No.14 アフリカの食料安全保障とコメ生産増の可能性―アフリカ稲作振興のための共同体(CARD)の推進と今後の稲作開発―
JICA緒方研究所について
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食料安全保障はアフリカが直面してきた長年の課題であり、将来人口増加率の高さや気候変動の深刻化等から更なる悪化が懸念されている。食料安全保障上で特に重要性が高まっているのがコメであり、アフリカの主要食糧作物の中でもコメの需要の伸びが顕著に高い。アフリカにおけるコメ生産増に向けて、2008年から国際的なイニシアティブ「アフリカ稲作振興のための共同体(Coalition for African Rice Development: CARD)」が実施されている。CARDフェーズ1では目標としたサブサハラアフリカ(SSA)におけるコメ生産倍増(2018年:2,800万t)を達成し、現在はCARDフェーズ2に移行し更なる倍増(2030年:5,600万t)に取り組んでいる。しかし、これまでの生産増は主に面積拡大によるものであり、生産性は徐々に改善傾向にあるものの依然低位にとどまる。SSAの稲作の潜在収量(potential yield)に対する実収量(actual yield)は、他地域と比べても非常に低いことから、今後生産性の向上が求められる。
1960年代に始まった緑の革命の際、アジア各国では食糧生産強化に向けて国家予算の10~15%を農業セクターに配分し、研究・技術開発、普及、灌漑インフラ整備等を集中的に実施した結果、コメの生産性が飛躍的に向上した。しかし、アフリカの国家予算に占める農業セクターの割合は平均2.55%(2020年)に過ぎず低下傾向にある。今後主に生産性の向上を通じたコメの生産増に向けて、アフリカ各国政府による必要予算確保に向けた努力が求められる。併せて、開発援助機関の支援による事業実施、民間セクターからの資金動員を促す必要がある。
将来のアフリカのコメ生産量に関して、Yuan et al.(2024)が提案する現在のペースでの生産面積増(40万ha/年)とアジアの緑の革命時の収量増(52kg/ha/年)を組み合わせた場合には、2030年のSSAのコメ生産量は5,513万tとなり、CARDフェーズ2の目標(2030年:5,600万t)にほぼ到達する。しかし、現在のアフリカ農業セクターを取り巻く状況は緑の革命時とは大きく異なり、多様な開発ニーズ・視点を踏まえた取組が求められるため、食糧生産増だけに注力することは難しい。CARDフェーズ2の目標は非常に野心的で達成は容易ではないが、この高い目標はアフリカの政策決定者の危機感を醸成し、行動を促す上では有効である。将来の食料安全保障を考えると、2030年をターゲットとする短期的目標だけに固執することなく、長期的視点から持続性と強靭性のある稲作開発を推進していくことがより重要となる。
キーワード:アフリカ食料安全保障、コメ、Coalition for African Rice Development (CARD)
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