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徹底した経営指導でSDGsへの貢献を目指すスタートアップ企業の成長を促す:アジア15社を対象にアクセラレータープログラムを実施、「アジア新興テックピッチ決勝戦」も開催

2022年2月22日

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「JICA NINJAアクセラレーター2021」に参加した15社の代表者たち。このアクセラレーションプログラムにより、ビジネスへの理解と投資家の視点、さらには国内ならびに国外展開に向けた視野を身に付けました

開発途上国の社会課題をビジネスで解決しようと挑戦中のスタートアップ企業の成長を促す「JICA NINJAアクセラレーター2021」プログラム。今回は、東南アジア、南アジアの5カ国から参加企業を募り、応募のあった216社の中から15社を選抜して、9週間のアクセラレーションプログラムを実施しました。ビジネスに必要な基礎知識を体系的に学ぶ講義を受講すると共に、各社の専属メンターから事業計画のブラッシュアップのアドバイスやアジア新興テックピッチ決勝戦に向けたトレーニングを受けた各企業の経営者らは、その学びを活かし、さらなる成長へと動き始めています。

自身の経験から、バングラデシュでのメンタルケアを充実させたいという想いでビジネスを立ち上げた

「『もし、自分たちがユニークなビジネスモデルを持っていると思うなら、それを信じて突き進みなさい。ビジネスチャンスをつかみ、バングラデシュの中で先行者になるのです』。私たちのメンターを務めたトーマスさんの言葉が、今でも心に残っています。このプログラムは、私たちのビジネスに息を吹き込んでくれました」

そう話すのは、バングラデシュから「JICA NINJAアクセラレーター2021」に参加した「Moner Bondhu(モナー・ボンドゥ)」創業者兼CEOのShiropa Tawhida(タウィダ・シロパ)さんです。

「モナー・ボンドゥは、メンタルヘルスケアを専門に行うバングラデシュのスタートアップ企業です。事業立ち上げのきっかけは、私の母が患ったうつ病でした。母の病が深刻化した時に私たち家族が痛感したのは、『心に不調を抱えたすべての患者には、専門家によるメンタルヘルスケアと守秘義務の守られた環境が必要』ということです。そのため、私は、会社を立ち上げ、心の不調を訴える人を対象にした専門家による低価格のカウンセリングサービスや、バングラデシュに根強く残るメンタルヘルスの不調に対する偏見を解消するための情報発信を始めました」

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シロパさん(写真右)と、シロパさんの母(写真左)。企業名の「Moner Bondhu」は、「あなたの心の友達」という意味から名付けられました

「メンタルヘルスの不調はstigma(不名誉な烙印)と考えられてしまい、相談できずに問題を抱え込んでしまう方が数多くいます。バングラデシュでは約2,000万人がメンタルヘルスの不調に苦しんでいると言われ、特に、新型コロナウイルスの影響下、若者や女性が自死に追い込まれるケースも増えています。モナー・ボンドゥの総利用者は現在200万人で、今後2年間で、さらに100万人に対してサービスを拡充させる計画です。メンタルヘルスケアは喫緊の課題となるなか、私たちの強みは、24時間、迅速に、徹底した守秘義務のもと、プロフェッショナルによるケアを安価な価格で提供することです」とシロパさんは言います。そして、「JICA NINJAアクセラレータープログラムは、JICA、モナー・ボンドゥのチームメンバー、メンターや専門家との素晴らしい旅でした。 私たちは多くのことを学び、メンタルヘルス分野でより多くの新しいイノベーションをもたらし、多くの人々の助けになりたいと願っています」と、意気込みを示します。

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モナー・ボンドゥは24時間365日の体制で運営されています。スタッフは、メンタルケアのトレーニングを受け、心理学者や心療内科医と連携しながらユーザーとコミュニケーションを図ります(写真の中央がシロパさん)

