jica 独立行政法人 国際協力機構 jica 独立行政法人 国際協力機構

人財戦略

「信頼で世界をつなぐ」組織であるために
<Message:JICA人事部チーム>

サステナブルな開発への要請を含め、世界を取り巻く課題は重層化・複雑化しています。世界中で事業を展開するJICAが、そうした課題の解決に向けて継続的に価値を創出・提供し、ビジョンに掲げる「信頼で世界をつなぐ」組織であるためには、国内外の様々なパートナーとの間に、一人ひとり、人同士の信頼関係を構築することが基盤であると考えます。よってJICAで働く全員が、まさに組織の基盤を担う「人財」です。

JICAのビジョンの実現には【共創・革新・使命感・現場・大局観】という5つのアクションに共感し、それらを体現する人材が求められていると考え、これらを人事制度の中心に据えています。そのうえで、「ダイバーシティを体現する人材」「学びと挑戦による成長支援」「健全な職場環境」という3つの柱において、様々な取り組みを行っています。2021年度からは、5つのアクションのうち特に共創・革新を後押しするための人事制度改革を行ってまいりました。これからも試行錯誤を重ねながら、更なる人的資本の強化に取り組みます。

「信頼で世界をつなぐ」ため、共創・革新・使命感・現場・大局観を体現するための人事施策の柱。柱1:ダイバーシティを体現する人材。項目1育児・介護などと両立しやすい環境の整備、項目2多様な人材の活躍、項目3高まる人材流動性への対応。柱2:学びと挑戦による成長支援。項目1組織文化づくり、項目2国際協力のプロとしてのスキル獲得、項目3自律的な能力開発・キャリア形成支援。柱3:健全な職場環境。項目1労使関係と労務・健康管理、項目2ハラスメント防止・対応、項目3エンゲージメント。

ダイバーシティを体現する人材
~多様性を尊ぶ多様な人材~

JICAは世界中の国・地域で、多くの日本内外のパートナーと共に、様々な分野・形態に渡る協力事業を展開しています。このような多様な課題に柔軟に取り組み、それぞれの解決に資する価値を提供し続けるためには、JICA自身が豊かな多様性を持ち、それを尊ぶ組織である必要があります。これを実現するために、職制を問わず、あらゆる職員が活き活きと働き続けやすい環境づくりに取り組んでいます。

育児・介護などと両立しやすい環境の整備

仕事と育児・介護を両立できる環境に向けて、育児・介護のための休職・短時間勤務制度を設置するとともに、育児・介護を経験した職員による体験共有セミナーといった、当事者同士がつながり支え合える場の提供なども推進しています。男性職員の育児休業取得率も年々上昇傾向にあり、2023年度には50%を超えました。これらについては、女性活躍に係る取り組みと併せ、人事担当理事を委員長とする「次世代育成及び女性活躍行動計画推進委員会」において毎年取り組み状況をモニタリングし、更なる充実化を図っています。

JICAは、国内・海外に多数の拠点を持ち、多くの職員が世界中の様々な環境で活躍しています。一方で、それぞれの事情に合わせた働き方を選択できるよう、転勤に支障がある職員向けに勤務地を東京都内に限定する制度や、配偶者の海外転勤に伴う休職制度も設けています。他にも、例えば、子のみを連れて海外転勤をする職員への支援策として、現地での保育費用を助成する制度を設けるなど環境を整備しており、2023年度には24名(男性6名、女性18名)の職員が扶養する子と共に海外で勤務しています。さらに、時差出勤や在宅勤務といった制度も導入し、柔軟な働き方を支えています。

育児休業取得率:女性61.0%、男性57.9%(無期雇用者にに限る場合、女性84.4%、男性63.6%)。短時間制度活用者:育児31名、介護2名。配偶者同伴休職取得者:11名。勤務地限定認定者:66名(うち育児23名、介護22名、健康11名、その他10名)。在宅勤務率:19%(本邦勤務者。勤怠入力時に在宅勤務として登録された勤務日の率)。自発的離職率:3.5%(無期雇用者に限る)。

いずれも2023年度。
※1 無期雇用者に限る場合、女性84.4%、男性63.6%
※2 本邦勤務者。勤怠入力時に在宅勤務として登録された勤務日の率
※3 無期雇用者に限る

多様な人材の活躍

JICAは、すべての人材が活き活きと活躍できる環境づくりに取り組んでいます。

女性の活躍推進に関しては、日本政府による独立行政法人の女性管理職比率目標が2025年度末に18%である中、JICAでは2023年度末時点で26.9%を達成しています。「次世代育成支援及び女性活躍推進に向けた行動計画」にて目標値を27%以上(2026年度末まで)と定め、さらに取り組みを進めています。また、経営層からの発信や研修を通じた意識啓発、個別面談によるサポートなど、自分らしいキャリアを選択しやすい環境整備も進めています。多くの女性職員が在外拠点でも活躍しており、2022年度には在外で働く全職員の36.3%が女性でした。なおJICAでは賃金体系における性別差異は設けておらず、2023年度に81.8%であった男女間の賃金格差(男性の賃金水準を100%とした場合の女性の賃金水準)は、女性管理職比率の増加に伴いさらに縮小していく見込みです。

