プロジェクト・ヒストリー『苦難を乗り越えて、 国づくり・人づくり―東ティモール大学工学部の挑戦』出版記念セミナー〜東ティモールの国際化とASEAN加盟に向けた高度工学人材の育成〜開催

2024.04.05

2024年2月22日、JICA緒方貞子平和開発研究所(JICA緒方研究所)は、プロジェクト・ヒストリー『苦難を乗り越えて、 国づくり・人づくり―東ティモール大学工学部の挑戦 』出版記念セミナーを対面とオンラインで開催しました。

冒頭、JICA緒方研究所の宮原千絵 副所長が開会のあいさつに立ち、「JICAは、2002年に独立した東ティモールに対し、国づくりの最初の一歩から支援してきた。その一つが同書籍でとりあげられている東ティモール大学工学部への支援だ」と紹介しました。

オンライン参加に加え、会場にも多数の参加者が来場

20年で人が育ち学部の能力が向上

第一部では、まずJICA人間開発部高等・技術教育チームの岩崎昭宏参事役がJICAの高等教育支援について紹介。拠点大学の育成、域内や日本の大学間とのネットワーク構築、日本への留学支援という3つのアプローチをとっていることを説明しました。

JICA人間開発部高等・技術教育チームの岩崎昭宏参事役がJICAの高等教育支援を紹介

続いて、同書の著者の一人である風間秀彦元埼玉大学教授が登壇し、約20年にわたる東ティモール大学工学部支援の背景と内容、課題、成果をまとめた同書籍について紹介しました。「分数の計算ができないほど東ティモール大学の教官の学力が低かったり、東ティモール政府が急に教育言語を公用語であるテトゥン語とポルトガル語に限定してきたり、日本側の一部の支援大学が支援を継続してくれなかったり……と、実にさまざまな困難に直面した。それらを乗り越えてプロジェクトを進めていくためには、東ティモールの人々と同じ土俵に立ち、同じ目線での対話を心がけて信頼関係を築くことが何より大事だった」と振り返りました。3フェーズにわたる技術協力プロジェクトによる支援を経て、現在では工学部の学科数が5つに増え、教官全員が修士号以上を取得して大学人として育ってきたことから、今後の発展が期待できると結びました。

著者の一人、風間秀彦元埼玉大学教授が書籍の概要を紹介

今後はASEAN加盟を見据えた人材育成支援へ

第二部では、同書籍の著者の一人で、JICA勤務時に同プロジェクトを担当していた笹川平和財団アジア・イスラム事業グループの小西伸幸グループ長がモデレーターを務めるパネルディスカッションが行われました。

まず、著者の一人であり、約10年にわたり支援に携わったJICA人間開発部特別嘱託の髙橋敦氏が発表。行政機関のトップなどに就任して活躍している教官と卒業生、日本の卒論研究指導スタイルの浸透、工学部一体で取り組む研究活動などの事例を挙げ、東ティモール大学工学部の成長を示しました。

モデレーターを務めた笹川平和財団アジア・イスラム事業グループの小西伸幸グループ長(左端)と、発表したJICA人間開発部特別嘱託の髙橋敦氏(右端)

2023年11月には、東ティモール大学工学系大学院の設立支援がスタートしています。チーフアドバイザーとして引き続き支援にかかわる山口大学の関根雅彦教授は、国を代表する高等教育機関として、知識と技術を社会に応用し、リーダーシップを発揮して社会貢献できる人材育成を目指すとし、将来は日本やASEANの研究者と共同研究を行える人材の育成を目指す必要があると述べました。

国際頭脳循環で知見を深め、国づくりに貢献を

続くディスカッションでは、「現在の東ティモールの主要産物は農産物や石油・天然ガスという状況下で、工学系高度人材の需要がどれくらいあるのか?」という質問に対し、関根教授は「例えば首都では、排水や橋の劣化といった対策や設計に、現在は軒並み海外のコンサルタントが対応している。高度人材が育ってないために、国内の産業になっていかない。特に土木の分野では高度人材が必要とされている」と答えました。

「プロジェクトに日本の大学が参画するメリットは?」という質問には、著者の一人であり、電気工学分野を支援した岐阜大学の吉田弘樹教授が応じ、「東ティモールからの留学生の論文が非常に優れていたことで研究室が活性化された。今では逆に日本の学生が東ティモールに短期留学をするまでになった」と例を挙げました。また、岩崎参事役は、「開発途上国から日本に留学生が来て終わりではなく、日本からも開発途上国で学び、お互いが知見を深めて研究やイノベーションにつなげ、循環する仕組みをつくりたい」と述べました。

ディスカッションに参加した山口大学の関根雅彦教授(左)と岐阜大学の吉田弘樹教授

さらに、これまでに支援に関わったJICAタイ事務所の鈴木和哉所長、東ティモール社会の開発に造詣の深い早稲田大学の山田満教授、岐阜大学在籍時に東ティモール大学に短期留学した中村貫志氏からオンラインでコメントが寄せられました。

参加者からは、「高等教育を受けた東ティモールの人々の知識をどのように国づくりに生かしていくか?」と質問が挙がり、関根教授は「今では何か課題があったら東ティモール大学工学部に相談が来るまでになった。現地のニーズに応えられる問題解決型の研究を続け、産官で協力して、国づくりに役立てたい」と応じました。

このセミナーの動画は以下のリンクからご覧になれます。

関連動画

【東南アジア・教育】プロジェクト・ヒストリー「苦難を乗り越えて、人づくり・国づくり」発刊記念セミナー【緒方研究所:セミナー】

関連する研究者

\SNSでシェア!/

  • X (Twitter)
  • linkedIn
トピックス一覧

RECOMMENDこの記事と同じタグのコンテンツ