jica 独立行政法人 国際協力機構 jica 独立行政法人 国際協力機構

インフラ整備を通した和平への貢献

暮らしを支え、地域をつなぎ、「平和の配当」を実感できる社会へ

JICAは、紛争によって破壊されたインフラの復旧や、孤立した地域をつなぐ道路ネットワークの整備を通じ、ミンダナオの隅々まで平和の恩恵を届けるための協力を続けてきました。JICAが開発援助機関としてミンダナオでインフラを整備する活動は、単なる物質的な建設作業ではなく、インフラを通じて「バンサモロ暫定自治政府( BTA )と住民」、「フィリピン政府と住民」、そして「住民同士」の信頼を再構築するプロセスでもあります。

目に見える変化を迅速に:
コミュニティ主導による信頼の再構築

和平プロセスにおいて最も重要なのは、住民が平和に向けた「変化」を迅速に享受し、政府や和平プロセスそのものへの支持を深めることです。JICAは、大規模な開発と並行して、住民のニーズに直結した小規模インフラの整備を Quick Impact Projects (QIPs )」として迅速に進めてきました。QIPsによる「目に見える支援」は2014年にバンサモロ包括和平合意( CAB :Comprehensive Agreement on the Bangsamoro が締結された直後に、「平和の配当」を分かりやすく住民に届けるという効果がありました。平和は地域の発展に資するということを人々が体感することで、紛争への逆戻りを防ぐ狙いがあります。

技術協力 「バンサモロ包括的能力向上プロジェクト」(CCDP: Comprehensive Capacity Development Project for the Bangsamoro) (2019年~2026年)や 「ミンダナオ紛争影響地域社会経済復興支援調査」(SERD-CAAM:The Study for Socio-Economic Reconstruction and Development of Conflict-Affected Areas in Mindanao in the Republic of the Philippines) (2007年~2009年等で行われたQIPsでは、住民自身が組織を作り、自分たちで「地域に何が必要か」を話し合い、施設の建設や運営維持管理に関わりました。

例えば、北マギンダナオ州のキャンプ・ダラパナンなどのコミュニティでは、住民が話し合った結果、学校と集会場が必要であるとし、住民が自ら建設に汗を流しました。そして地域住民とプロジェクトの調整は、新自治政府への移行を主導していたモロ・イスラム解放戦線(MILF)が担いました。自分たちの手で作り上げたという誇りは、施設への深い愛着を生むとともに、MILFとしても平和の果実を迅速に人々に届けるという象徴的な事業を通して、自分たちの要望が形になるという「平和への手応え」を地域に広めました。

QIPsを通じて建設された学校で児童たちにメッセージを送るJICA田中理事長

「ムスリム・ミンダナオ自治地域平和・開発社会基金事業」を通じて建設された学校

また、有償資金協力 「ムスリム・ミンダナオ自治地域平和・開発社会基金事業」 (ARMM Social Fund for Peace and Development Project (2003年~2012年)等を通じて各地に作られた多目的ホールは、紛争でばらばらになった人々が再び集い、対話する場となりました。一つの屋根の下で笑顔で交流する住民の姿は、インフラが単なる「ハコモノ」ではなく、コミュニティの絆を取り戻すための大切な拠点であることを示しています。

パリドさん(2012年)

パリドさんは、紛争の激戦地であり、氏族同士の争い(リド)の絶えないマギンダナオ州ギンドゥルガン町で暮らしていました。彼は、長年敵対関係にあった親族グループとのリドに巻き込まれ、右腕を失くしました。しかし、彼は報復しないことを決意し、JICAのプロジェクトで地域に建設されることになった天日乾燥場・作物貯蔵倉庫・公民館の建設を、住民代表として完成まで導きました。コミュニティの多くの人が安心して施設を使うことができるようにと、パリドさんは彼を攻撃した親族グループと公式に和解しました。和解によってリドを恐れて逃げていた人も地元に戻り、多くの人々が施設を利用しています。インフラ整備と、ひとりの男性の寛容な心が、地域の平和に貢献したのです。

