世界的な試練の中で国際開発協力の未来を示す—ソウルODA国際会議に峯研究所長が参加

2024.03.19

この3年間で起こった一連の世界的危機により、開発協力の既存モデルは過去数十年で最も厳しい試練にさらされています。全ての人により良い世界を実現するという目標の達成は、新たな資金捻出への制約、人道支援に対する需要の高まり、政情のさらなる複雑化によって一層困難になっています。

2023年9月7日、韓国外務省と韓国国際協力団(Korea International Cooperation Agency: KOICA)は、「Future of International Development Cooperation: Global Solidarity and Cross-sectoral Approaches in a World of Challenges」をテーマに掲げ、第16回ソウルODA国際会議を開催しました。JICA緒方貞子平和開発研究所(JICA緒方研究所)からは、峯陽一研究所長が第3部「The Future of International Development Cooperation for Co-prosperity」にオンラインで参加しました。

メキシコとインドネシアの視点から開発協力の知見を共有

第3部では、まずメキシコ国際開発協力庁(Mexican Agency for International Cooperation for Development: AMEXCID)のカルロス・ハビエル・カスティーヨ・ペレス副長官が自国の国際開発協力の仕組みについて発表し、地域の平和と開発を支援するための教育・訓練と組み合わせた条件付き現金給付プログラムの有効性を強調しました。続いて、インドネシア国際開発庁(Indonesian Agency for International Development)のトール長官が、共栄に向けた国際協力の未来について論じ、協力モデルの相互補完性、政策・施策の連携、知識共有とピアラーニング(協働学習)を通じて国際協力の強化が達成し得ることを示しました。

人間の安全保障と横の連携を内包する開発協力の新パラダイム

峯研究所長は「Human Security for Future Development Cooperation」と題して発表し、まず人間の安全保障の概念は未来の開発協力の重要な哲学になるという見通しを示しました。次に、第二次世界大戦後の世界では開発協力の在り方が変化してきたとし、当初は開発途上国による国づくりへの支援を主な目的としていた開発協力が、南北の国家間の関係が対等になるにつれ、現在の規範的な援助モデルへと変容してきたことを説明しました。さらに、世界は複合的な危機に直面しており、いかなる国もそれらに単独では対処できないため、協力の必要性が高まっていると強調しました。

JICA緒方貞子平和開発研究所の峯陽一研究所長は、多様なアクターのより水平的な連携を組み込んだ新たな開発協力パラダイムが重要だと強調

続いて峯研究所長は、JICAの田中明彦理事長によるワーキングペーパーを引用し、世界が直面する困難を3層に分類し、その複合性を説明しました。1層目は、「物理システム」が引き起こす自然災害で、気候変動が誘発する災害もここに含まれます。2層目は「生命システム」が関わって生じる感染症や農業危機などで、3層目は「社会システム」が引き起こす戦争、経済危機、極度の貧困です。これらのシステムは相互に連結しており、あるシステムでの人間活動はしばしば別のシステムでの問題につながるとし、例えば、気候変動は人間の「社会システム」での活動に起因し、感染症は人間が「生命システム」へ介入することによって生じると説明。現代では、この相互の連結性がかつてないほど顕著になっていることを示しました。

峯研究所長は、こうした複合的で連鎖的な脅威に対処するには、政府、民間セクター、市民社会、宗教コミュニティー、学術界など、多様なアクターのより水平的な連携を組み込んだ新たな開発協力パラダイムが重要だと強調。「連帯に基づくリソースを動員して、トップダウンによる政府からの保護とボトムアップとしての市民のエンパワメントを組み合わせ、コミュニティーのレジリエンスと個人の尊厳に焦点を当てることで、あらゆる人の自由と安全を確保すべき。これこそが人間の安全保障の根幹だ」と述べました。そして、日本が開発協力の基本理念として人間の安全保障に尽力してきたことにも言及したほか、多極化が進む世界秩序を再形成する上で、国益と国際公共財の供給のバランスをとる重要性を強調し、発表を締めくくりました。

質疑応答では、「共栄に向けた開発協力の強化のため、どのような革新的アプローチが実行し得るか」との質問がありました。峯研究所長はこれに対し、「イノベーションは孤立した場所で生じるものではなく、水平的な連携の構築を通じて既存のさまざまなアクターが交流することで生まれ得るもの」と応じ、JICAが現在、企業や市民団体、他の援助機関と密接に協力する方針を採っていることも紹介しました。

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