南アフリカでの書籍発刊セミナーでアフリカの社会統合に向けて議論—志賀上席研究員

2020.03.24

2020年2月20日、JICA研究所と神戸大学による共同研究プロジェクト「アフリカにおける民族多様性と経済的不安定」の成果である書籍『From Divided Pasts to Cohesive Futures: Reflections on Africa』の発刊記念セミナーが南アフリカのケープタウン大学で開催されました。

同書は、総勢20余名の歴史学者、経済学者、政治学者が連携して書き上げた13本の論文を、デューク大学の日野博之客員研究員(元神戸大学教授、ケープタウン大学客員教授)、KU Leuven大学のアーニム・ランガー教授、ケンブリッジ大学のジョン・ロンズデール名誉教授、オックスフォード大学のフランシス・スチュアート名誉教授がまとめたもので、アフリカの多民族社会の一体性の歴史を振り返り、将来を展望しています。

2019年11月に日本で開催された発刊記念セミナーに続く今回のセミナーは、「南アフリカへのメッセージ」と題してケープタウン大学との共催で行われました。同書の執筆者をはじめ、研究者、学生など、約60人が参加しました。セミナー冒頭、ロンズデール名誉教授が書籍の概要を紹介。通底するメッセージとして、1)アフリカでの社会的統合は不可能であるというアフロペシミズムは誤り、2)社会の分断はユニバーサルな問題であり、世界の国々がアフリカから学べることは多い、3)ボトムアップによる社会的統合が今後一層、鍵となることから、市民社会の役割は重要性を増す、という3点を強調しました。

ケンブリッジ大学のジョン・ロンズデール名誉教授が書籍の概要を紹介

基調講演では、南アフリカの社会的統合に長年取り組んでいるシンクタンクInstitute for Justice and Reconciliation(IJR)から、スタンリー・ヘンケマン・エグゼクティブディレクターが登壇。ヘンケマン氏は、南アフリカの現状を理解するには、アパルトヘイトだけではなく、その根源である植民地支配の影響にも目を向けなければならないとした上で、「アパルトヘイト廃止後、社会的統合に向けた努力は一定の成果を上げているが、南アフリカ社会にはいまだに所得・資産格差やジェンダーに基づく暴力、土地改革をはじめとする経済構造改革の停滞といった重大な問題が残り、社会的統合の阻害要因となっている」と指摘しました。そして、南アフリカの社会的統合の実現には、政府の失策を批判するだけでなく、市民一人一人が政府に働きかけ、共に社会を良くしていこうという意識を持つことが重要と強調しました。

その後のパネルディスカッションでは、ケープタウン大学のジャスティーン・バーンズ准教授の司会の下、フロアを巻き込んだ活発な議論が行われました。4人のパネリストの一人として登壇したJICA研究所の志賀裕朗上席研究員は、南アフリカにおける土地改革問題の展望についてコメントし、「不平等な土地配分の是正には土地改革以外にどのような施策が必要か」との質問に対し、「固定資産税や土地所有上限制度が検討されているが、導入に至っていない。土地配分にはさまざまな要素が多く絡む問題のため、経済や政治などの側面も併せて考えなければならない」と回答しました。

パネルディスカッションに参加したJICA研究所の志賀裕朗上席研究員(中央)

閉会セッションでは、日野客員研究員とスチュアート名誉教授が本セミナーでの議論を踏まえてコメントしました。日野客員研究員は、社会的統合をジニ係数といったマクロの視点のみでなく、職場などの日常生活の中で人々が認識する不平等感の視点でも分析する重要性を強調。人々の現実の経済活動との関係についてカイゼンや労働組合などの視点から分析し、社会的統合は生産性の向上をもたらし、人々の生活を豊かにすると主張しました。スチュアート名誉教授は、社会の不平等は多次元的であると改めて指摘した上で、不平等や分断を乗り越え、社会的統合が達成された国々の事例を紹介。加えて、社会的統合は複合的な性質を持つため、その維持こそが難しいことを指摘し、市民が政府の施策を監視し続ける重要性を強調しました。

最後に、セミナー共催機関であるケープタウン大学とJICA研究所のマレー・リーブランド教授と志賀上席研究員がこれまでの議論を総括し、人種・エスニシティーや歴史、経済、社会、政治といったさまざまな観点から南アフリカの社会的統合について議論された本セミナーを締めくくりました。

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