経済の自立と地域を繋ぐ「道」 をつくる

ミンダナオの開発の遅れと貧困の背景には、紛争による長年のインフラ整備の停滞だけでなく、地理的な孤立もありました。JICAは「道」をつなぐことで、この課題に挑んできました。有償資金協力 「中部ミンダナオ道路整備事業 Central Mindanao Road Project (2003年~2011年)などにより、かつて治安が悪く、ぬかるんだ悪路だった場所が、今では物流を支える大動脈へと生まれ変わっています。

道路の舗装は、人々の生活を劇的に変えました。それまで市場へ運ぶ途中で傷んでしまっていた作物を、迅速かつ安価に輸送できるようになり、農家の所得向上に大きく貢献しています。さらに、道路沿いに整備された「ソーラードライヤー(天日乾燥場)」や倉庫は、農家にとって念願の施設でした。これらにより、収穫物を適切な状態で保管・乾燥させることが可能になり、中間業者に安く買い叩かれることなく、正当な対価を得られるようになったのです。

「道」がつながったことで、教育や医療といった社会サービスへのアクセスの改善にも貢献しました。住民からは「以前は病院に行くのも一苦労だったが、今は救急車が村まで来てくれるようになった」という声が寄せられています。加えて、移動時間の短縮と公的機関の巡回性向上により、警察・救急の到達性が高まり、移動時の危険が減少するなど、治安面でも改善がみられます。道がつながり、人とモノが動き出すことは、住民の暮らしを支えます。日常生活のあらゆる場所で感じていた「不満」が、地域のインフラが発展することで、「政府や平和への期待」へと好転することができるのです。

傷跡からの再生と持続可能な未来への架け橋

和平合意後の2017年に勃発したマラウィ事件で壊滅的な被害を受けたマラウィ市において、JICAは無償資金協力 「マラウィ市及び周辺地域における復旧・復興支援計画」 Programme for the Support for Rehabilitation and Reconstruction of Marawi City and its Surrounding Areas (2018年~実施中)を通じ、日常を取り戻すための支援を行いました。この事業は、マラウィ事件が鎮静化した半年後の2018年5月に贈与契約書(G/A)を署名し、協力を開始しています。一度は平和への希望を失いかけた人々にとって、日本の迅速な支援による道路の再建や施設の整備は、人々が再び平和への道を歩むための大きな支えとなっただけではなく、日本はマラウィを見捨てないという姿勢を体現しました。

マラウィ市及び周辺地域における復旧・復興支援計画」を通じて整備された道路

現在、JICAの支援は「造る」段階から、それを自分たちの手で「守り、使い続ける」段階へと進化しています。新たに開始される技術協力プロジェクトバンサモロ地域道路ネットワーク改善・維持管理マネジメント能力向上プロジェクト(Project for Strengthening Management Capacity of Road Network Improvement and Maintenance in Bangsamoro Autonomous Region in Muslim Mindanao (2026年開始予定)では、整備された道路網をBTA及び今後の自治政府が自立的に維持管理していけるよう、技術移転を実施予定です。また、コタバト市に住む人々の健やかな暮らしの源となる上水道の改善に向けた準備も進められています。こうした日々の暮らしの安心をBARMMの隅々まで広げていくことが、和平を後戻りさせないための最も強力な抑止力となります。

JICAが目指すもの:
共に汗をかくプロセスが生む「信頼」

JICAは、インフラ整備を単なる建設事業ではなく、信頼を醸成するためのプロセスと捉えています。
平和を維持するためには、道路や施設といった基盤が不可欠です。しかし、それ以上に重要なのは、それらを「共に造る」過程で住民や行政の間に生まれる絆です。共に汗をかき、形にする。そのプロセスで育まれた「信頼」こそが、何よりも強い平和の礎です。