韓国での「水と災害ハイレベル・パネル」会合で治水インフラの需要推計を発表—広田チーフエコノミスト

2017.10.06

2017年9月21日、韓国の慶州で「水と災害ハイレベル・パネル(HELP)第10回会合」が開催され、JICA研究所で実施中の研究プロジェクト「アジアのインフラ需要推計にかかる研究」に携わる広田幸紀JICAチーフエコノミストと石渡幹夫JICA国際協力専門員が参加しました。

HELPは、世界各地で頻発・激化している水災害を軽減するため、「事前予防」型の災害対策を強化することを目的として、2014年に水と衛生に関する国連事務総長諮問委員会の下に設置され、治水への投資の増加に必要な国際社会や各機関の取り組み、それに必要な科学・工学の強化についての提言を検討しています。

水と災害ハイレベル・パネル第10回会合には約50人のパネルメンバーが参加

これに関連して、広田チーフエコノミストは「治水インフラの需要推計」と題して欧米日の治水インフラ投資の分析、日本とフィリピンの需要推計についての研究成果を発表しました。道路や港といった経済インフラに比較して、洪水対策など災害関連への投資は少ないわけではないものの需要予測の研究が不十分である点を指摘。その理由として、地域・国ごとに災害リスクが多種多様であることや、災害を防ぐためのターゲット設定を標準化することの難しさを挙げました。

その上で、この需要推計には、ストックデータを使ったモデルではなく、過去の治水予算や社会経済指標から推計するというJICAの考え方を適用しました。さらに、治水対策の予算増加が被害の大幅な減少につながってきた日本の経験や2030年までの需要推計のほか、深刻な洪水被害が続くフィリピンで治水インフラに対する投資が急増しており、現在のGDP比の0.45%の投資が2030年までには1%を超えると推計されることを紹介しました。結論として、適切な治水対策が急務であるアジア各国の防災への予算の情報を収集し、地域全体で共通のモデルを作成した上で、アジア全ての開発途上国における需要予測を進めることを提案しました。

この発表を受け、参加者の間で議論になったのは、大災害が発生してから防災への投資を増やすのではなく、起きなくても投資を増やせないかという点です。災害後は政策決定者や市民の関心が長続きせず、投資を進めるためには迅速な行動が必要だという指摘がありました。また、国がカバーできない個人レベルの復興への取り組みとして保険制度の有効性を唱える声や、被害軽減の効果を示すために科学・工学の一層の貢献が求められるといった声もありました。

フィリピンのマニラ首都圏の洪水リスク軽減のため、日本の協力で整備されたパッシグ川の護岸

同研究プロジェクトには参加者から大きな関心が寄せられ、引き続き成果の共有を求められました。世界的に見ても、この分野での研究はあまり活発ではなく、現在の治水投資の規模が全世界でどの程度なのか、どのように増加しているのかさえ不透明なのが現状です。今後も関係機関と連携しつつ研究を進め、成果を発信していく予定です。

関連する研究プロジェクト

関連する研究者

\SNSでシェア!/

  • X (Twitter)
  • linkedIn
トピックス一覧

RECOMMENDこの記事と同じタグのコンテンツ