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- インドにおける女性の金融包摂に向けたインパクト測定手法の検証
概要
実施内容
2021年に女性金融包摂支援の一環として融資を行ったインドの金融機関Northern Arc と連携し、テクノロジーの活用を通して、データ管理・統合の最適化を行い、より幅広くかつ詳細なインパクトデータの計測方法を模索してきました。本実証実験では、この分野のテクノロジープレーヤーを選定し、同国における女性の金融アクセス改善とその他のイニシアチブに繋がるインパクト計測の手法の検証を図ります。
デジタルパートナー
実施期間
2023年6月中旬から10月中旬までの約4ヵ月間
案件ステータス
目次
背景
インドは男女格差を測るジェンダーギャップ指数の総合スコアが153カ国中112位(Global Gender Gap Report 2020)と、ジェンダー間格差が極めて大きい国の一つです。中でも、経済的活動への女性の参加機会が依然として限定されており、同国の女性人口の40%強にあたる約2億8千万人が金融サービスにアクセスできない状況に置かれています。女性の金融アクセス改善にあたっては、地方部にも拠点を有し個人向けの貸し付けを多く行うノンバンク(Non-Banking Financial Company: NBFC)の果たす役割が大きく、彼らが安定した資金調達を行える環境を整えることが重要です。
2021年8月、JICAはインドを拠点とする Northern Arc Capital (Northern Arc)と、マイクロファイナンスを通じて女性の金融アクセスを改善するための5000万ドルの融資契約に調印しました。ジェンダーインパクトの測定とモニタリングを進める中で、Northern Arc は Nimbus という社内システムを採用し、エンドユーザー向け貸付金のデータ管理、スコアリングの合理化を促進してきました。同じくJICAも、拡大を続けるグローバルにおけるインパクト投資ポートフォリオを管理するために、効率的でより詳細なインパクト測定の仕組みと手法を模索しており、この分野のテクノロジープレーヤーの力を借りることで、データ管理手法を強化し、より幅広い詳細データを取得する機会があると考えました。
JICAは、インパクト計測 SaaS 企業であるSAMETRICAを選定し、Northern Arc及びパートナーシップを組む地場のNBFCとともに、より詳細なインパクト計測手法と、最適化されたデータ管理・統合アプローチの検証に向けた実証実験を始動しました。
PoCの実施要件
実施内容
複数のESG・インパクトフレームワークに沿った定量・定性指標の両方に基づき、ジェンダー関連の指標により重きを置いた形でインパクト計測を行う
対象借入人
計2000人程度
実施期間
2023年6月中旬から10月中旬までの約4ヵ月間
対象NBFC
- Arohan Financial Services Limited (Kolkata)
- Dvara KGFS (Hyderabad)
- Satya Microcapital Limited (New Delhi)
技術的要件
- データ統合ソース・フォーマットにの異なるデータの活用性を向上させ、インパクトとESGパフォーマンスを特定するため
- レポートの自動生成標準化された基準に則り、ライブタイムでカスタムインパクト計測を行うため
- 匿名化技術個人識別情報を保有することなくコホート解析を行いながら、プライバシーやデータ規制を遵守するため
RESULT
実施概要
本PoCでは、3つのNBFC(Non-Banking Financial Company)、2800人以上の借入人が参加し、Northern Arcによる女性の金融アクセス改善に向けた融資のインパクトに係る定量・定性データを収集しました。
定性データの収集のため、電話・対面・SNS等を通し、融資による生活への影響等を借入人にヒアリングを行いました。調査にあたっては、識字率や文化的規範も考慮しつつ、4言語(ヒンディー語、タミル語、ベンガル語、英語)で調査を実施しました。また、定量データとして、Northern Arcのデータ管理システムであるNIMBUSとSAMETRICAのプラットフォームをAPIにより接続し、Northern Arcが保有する貸付額等のデータをSAMETRICAのプラットフォームに集約しました。また、これに加え、公共データ(賃金データ、雇用率、健康状態など)や、SAMETRICA独自のデータセット、アルゴリズムを組み合わせ、インパクトを分析し、その分析結果をダッシュボード上に可視化しました。
