Managing Institutional Multiplicity: A Case of a Bilateral Development Agency’s Regional Office
JICA緒方研究所について
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新制度派組織論では、組織は自らを取り巻く制度的環境において期待される姿を示すことで存続できるとしています。しかし、二国間開発機関の海外地域事務所のように、本国にある本部と複数の受入国の制度的環境下に同時に置かれる組織が、この重層する制度的環境をどのようにマネージし、それぞれの制度的環境下で存続できているのかについてはほとんど研究されていません。また、二国間開発協力機関の海外地域事務所のように、本国から派遣されたスタッフと現地スタッフとが混在する組織の行動をより詳細に理解するためには、ミクロの視点も必要です。そこで本研究は、新制度派組織論にミクロ・ポリティックスの視点を加えた視座を通じてこの問いに答えています。
二国間開発機関の南東欧を管轄する海外地域事務所の職員20名を対象に、遠隔インタビューを実施し、インタビューデータを再帰的テーマティック分析を用いて分析しました。
分析から二つのテーマが浮かび上がりました。一つは重層する制度的環境の分解です。つまり、事務所はそれぞれの所管国にスタッフを配置することで、重層化した制度的環境を管理可能な複数の重複する制度的環境に分解します。もう一つは、制度的環境に期待される姿を見せるための役割分担です。これにより事務所の誰がどの制度的環境に対して期待される姿を示すのかを定めています。
本研究で見られた海外地域事務所によるプロアクティブな行動は、組織行動は制度的環境という外部要因によって決定づけられるという新制度派組織論の主張に疑問を投げかけ、同理論にミクロの視点を組み込む必要性を示唆しています。
二国間開発機関の海外事務所は受入国にとって「ドナー」であるため、本研究の結果は他の公的組織の海外事務所にそのまま適用できません。また今次研究は南東欧にある海外事務所を対象としたもので、結果を他地域の海外事務所に一般化することもできません。
所管国へのスタッフの配置は海外地域事務所が直面する重層化する制度的環境という極めて複雑な状況に対処するための合理的な対処法であることを、二国間開発機関の職員は理解すべきです。なお、これを実現するには経験豊富なスタッフの配置が必要であることにも留意が必要です。
本研究は、公的組織の海外地域事務所が重層化する制度的環境をどのようにマネージしているのかを、ミクロとマクロの複合的な視点から検証するという前例のない実証研究です。
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