『Confronting Land and Property Problems for Peace』
JICA研究所の研究成果に基づく英文書籍Confronting Land and Property Problems for Peaceが、英国のRoutledge社から5月27日に発刊されました。
同書は、JICA研究所が2011年から2013年に実施した研究プロジェクト「紛争後の土地・不動産問題-国家建設と経済発展の視点から」の研究成果をまとめたもので、暴力的紛争の影響を受けている社会における土地や家屋など不動産をめぐる問題を扱っています。
暴力的紛争を経験した国では、脆弱なガバナンス、難民・国内避難民の流出入、恣意的な政策などにより、人々の生活に直結する土地などの不動産をめぐる紛争が特に起こりやすい状況が存在しています。このため、土地・不動産問題の適切な解決・管理は、人々の生活を安定させ、国民の目から見た国家の正当性を確保するために、また包摂的な経済発展によって国民の生活を向上させるために重要です。
「紛争後の土地・不動産問題-国家建設と経済発展の視点から」研究では、こうした問題意識に基づき、紛争影響国における土地・不動産問題の実態と当該国政府や国際社会の対応を分析すると共に、特に長期的な平和構築の観点から平和の確立のために何が必要なのかを明らかにしようと試みています。その比較事例分析では8カ国*を取り上げています。
開発と土地問題については、従来から多くの研究がなされてきましたが、本研究では「紛争影響国」という切り口で、注目が集まりがちな紛争直後の緊急・人道支援フェーズではなく、長期的視点に立った考察を行っています。また、これまでの研究が国際社会など外部アクターの対応に焦点を当てているのに対し、当該国政府をはじめとする現地アクターを主軸として分析し、外部アクターの役割の再考を試みています。
本書では、本研究を通して得られた知見をもとに、次のような提言がなされています。
① 帰還民への土地・家屋の返還は重要であるものの、紛争前の状態を回復することが常に最善策とは限らないこと
② 紛争によって混乱した状況に対応するための紛争解決メカニズム、とりわけ調停制度の強化が重要であること
③ 土地をめぐる問題については、関係する行政や司法を含めた包括的なガバナンスの強化を検討するとともに、民間企業の投資が住民に悪影響を与えないような制度作りを検討する必要があること。
また、紛争後の土地・不動産問題に関する議論は、これまで人道援助関係者が中心であり、開発援助関係者との間にギャップがあることから、紛争終結後の早い段階から開発援助関係者も議論に関与し、平和構築や長期的な開発支援に土地ガバナンス向上の視点を組み込む重要性についても指摘されています。
本研究は、7カ国14名の研究者による国際共同研究として実施されました。 JICA研究所からは、本書籍の編者であり序章とルワンダおよびブルンジの事例分析(共著)を執筆した武内進一客員研究員(当時)のほか、片柳真理主任研究員、室谷龍太郎研究員(肩書きはいずれも研究実施当時)が、それぞれボスニア・ヘルツェゴビナとカンボジアの事例分析を担当し、3名が最終章の政策提言をまとめています。
*南スーダン、ウガンダ、ルワンダ、ブルンジ、ボスニア・ヘルツェゴビナ、コロンビア、カンボジア、東ティモール
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