その結果、より多様な定量・定性データを踏まえた、詳細なインパクト評価が可能になりました。たとえば、教育においては、「155人以上の生徒が融資のおかげで通学できた」「1ルピーの融資によって平均して20.30ルピーに相当するインパクトが創出された」といった効果が判明し、融資がどの程度女性の生活を向上させたかについての示唆を得ることができました。また、その分析過程においては、最適化されたデータ収集・管理・統合アプローチが検証され、示唆をレポートとしてまとめました。
結果レポート
下記より結果レポートをご覧ください。
案件参加者
デジタルパートナー
- インパクトレポート要件の最終化
- データプラットフォームと接続するためのAPIの開発
- データコレクター、ロジックモデルビルダー、ダッシュボードの設定
- データ収集のための調査員の採用・訓練とデータ収集の実施
- 継続的なデータモニタリングのためのデータプラットフォームの運用とメンテナンス
- モニタリング結果・運用上での学びの集約、分析、議論
SAMETRICAは、アセットマネージャーが社会、経済、環境、ガバナンスの進捗状況とインパクトを可視化するSaaS企業です。データ収集、インパクト・フレームワーク、ビジネス・インテリジェンス・レポートを統合し、自動化システムを構築するだけではなく、あらゆる規模や投資活動を行うクライアントに対し、複数の投資先を集約したワンストップのレポートを提供します。
SAMETRICA Official website
Anshula Chowdhury
CEO & Founder of SAMETRICA
SAMETRICAは、この有意義な取り組みにおいてJICA・Northern Arcと提携できることを嬉しく思います。SAMETRICAのESG・インパクトレポートプラットフォーム、独自のデータセット、専門知識を活用し、両者が創出するインパクトをリアルタイムで可視化することが私たちの役割です。ジェンダーインパクトに焦点を当て、国際的なESG・インパクトフレームワークに則って対象者から直接データ収集を行うことで、インパクト測定における大きな一歩を共に踏み出せることを楽しみにしています。
案件実施後のコメント
Anshula Chowdhury
SAMETRICAのプラットフォームがインドの多様な環境の中でのデータ収集・管理に用いられ、JICAとの概念実証 (PoC) プロジェクトの成功に極めて重要な役割を果たしたことを誇りに思います。当社独自の技術を活用し、包括的なダッシュボード上にリアルタイムかつ実用的なインパクト測定結果を表示し、アセットマネージャーの意思決定を直接支援しました。ダッシュボードは当社のプラットフォーム上にあるもので、Nimbusという社内システムにもAPI連携されました。
当社の専門チームは変化し続ける要件や複雑なデータ環境にシームレスに対応し、このような変革的プロジェクトに求められる高い水準を保ちながらデータの完全性と関連性を確保しました。
このPoCの成功により、受益者からのきめ細かいデータ収集に対しても当社のアプローチが展開可能であることが確認され、貴重な洞察を得ることができました。私たちは引き続きJICAとのパートナーシップで強化された能力を用い、有意義で測定可能なインパクトをもたらす最先端のソリューションをグローバルパートナーに提供してエンパワメントに役立てることを大変嬉しく思います。この連携から得られる成果と経験がSAMETRICAをさらに洗練していくでしょう。
案件オーナー
Ashish Mehrotra
Northern Arc Capital Limited
NACは多様な金融サービスを提供するプラットフォームであり、十分なサービスを受けていない人々の多様なクレジットニーズに対応することを最大の目的として設立されました。当社は主要セクターにおける効率的で信頼できる金融アクセスの提供を目指しています。当社自身のネットワークだけでなく提携金融機関のネットワークも活用し、包括的且つ多面的アプローチで上記を実現することで、インド全土の顧客へ幅広くリーチします。
