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プロジェクト・ヒストリー『高倉式コンポストとJICAの国際協力 スラバヤから始まった高倉式コンポストの歩み』 出版記念セミナー開催

2023.09.25

2023年8月8日、JICA緒方貞子平和開発研究所(JICA緒方研究所)、JICA九州、北九州市、北九州国際技術協力協会(Kitakyushu International Tecno-cooperative Association: KITA)は、書籍「プロジェクト・ヒストリー」シリーズ第34弾『高倉式コンポストとJICAの国際協力 スラバヤから始まった高倉式コンポストの歩み』 の出版記念セミナーを共催しました。オンライン参加とJICA九州での対面参加を合わせ、国内外から約240人が集いました。

オンライン参加のほか、会場のJICA九州にも多くの参加者が来場

“協働”から生まれた高倉コンポスト

冒頭、JICA九州の吉成安恵所長が開会あいさつに立ち、「本書を読んで、長年の変遷も含めた高倉式コンポストの全貌をやっと理解することができた。未来に伝えていくためには、書籍化の価値があると改めて実感した」と述べました。

続いて本書の著者である髙倉弘二氏が登壇。同氏は、インドネシアのスラバヤ市での活動を始めた2000年代初めを振り返りながら、「街にはごみが散乱し、収集運搬体制も機能しておらず、劣悪な状況。そこで着目したのが、埋め立て地に持ち込まれるごみの約半数を占める有機ごみ、つまり生ごみだった。各家庭でどうにかしようと、地元で簡単に手に入るプラスチックなどの箱に発酵床を入れ、そこに生ごみを入れて堆肥化するコンポストを生み出した。一緒に試行錯誤した現地のNGOには、生ごみが消えてなくなる“魔法の箱タカクラ”と紹介された」と説明しました。髙倉氏は、現地のカウンターパートと衝突したこともあったものの、同じ釜の飯を食った仲と言うように、共に食べ、歌を歌い、とことん話すことで信頼を深めることができたとし、「同じ目線で“協働”するという意識は何事においても重要」と強調しました。

その後「高倉式コンポスト」は、約20年にわたってJICA海外協力隊向けや開発途上国の行政官向けの研修でも伝えられ、世界中へと広がっています。髙倉氏は、現地で適用できる適正技術を生み出す鍵は因数分解だとし、料理になぞらえながら手順や要素を細かく分割し、その組み合わせによって何万通りもの解を導き出すことができると解説しました。インドネシアで行った啓発活動で歌を歌う様子も紹介しながら「住民やみんなで気持ちを一緒にする工夫が必要」と述べ、ユーモアを交えながらコミュニケーションをとることで、多くの人々を巻き込んできた髙倉氏ならではのスタイルも示しました。

インドネシアでの取り組みについて発表した髙倉弘二氏

高倉コンポストで北九州市から世界へ

パネルディスカッションでは、高倉式コンポストを研修に導入した経緯などについて、パネリストが当時を振り返りながら語りました。

2009年に髙倉氏のスラバヤでの活動を知り、さまざまな研修に導入するきっかけをつくったJICA九州の富安誠司専任参事は、「海外協力隊の活動は、一代目は種をまき、二代目が水をやり、三代目でやっと花が咲くと言われるように、成果を定着させるのはなかなか難しいが、髙倉氏のサポートが成果発現に貢献した。本書を読んで、社会的イノベーションや環境教育の活動には継続性が重要ということを再認識した」と語りました。

パネルディスカッションに参加したJICA九州の富安誠司専任参事

JICA海外協力隊の環境教育分野の技術顧問を務める日本シェアリングネイチャー協会の三好直子専務理事は、「当初は、コンポスト関係の活動が含まれている隊員に対して 、高倉式コンポストを環境教育の隊員たちに一つのツールとして身に着けてもらう狙いがあったが、髙倉さんの講義を私自身が受けてみたら、手品あり、歌あり、実験ありで大変おもしろかった。伝え方は大事。通常だと退屈になりがちな技術的な内容を、大変魅力的にわかりやすく、そして参加者を引き込んでいく授業は、環境教育隊員全員にも共通して学ぶことが多いと考えた。そこで、コンポストにかかわらない隊員たちにも全員必修で受けてもらうことに決めた。また、それまでにないことを0から生み出し、トライ&エラーを重ねながら成果をあげていく高倉さんの姿勢は、隊員たちの活動の大きなヒントになったはず」 と語りました。

パネルディスカッションに参加した日本シェアリングネイチャー協会の三好直子専務理事

海外協力隊候補者が受ける北九州市での研修にコーディネーターとしてかかわった株式会社ecommitの向井候太氏は、「北九州市は、公害・汚染問題を克服し、循環型社会や環境都市を目指してきた歴史ある地。研修でも、北九州市の行政や企業という地域のサポートも大きく、協力隊候補者が現場のアクターに実際に会って学びを得たのも、高倉式コンポストが広がる成果に結びついたのではないか」と述べました。

パネルディスカッションに参加した株式会社ecommitの向井侯太氏

モデレーターを務めたJICA地球環境部の田村えり子審議役は、「研修員受け入れを担当していたときに髙倉さんと出会ったが、髙倉さんの話を興味津々に聞きながら、研修員たちが“自分もやってみたい”と意欲的になっている様子が伺えた。そして北九州市は多くの関係者が熱い想いを持ち、環境分野のノウハウがつまっている場所。JICAとしてこれからも共に世界の環境問題に取り組んでいけたら心強い」とコメントしました。

モデレーターを務めたJICA地球環境部の田村えり子審議役

質疑応答では、社会貢献のイノベーションを定着させる秘訣、企業の社会貢献、高倉式コンポストの北九州市や日本国内での展開など、多岐にわたる質問が寄せられました。

閉会のあいさつに立った北九州市の片山憲一副市長は、北九州市とスラバヤ市が環境姉妹都市であることにも触れつつ、「高倉式コンポストは世界をつなぐ合言葉。海外展開のツールとして、北九州市はこれからも世界の持続的な発展につなげていきたい」と述べ、セミナーを締めくくりました。

閉会のあいさつに立った北九州市の片山憲一副市長

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