No.11 SDGsを巡るグローバルファブラボネットワークの動向
JICA緒方研究所について
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「ファブラボ」とは、3Dプリンターやカッティングマシンなど、多様な工作機械を備え、市民が思いついたアイデアをすぐに形にするのに利用できる、実験的な工房の世界的なネットワークである。工房の数は2015年8月時点で77ヵ国に555施設あったが、2023年7月時点で123ヵ国2,308施設へと急増している。開発途上国でも設立の動きが多いが、これら現地コミュニティの公共財と、現地でのJICA事業が接点を持ったケースは非常に少ない。
本稿では、2015年9月の国連SDGsサミット以降のファブラボのグローバルネットワークの取組みについて、①SDGsの意識化、②持続可能な都市、③保健医療福祉、④人材育成、⑤自然災害・紛争対応等特定国の特定のニーズへの対応の5つの側面から情報整理を試みた。世界各国のファブラボの多くは、「SDGs」を明確に意識しているわけではない。しかし、これまでネットワークにおいて重点的に取り組まれてきた活動領域のほとんどが、何らかの形でSDGsに貢献するものである。特に、全世界のファブラボの多くが取り組むSTEAM教育を通じた「21世紀型スキル」習得は、SDG4に限らず多くのゴールにも波及する。
緊急人道援助の現場におけるデジタルファブリケーションの活用や自助具のカスタマイズ製作のように、小口かつ多様なニーズに迅速にその場で応える現地生産施設をファブラボが有すること等、利用者側の活用の仕方次第で、ファブラボの分散型生産施設と工房間ネットワークがSDGsの横断的理念である「誰も取り残さない」ことに貢献できる余地は大きい。
JICAの実施する開発協力における人材配置は、ファブラボのような生産拠点分散化との親和性が高い。しかし、専門家やコンサルタント、ボランティアといった開発協力人材が近隣のファブラボの活用を検討するようになるには、案件実施と人材の配置を企画立案・実施監理するJICA現地事務所員及び本邦勤務職員の間でのデジタルファブリケーション理解促進が課題となる。
キーワード
ファブラボ、デジタルファブリケーション、ブータン、STEAM、都市、障害者、パンデミック、災害
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