【インタビュー】第15回JICA理事長表彰受賞者 帯広商工会議所・(株)とかち製菓

2020年2月27日

第15回「JICA理事長表彰」を受賞した帯広商工会議所・(株)とかち製菓。
帯広商工会議所は2014年よりタイとマレーシアを支援する草の根技術協力プロジェクトを実施してきました。そのプロジェクトがきっかけとなり、マレーシアへのビジネス展開を実現させた(株)とかち製菓は、中小企業の海外進出の好例とされ、草の根技術協力事業参画企業で初めて農林水産大臣賞を受賞しました。

今回は、帯広商工会議所の武田光史氏、シティ・アズミラ氏、(株)とかち製菓の駒野裕之氏が、FM-JAGA「Hello!JICAfe」に2019年6月8日にラジオ出演した際に語った、草の根技術協力プロジェクトの取り組みや海外でのビジネスの可能性についてレポートします。

帯広商工会議所 武田光史 産業振興部長/シティ・アズミラ 国際ビジネス交流員

Q.これまでのプロジェクトの活動について教えてください。

武田さん:帯広商工会議所は、タイとマレーシアを対象に中小企業の技術協力を行ってきました。具体的には、十勝に強みのある乳製品の加工や、お菓子の作り方、また現地にもニーズがある日本食の作り方の講習会などをやってきました。

Q.プロジェクトで実現したことは?

武田さん:結構面白い成果もあります。例えばタイにおいては、帯広の「北の屋台」が地域を活性化する非常に良いモデルとして興味をもっていただけまして、これから現地で「北の屋台」のような事業をやりたいというアイディアが生まれています。またマレーシアでは、ビジネスマッチングが進んでいます。例えば、(株)とかち製菓さんは和菓子でマレーシアとのコラボレーションをしたり、化粧品をつくっている琥珀さんではハラルの化粧品を製造したり、ソーゴー印刷(株)さんは現地でのフリーペーパービジネスに取り組んでいます。

【画像】(写真提供:帯広商工会議所)    

    
Q.アズミラさんは、十勝におけるムスリムに関する活動にも尽力されています。どのようなことを手掛けてきましたか?

アズミラさん:私自身、十勝に住んで今年で4年になりますが、最初はいろいろと難しかったです。特に食事。帯広商工会議所の事業を通じて、「ムスリムフレンドリーキャンペーン」というのを実施しまして、ムスリムの私も住みやすい十勝になってきていると感じています。

Q,キャンペーンにはどんな効果が?

アズミラさん:「ムスリムフレンドリーキャンペーン」は、2017年に初めて実施しました。ハラルマップを作って、ムスリムフレンドリーメニューを提供できる飲食店が増えて、次の年にはその飲食店を巡るスタンプラリーを作りました。ムスリムの友達や家族が十勝に来るときに、美味しいものがたくさんあるのに食べられないというのは本当にもったいないと思っていたので、非常に良かったと思っています。ムスリムの観光客だけではなく、十勝に在住しているムスリムにとっても、様々な場所で外食ができるようになりました。またそのキャンペーンの一環として、ムスリムフレンドリーセミナーというものも実施しました。その効果で礼拝所が少し増えて、現在は紫竹ガーデンに北海道で一番美しい礼拝所があります。

【画像】(写真提供:帯広商工会議所)


Q.今後の展望について教えてください。

武田さん:これまではタイとマレーシアという2ヵ国で活動をしてきましたが、次期フェーズではマレーシアのケダ州を対象に、十勝との連携を深めていこうと思っています。十勝では「フードバレーとかち」に取り組んでいますが、その結果として地域が活性化したり、中小企業同士が連携したり、生産者と加工業者が連携したり、地域ブランドを発信したりできている。そういう取り組みがすごく良いことだというふうに、ケダ州でも考えてくれています。我々もケダフードバレーを立ち上げて、十勝を見本としてやっていきたいと考えています。

アズミラさん:マレーシア国内でも初めてのフードバレーの取り組みということで、すごく楽しみにしています。

【画像】(写真提供:帯広商工会議所)


株式会社とかち製菓 駒野裕之 代表取締役

Q.帯広商工会議所のプロジェクトは、途上国への支援だけではなく参加した日本企業のビジネスチャンスにもつながっています。(株)とかち製菓がマレーシアへの進出を果たされた経緯、これまでについて教えてください。

駒野さん:マレーシアとの出会いは、JICAの草の根技術協力事業で初めて現地に行ったことがきっかけでした。和菓子というのはあまり知られていないし人気がないだろう、とあまり期待をしないで行ったのですが、意外にも「おもちが好き」というお客さんが多くて、可能性を感じました。

Q.実際に「大福を生産しよう」というところまでは、道のりは長かったのでしょうか。

駒野さん:東南アジアでの和菓子の販売というのは会社の設立時から考えていました。現地では、価格を下げて適正な価格で売らないと売れないのではないかと考えていたので、日本から持っていくということはあまり考えていませんでした。そのためなんとか現地で生産したい、という気持ちを持っていたので、今回JICAのプログラムの中でマレーシアの企業さんと出会うことができたことで、現地での生産をスタートしてみました。

【画像】(写真提供:帯広商工会議所)


Q.その後、国内の工場でハラル認証を取得されていますね。

駒野さん:現地のビジネスパートナーはムスリムの方たちの企業だったので、彼らが作るものはつまり、ハラルなわけですね。そこで大福をつくったりいろいろと開発をしたり技術指導する中で、どんどんハラルのことを学びました。そこで、日本国内の工場においてもハラル認証を取ればビジネスチャンスにつながるのではないかと考えました。同時進行で国内の工場でもハラル認証取得に向けて動き、2年ほどかかってようやく認証を取得することができました。

【画像】(写真提供:帯広商工会議所)


Q.農林水産大臣賞受賞の感想は?

駒野さん:日本国内でハラル認証を取り、マレーシアに輸出して向こうで売っているというところが評価され、賞をいただきました。3月に授賞式に行ってきましたが、多くの大臣賞を取っている企業さんは社歴も輸出の規模も大変大きい会社ばかりで、なんでうちが選ばれたんだというのが感じたところでした。立派な賞状と名誉をもらって十勝に戻ってきましたが、北海道のものを輸出拡大していかなければならない、ということを表彰されたと同時に責任と感じて、うちの和菓子だけではなく北海道の農水産物を輸出できないかということを考えながら、今も一生懸命やっています。

【画像】(農林水産大臣賞 授賞式にて)


Q.初めて海外でビジネスを行う大変さ、苦労はありますか?

駒野さん:うちは和菓子を作る会社を7年前に立ち上げましたが、当時から、日本国内だけの商売で大丈夫かという不安を持っていました。海外に出ないと、大変なことになるんじゃないかというのは多くの経営者も言っていたし、自分も感じていたので。企業を存続していくためには絶対にやらなくちゃいけないとそう思っていたので、大変というよりは、本当に必死に、無我夢中でやってきたという印象です。想いがあればなんとかなるのではないかと思います。


Q.今後の展望について教えてください。

駒野さん:約5年、JICAの支援を受けながらここまでひとりでやってきましたが、この先に進むにはひとりではもう無理だと思っています。現地で、日本人かマレーシアの方を採用して、事務所を設けて、2~3年はしっかり販売等で歩き回りたいですね。そしてマレーシアの会社を独り立ちできるようなところまで持っていくのが課題です。