この野心的なビジョンを実現するために、NACは6,600万件以上のローン記録に基づく6セクターに渡るデータインサイトを活用しています。また最先端テクノロジーの活用により、エンドカスタマーにシームレスなクレジットフロー体験を提供しています。その最前線にあるのが当社独自の融資プラットフォームであるNimbusであり、インドにおけるクレジットの成長を促す上で重要な役割を担うものです。NimbusはEnd to Endの取引を促進しデータ分析を提供することで、NAC業務の効率的と有効性を高めています。
案件実施後のコメント
Ashish Mehrotra
Northern Arc Capital はJICA DXLabと提携し、「インドにおける女性の金融アクセス改善に向けたデータプラットフォームおよびインパクト測定手法の検証」のPoCを実施しました。この取り組みは、弊社にとって大変貴重な経験となりました。プロジェクト設計、国際的なフレームワークに則った調査、JICA DXLabおよびジェンダー平等貧困削減推進室によるタイムリーな調整により、方法論の開発、インパクト測定・レポーティングの要点を理解する機会を得ることができました。PoCでは、多面的なアプローチでインパクトデータを収集するとともに、NIMBUS(弊社独自の融資プラットフォーム)を活用して、融資を通じて創出されたインパクトを可視化することで、ステークホルダーへのインパクトレポートとしてデータを収集するNIMBUSの能力が実証されました。また、中間リテール金融パートナーおよび直接リテール金融事業のインパクト関連データを調査・追跡することで、弊社の各事業におけるインパクトの可視化も可能になりました。今回のPoCのアプローチおよび成果を踏まえ、弊社は今後、国際的なフレームワークに沿ったインパクト測定能力を高めて参ります。
スポンサー
若月 玲子
国際協力機構(JICA)ガバナンス平和構築部ジェンダー平等貧困削減推進室
JICAでは開発途上国の課題に取り組む事業戦略グローバルアジェンダ、「ジェンダー平等と女性のエンパワメント」を掲げ,ジェンダー平等貧困削減推進室では、性別にとらわれず誰もが能力を発揮できる社会に向けてさまざまな女性の経済的エンパワメントの推進する取組みやその支援をしています。そうした取組みが本当に、個々の女性のエンパワメントに役立っているのか可視化できないかと考えていた際に、海外投融資事業のNAC社を通じた女性の金融包摂事業のインパクトをデジタルの利用により、可視化する本PoCに参加する機会を得ました。海外投融資課、NAC,また本PoCに係る様々な人々との連携によって、女性のAccess(金融へのアクセス)、Income(収入増)そしてAgency(可能力の向上)等のインパクトを計り、わかり易く可視化することを目指します。そして、その経験を今後の女性のエンパワメントの事業に活かしていきたいと考えます。
佐藤 陽介
国際協力機構(JICA)民間連携事業部海外投融資課/企画役
本PoCは、JICAの海外投融資事業を通じた開発インパクトを可視化しようとする取組です。海外投融資事業では、ジェンダー貧困削減室とも連携して、開発途上国における女性を含む脆弱層の金融包摂を進める取組に注力しています。そうした事業が一人一人の生活にポジティブな変化を生めているのか、インパクトの実像を更に深く(できればリアルタイムに)知ることが重要であると思っていました。Northern Arc Capital社はデジタル志向な金融機関でインパクト投資を今後更に推し進めていく方針でもあり、本PoCのパートナーとして最適と考えています。地道ながら大きな可能性を秘めたこの取り組みの一歩目を内外の関係者と一緒に踏み出せることを嬉しく思います。
案件実施後のコメント
國武 匠
国際協力機構 (JICA) ガバナンス平和構築部ジェンダー平等貧困削減推進室 副室長
今回のPOCにより、JICAの海外投融資を原資とする融資を受けた多くの女性に生活の質の向上、子どもの教育費の増加、食事の質の向上などの効果が確認され、融資事業が一人一人の生活にポジティブな変化を与えていたことが確認出来ました。Northern ArcとSametricaとの共同事業を通じて、インパクトの捕捉と可視化を経験出来たことは、JICAにとって価値のあるラーニングプロセスだったと思います。今後より一層開発インパクトの計測が重要になっていく中で、POCからの学びを活かしていきます。
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