『未来を拓く学び「いつでも どこでも 誰でも」—パキスタン・ノンフォーマル教育、0(ゼロ)からの出発』

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『未来を拓く学び「いつでも どこでも 誰でも」-パキスタン・ノンフォーマル教育、0(ゼロ)からの出発』

JICA緒方貞子平和開発研究所では、これまで行ってきたJICAの事業を振り返り、その軌跡と成果を分析してまとめた書籍「プロジェクト・ヒストリー」シリーズを刊行しています。本シリーズの第27弾として、『未来を拓く学び「いつでも どこでも 誰でも」—パキスタン・ノンフォーマル教育、0(ゼロ)からの出発』を刊行しました。

貧困や社会環境、災害、パンデミックなどのさまざまな理由から、義務教育の対象年齢(5~16歳)の子どもや若者のうち、44%にあたる2,280万人もが学校に行っていないパキスタン。学齢期に学校に行けなかった、もしくは中退した若者たちは、就業機会や生活の保障の上でも排除される負のスパイラルに陥ってしまいます。しかし、従来の学校では、「学校」という決まった場所に、決まった時間、決まった学年で学ぶことが前提であり、例えば家計を助けるためにやむを得ず働いている子どもは通えません。しかも10歳を過ぎると小学校の学齢期を過ぎてしまい、再度学校に受け入れてもらえないことも多く、たいていの人は、そこで学ぶことをあきらめ、将来の夢を描くことさえ難しくなってしまうのが現状でした。

しかし、「いつでも、どこでも、誰でも、いくつになっても」学び始める、または学び直せる方法があるのです。それが再チャレンジをしたい人に学ぶ機会を提供するノンフォーマル教育、またはオルタナティブ教育と呼ばれる仕組み。かつては公教育と比較して「二流の教育」と見なされることが多く、著者の大橋知穂氏が2008年にJICAのノンフォーマル教育プロジェクトの専門家としてパンジャブ州に着任した当時も、周囲の協力を得るのが難しく、資金も人材も経験も信頼もない中からのスタートでした。それでも、次第に共にプロジェクトを動かす心強い味方を得て、不就学児童や若者・成人の非識字者が学んで社会に参画していける教育の仕組みづくりや、生活に役立つコンテンツを盛り込んだカリキュラム・教材を開発。その結果、パキスタン4州のうち3州と連邦直轄地域にまでノンフォーマル教育事業を拡大するという成果を挙げています。本書では、困難にどう挑んだかを振り返った10年以上の活動の軌跡に加え、ノンフォーマル教育で学ぶ機会を得た人々のサクセスストーリーと、それを支えるために奮闘したコミュニティーの人々の物語もつめこまれています。

大橋氏は、「学べる環境が当たり前ではなく、何とか手に入れたいものだからこそ、知ることや学ぶことの大切さをノンフォーマル教育の学校に来る人たちは知っている。学んだ後に誰もが得られるものは、自信。それが次への希望になる」と語ります。そして、コロナ禍により日本でも学習機会を奪われる子どもたちがいることがより顕著に浮き彫りになる中、誰にとっても不確実となったこの先の未来を生き抜くためにも、ノンフォーマル教育のような、学習者のニーズに寄り添い、柔軟に対応できる「学び」の在り方が、人の命や生活に関わる基盤を守るためにも重要だと改めて気付かされたといいます。同書には、「一度失敗してもそれで人生が終わりではなく、学ぶことをきっかけにして何度でもいろんな方法でやり直せる」という全ての人々に対するメッセージも込められています。

著者
大橋 知穂
発行年月
2021年3月
出版社
佐伯印刷
言語
日本語
ページ
205ページ
関連地域
  • #アジア
開発課題
  • #教育
ISBN
978-4-910089-11-9