催されました。

JICA研究所の北野尚宏所長は開会のあいさつで、「澤田客員研究員はインフラ事業が貧困削減にどのような効果があるのかを定量的に示すため、開発途上国でのフィールド実験を長年継続し、インフラ事業の多面的な成果を研究してきた。エビデンス(科学的な証拠)をベースとした開発の重要性を訴えかけ、大きな功績を残した。これまでに11のワーキングペーパーを発表し、常に私たちをインスパイアし続ける存在だった」と成果を評価しました。

発表する澤田客員研究員

発表する澤田客員研究員

澤田客員研究員が登壇し、まず開発経済学の変遷について発表しました。澤田客員研究は、開発経済学は1950~60年代に盛り上がりをみせたものの、その後しばらくは停滞したと指摘しました。それが2000年代に「蘇生」した背景には、理論研究や既存のデータを用いた研究だけではなく、研究者自らが実際のプロジェクトと連携しながら開発途上国でのフィールド実験で収集したデータを用いて政策の因果効果を分析し、得られた知見をさらに政策にフィードバックする“フィールド実験革命”が起こったからだと説明しました。澤田客員研究員は、フィールド実験を、これまでの「ある論(実証論)」「べき論(規範論)」に加えて、「する論(実践論)」と表現しました。

こうした例として、澤田客員研究員はJICA研究所で携わった4つの研究プロジェクトを紹介しました。スリランカで灌漑事業が貧困状態にどうインパクトを与えたのかを研究し、灌漑によって乾季の稲作が可能になったことで生計が向上・所得の平準化が達成されたことや、人々の信頼関係向上を通じてソーシャルキャピタル(社会関係資本)の醸成に寄与するというインパクトがあった、という研究結果を紹介しました。さらに、ブルキナファソでのコミュニティー主導型の初等教育分権化・ガバナンス改善を支援する「みんなの学校プロジェクト」のインパクト研究、パレスチナでの母子手帳導入による母親の健康行動へのインパクト研究、さらに、しばしば“奇跡”と呼ばれるバングラデシュの経済的・社会的発展の要因に迫る研究プロジェクトも紹介しました。

スリランカでの灌漑事業

スリランカでの灌漑事業

澤田客員研究員は、今後の課題として、市場の失敗を補正するインフラ支援、政府の失敗を最小化するガバナンス支援に加え、それらの機能を補完するコミュニティメカニズム、つまりソーシャルキャピタル蓄積を促進するための決め細やかな支援が必要であるとし、フィールド実験はこうした支援を設計し、進めるための強力な分析ツールであると説明しました。その一方、フィールド実験は、ひとつのツールに過ぎず、大型インフラプロジェクトのインパクト評価のように応用・効果測定が難しいものもあり、重要な研究課題を識別し取り組む際の「バランス感覚」も必須であると付け加えました。そのうえで、こうした考えに沿ってグローバルな課題に取り組みためには、異なる分野の研究部門や、政府機関、国際機関、民間企業などの研究部門以外との連携が不可欠と強調しました。

セミナーには、国際協力を学ぶ学生らも参加。「気候変動などの環境問題の研究にどう開発経済学の考え方を生かすか」「研究者が持っているアイデアと、援助実務者の連携には何が必要か」などの質問が出されました。

広田幸紀JICAチーフエコノミストが「アジアで影響力の大きい仕事を担っていく澤田客員研究員とこれからもとも共に開発協力に取り組んでいきたい」と閉会のあいさつを述べました。

澤田客員研究員は「援助の実務者の仕事を研究者がサポートする仕組みをつくるなど、実務と研究の連携にはまだまだ改善の余地がある。その架け橋となれるよう今後はADBで積極的に取り組んでいきたい」と抱負を述べました。

国際協力を学ぶ学生らも参加したセミナー

国際協力を学ぶ学生らも参加したセミナー

関連動画

Interview: 'Appointed as Chief Economist for ADB' with Yasuyuki Sawada, JICA-RI Visiting Fellow
(YouTube:JICA研究所 公式チャンネル)

Interview: 'Impact evaluations in modern development economics' with Yasuyuki Sawada
(YouTube:JICA研究所 公式チャンネル)

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