15社がプログラムで磨き上げたビジネスプランを披露:「アジア新興テックピッチ決勝戦」開催

JICAが開発途上国における起業家支援やビジネスイノベーションの創出をサポートする「Project NINJA」の一環で実施された「JICA NINJAアクセラレーター2021」では、その集大成として、参加した15社によるビジネスピッチ「アジア新興テックピッチ決勝戦」が今年1月に開催されました。世界的に成功した起業家・投資経験者による講義や、国際的なビジネス経験を有する専属のメンターがプログラムに参加するスタートアップ企業に伴走することにより、参加スタートアップ企業のビジネスマインドを醸成し、スキルを身に付け、事業計画のブラッシュアップに取り組んだこのプログラムの総仕上げとなります。SDGsに貢献する様々な分野の革新的なビジネスモデルを携え、15社のスタートアップが、プログラム参加による成果を競い合い、投資家向けにビジネスピッチを行いました。

このビジネスピッチには、37社のベンチャーキャピタル、コーポレートベンチャーキャピタル、インパクト投資家が集まり、ビジネスマッチングの場ともなりました。

ビジネスピッチに参加したベンチャーキャピタルのグローバル・ブレインの松本達矢さんは、モナー・ボンドゥについて、「コロナ禍において、日本でもメンタルヘルスの重要性とセルフケアが課題となっています。メンタルヘルスの課題は先進国も開発途上国も変わりません。彼らが生み出した独自の解決策に注目しました」と言います。

ピッチイベントの最中に、投資家は興味を持ったスタートアップ企業にリアルタイムで面談を申し込める仕組みで、モナー・ボンドゥには、複数の日系企業から面談の申し込みがあり、すでにやりとりが始まっています。さらに、投資家からは、「参加国も事業分野もバラエティーが豊かで、投資の判断材料となる情報もコンパクトにまとまっていて、早速、いくつかの企業と面談を設定しました」との声もあがり、プログラム参加の15社、投資家らにとっても、このピッチイベントは有意義な時間になりました。

イベント当日、投資家が事業内容とパフォーマンスに対して投票を行い、その結果も発表されました。参加した投資家による投票の結果、「Best Performing Startup」で1位に輝いたのは、フィリピンの「Packworks(パックワークス)」。パックワークスは、フィリピン全土の12%に相当する135,000の零細店舗にモバイルアプリを提供します。消費財流通をオンライン化し、マーケティングデータ収集や店舗経営の効率化を図るビジネスを展開、年内には、取扱い店舗数を220,000にまで拡大する計画です。

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「Best Performing Startup」1位の受賞企業パックワークスの経営者によるプレゼンの様子。サリサリストアと呼ばれる零細店舗はフィリピンの村や町角に多く存在し、多くの場合、女性が経営しています。地域住民が消費財を購入する他、地域の社交場ともなっています

途上国で生まれたソリューションを日本の課題解決にもつなげる

「JICA NINJAアクセラレーター2021」を振り返り、JICA民間連携事業部の原昌平部長は、その意義を次のように話します。

「途上国で起きている課題は、実は日本にも存在しています。たとえば、JICA SDG賞を受賞したマレーシアの『clickncare(クリックケア)』は、移民労働者が母国語で医療を受けられるサービスを提供しています。このサービスは、日本に住む外国人にとっても有用ではないでしょうか。また、モナー・ボンドゥは、急速な経済成長に伴いバングラデシュの社会が大きな変革を遂げるなかで起きている現在進行形の社会課題に光を当てた取り組みであり、もちろん日本も同じような課題に直面しています。JICAは、Project NINJAの取り組みを通して、スタートアップ、日本の企業、そして投資家の皆様のなかで触媒的な役割を担い、それぞれの反応を促進していきたいと考えています。また、我々自身も変化していきたい。課題解決の方法を学びながら、オープンに、迅速に、そして様々なステークホルダーの方々、特に民間企業およびスタートアップ企業と手を結び合って行きたいと思っています」

参加したスタートアップ企業のビジネスは次のステップへと進み始めました。JICAは今後も参加した企業へのサポートを継続し、ビジネスのスケールアップを後押ししていきます。