No.9 これからの日本社会を創る国際教育の意義とJICAの役割

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2023年6月に改定された開発協力大綱では、開発協力の社会的基盤として学校教育等での開発教育の重要性が明記されている。一方で、学校教育では、開発教育よりも国際教育という用語が浸透しているが、国際教育自体が学校教育の中で一部の教科で限定的に取り組むものとして認識されている。そして、国際教育より認知度の低い開発教育はさらに周縁化された状況に置かれている。このように開発協力への市民の理解を向上したいと考える立場から開発教育に向ける熱い眼差しと、従来から議論されてきた国際教育の枠組みに立つ学校現場からの眼差しには温度差がある。このことを理解した上で、国際教育の先行研究が論じてきた学校教育における課題や新しく勃興してきた外国につながる子供の教育に対し、JICAが実施する開発教育支援事業の可能性を提示したいと考えた。それにより、これからの日本社会を創るうえで必要となる国際教育の意義とJICAの役割を示そうとするのが本稿の目的である。本稿では、「学校教育において、JICA開発教育支援事業はどのような実践の可能性を持つだろうか」という研究設問に関して、国際教育の実践は特定の教科でしかできない訳ではなく、領域・教科横断的であることが分かった。次に「外国につながる生徒への対応に関して、JICA開発教育支援事業はどのような意義を有しているのか」という研究設問に関しては、外国につながる子供が置かれた特殊な背景を「公正」という視点から、教員や学校以外の関係者が捉えていくことの重要性が明らかになった。先行研究が論じていた課題のうち、本稿では次の示唆を導き出した。第一に、理念(視点・考え方)をどのように設定するかが、国際教育を考えるうえで最も大事な視点であること、第二に、国際教育は比較の手法により日本の社会・地域の「当たり前」を問い、多様化する現代社会に必要なシステムへの転換の視点として活用できること、第三に、国際教育は教師の授業における願い・狙いと、児童生徒の学びたいという反応とをつなぐ「参加型学習」を通じて、教員・児童生徒双方の学びを自分事化できることである。このような学校現場での実践を支える取り組みとして、JICA開発教育支援事業は重要な役割を果たしていると言える。

キーワード
国際教育、参加型学習、自分事化、多様性、公正

著者
澁谷 和朗、 新川 美佐絵、 北村 友人
発行年月
2023年11月
言語
日本語
ページ
16
関連地域
  • #アジア
開発課題
  • #教育
研究領域
人間開発