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JICAの教育協力モデル「みんなの学校プロジェクト」の定量的な評価結果が明らかに

2016.05.26

「みんなの学校プロジェクト」は、JICAが西アフリカを中心に支援してきた住民参加型の学校運営プロジェクトです。JICA研究所は、事業の効果を定量的に検証する研究プロジェクト「JICA事業の体系的なインパクト分析の手法開発」を行っていますが、その中で「みんなの学校プロジェクト」のインパクト分析を行い、その成果を相次いで発信しています。

「みんなの学校プロジェクト」は、自律的学校運営(School Based Management:SBM)を支援する取り組みです。SBMは、学校活動の予算、カリキュラム、人事権などの権限を政府から学校・コミュニティに委譲するもので、多くの場合、学校活動を実施する主体として学校運営委員会が設立されます。SBMのタイプや権限の強弱は国によりさまざまですが、1990年代以降、多くの途上国で導入されています。例えば世界銀行は地方分権化政策の一環として、中南米やアフリカなど多くの地域でSBMのプロジェクトを拡大した実績があります。JICAの「みんなの学校プロジェクト」は、2004年にニジェールで開始され、その後、セネガル、ブルキナファソ、マリ、コートジボワール、マダガスカルに広がっています。

「みんなの学校」普及のための研修

「みんなの学校プロジェクト」は、効果的なSBMモデルとして西アフリカの実施国で高く評価される一方で、このモデルの住民参加がどのようにして効果を生み出すかというエビデンス(科学的根拠)は十分に議論されてきませんでした。今回の研究プロジェクト実施の背景には、「みんなの学校プロジェクト」という開発モデルの有効性を測定し、その成果をエビデンスに基づく定量的評価で示すねらいがあります。

研究では、ブルキナファソの「みんなの学校プロジェクト」が留年率、就学率、教員の出勤率など教育の成果(アウトカム)にとどまらず、地域の社会関係資本(ソーシャルキャピタル)にどのような影響を与えたのかを、ランダム化比較試験(Randomized Controlled Trial:RCT)を用いて検証しました。RCTとは、母集団の中から選定された地域(集団)において、プロジェクトの介入を受ける受益者(トリートメント群)と、介入を受けない非受益者(コントロール群)を無作為に割り当て、プロジェクト実施の後に両者のアウトカム指標を比較するものです。その結果、トリートメント群の指標の方が優れていれば、プロジェクトの効果があると判断することができます。本研究は、JICAの案件を対象にRCTを用いた最初の定量的評価の試みとなりました。

調査は、ブルキナファソ・ガンズクル県内の小学校約280校を、トリートメント群とコントロール群の2グループにランダムに割り振り、トリートメント群では、地域住民の選挙による学校委員会のメンバーの選出や、学校の課題を改善するための委員会と地域住民によるさまざまな活動を実施しました。研究ではさらに、公共財実験と呼ばれる人工的フィールド実験の結果を組み合わせ、学校運営委員会の設立およびその活動が社会関係資本の醸成などに与えた影響を定量的に評価しました。

評価の結果は次のとおりです。

まず、教育のアウトカム(成果)へ与える影響については、就学率や留年率、教員の出勤率の改善に効果が見られたことがわかりました。留年率では6年男子生徒の減少が顕著でした。この結果は、住民参加型の学校運営は地域住民を啓発し、関係者の信頼を構築することを通じて教育のアウトカムを改善することが可能であることを示しています。(詳細は、ワーキングペーパーNo.112 How Can Community Participation Improve Educational Outcomes? Experimental Evidence from a School-Based Management Project in Burkina Faso)

次に、社会関係資本への影響については、学校運営委員会の設置が公共財の自発的供給を高めることが明らかになりました。特に、校長・教員・保護者からなるグループは、プロジェクト実施による効果が大きく、運営委員選出のための民主的選挙はさらにその効果が高いことが確認されました。これらの結果は、学校運営委員会の設置がコミュニティによるプロジェクト費用の自己負担を促進し、プロジェクトの財政的持続可能性を高めることを示唆しています。(詳細は、ワーキングペーパーNo.120 Election, Implementation, and Social Capital in School-Based Management: Evidence from a Randomized Field Experiment on the COGES Project in Burkina Faso)

また、社会関係資本への影響を評価するもう一つの方法として、地域のインフォーマルな金融的相互扶助組織である回転型貯蓄信用講(ROSCA)の発展との関連を検証しました。分析の結果、特に貧しい家庭では、生徒の親がSBMに関わることで他人に対する信頼感を増し、ROSCAにより参加するようになったことが確認されました。(詳細は、ワーキングペーパーNo.115 Can School-Based Management Generate Community-Wide Impacts in Less Developed Countries? Evidence from Randomized Experiments in Burkina Faso)

評価結果は、3本のワーキングペーパーとして刊行されたほか、2016年3月14日に米国ワシントンD.C.世界銀行本部で「教育開発におけるコミュニティの役割-JICA『みんなの学校プロジェクト』フィールド実験のエビデンスから」と題して発表されました。世界銀行のスタッフからは、学校運営委員会設立のための選挙の効果、教員の出席率の改善、財政的持続可能性について強い関心が寄せられました。さらに、2016年3月17日-18日、ペルーのリマで開催されたグローバル・ディベロップメント・ネットワーク(Global Development Network:GDN)の第17回年次総会においてJICA研究所が主催したセッション「開発のための教育」でも共有され、参加者の高い関心を集めました。

ブルキナファソの子どもたち(写真:今村健志朗/JICA)

JICA職員の立場から研究プロジェクトのメンバーに加わった小塚英治人間開発部兼JICA研究所主任研究員は、今回の評価結果について「論文を書いて終わりにするのではなく、分析から得られたエビデンスを将来のプロジェクトの改善につなげることが重要。今回のブルキナファソの研究では、プロジェクトが教育のアウトカムの改善に効果があったと言えるが、留年率の改善に学年差・男女差が生まれたことにも注意する必要がある。その背景には、親の意向で低学年よりも高学年、女子よりも男子の教育が優先された可能性が否定できない。そうであれば、今後、プロジェクトを実施する際に低学年や女子教育に特に配慮する必要がある」と話しています。

さらに、教育分野のインパクト評価の課題として、従来の評価は生徒のテストの成績や留年率・出席率などデータが収集しやすいアウトカムを対象とすることが多かったが、教員の指導法や子どもの考える力の向上など、定量的な計測が容易でないデータをどのように収集し、分析・評価するかを検討する必要があると述べています。

JICA研究所では今後、海外の学術誌や国際会議などを通じて評価結果を発信していくとともに、JICA事業へのフィードバックを図っていく考えです。

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