また、2023年度より性的指向・性自認(SOGI:Sexual Orientation & Gender Identity)の多様性を踏まえた取り組みも本格的に推進しており、理事長によるメッセージを発信したほか、就業規則を改正しSOGIハラスメントの禁止を明記し、関連する研修・セミナーを実施するなど、どのような性的指向・性自認を持つ職員でも安心して働ける環境の整備を進めています。

障害者差別解消推進についても、対応要領を策定し、本部、国内拠点、海外拠点の各部署に相談窓口を設置し、また障害者差別解消推進担当を配置しているほか、合理的配慮にかかるナレッジ発信や研修等を行っています。さらに、本部および国内拠点に加えて海外拠点のバリアフリー化にも取り組み、働きやすい環境づくりを図りながら、障害のある方々が積極的に働ける雇用機会の提供を推進しています。

女性職員比率の推移。全体:2021年度45.8%、2022年度46.2%、2023年度47.5%。 管理職:2021年度22.2%、2022年度23.2%、2023年度26.9%。 役員:2021年度7.7 %、2022年度30.8%、2023年度30.8%。

女性職員がいる在外拠点:96.6%(3名以上の職員が配置されている拠点のみを対象として計算)。障害者雇用率:2.53%。

いずれも2023年度。
※3名以上の職員が配置されている拠点のみを対象として計算

世界約100の国・地域に拠点を持つJICAにとり、各拠点で働く現地スタッフも組織の重要な一員です。2023年7月には現地スタッフ向けの研修情報等をまとめたポータルサイトを開設するなど、皆がやりがいを持ち、活躍し続けられる組織となるよう、取り組みを進めています。

さらに、平均寿命の伸長や少子高齢化の進展を踏まえ、JICAではシニアを含む全ての世代が活躍できる組織作りを行っています。2023年度から定年年齢を段階的に引き上げ、シニア人材が豊富な知識や多様な経験を、若手職員の育成や外部アクターとの共創の拡大・深化などへ最大限に活かしながら、活力をもって働き続けられるよう、制度設計を行っています。

年齢構成(全職制):20代8.6%、30代25.1%、40代30.6%、50代26.2%、60代以上9.5%。

2023年度

高まる人材流動性への対応

多様で複雑な課題に対峙するためには、様々な経歴を持つ人材が活躍しやすい環境づくりが必要不可欠ですが、日本社会全体で人材の流動性が高まるなか、その重要性がより一層高まっています。社会人採用・有期職制の職員がストレスなく早期に職場に馴染み活躍できるよう、人事部主導のもと組織横断的に新規入構者をサポートするべく、2022年度には「オンボーディング強化プロジェクト」を立ち上げ、オリエンテーションやメンター制度、交流会等の支援メニューの拡充に取り組んでいます。

また、多様な人材に選ばれ続ける魅力的な職場であるために、2022年度に有期雇用制度をいわゆるジョブ型へと大幅に見直し、各種制度や職務レベルに応じた処遇設定などを整備しました。また、有期職制職員向けのキャリアサポートにも取り組んでいます。有期職制から無期職制への内部登用制度も設けており、この制度を活用した多くの職員が即戦力として活躍しています。

社会人採用比率:43.4%。有期職制向けキャリアデザインワークショップ参加者:40名。入構オリエンテーション参加者:313名。内部登用者:24名。

いずれも2023年度

学びと挑戦による成長支援
~学びと挑戦を楽しむ人材~

時々刻々と情勢が変化し、課題も複雑化していく世界に対峙するには、JICAで働く全員がミッション・ビジョンを共有したうえで、自律的に業務や自己研鑽に取り組み、自らの能力を発展・多様化させ、キャリアを構築していくことが重要です。JICAでは、基礎的な能力の獲得に加え、自律的な能力開発やキャリア形成を支援する施策を強化しています。

組織文化づくり

イニシアチブを取って自律的に活動し、新たな価値の創出をリードできる人材を育成していくための組織文化づくりに取り組んでいます。例えば若手の成長支援を強化するため、基準人材像を従来の40歳頃ではなく30歳頃の人材像として設定し、研修プログラムの拡充や指導体制の強化を行っています。あわせて、基準人材到達後は各自がキャリア志向に合わせて能力を高度化していく形に見直しました。また、【共創・革新・使命感・現場・大局観】の5つのアクションが、これまで以上に職員一人ひとりの日々の行動の指針となるよう、それらに根差したリーダーシップ項目を2023年度より評価基準に組み込んでいます。

JICAの基準人材像。総合職:SDGs 達成に向け、開発途上国の人々への強い共感と高度な知識をベースに、課題を自ら設定し、知の探索と外部の関係者・資金の参画を促しながら、より大きなインパクトをリードする人材。特定職:SDGs 達成に向け、開発途上国の人々への強い共感と高度な知識をベースに、課題を自ら設定し、知を深化・活用しながら、インパクトの創出を特定分野で実現する人材。

人事評価における5つのアクションに根差したリーダーシップの着眼点。リーダーシップ1使命感:組織のミッションとビジョンを自らのエネルギーとし、リードしてやり抜く。着眼点1組織のミッションとビジョンを自らのエネルギーに変える。着眼点2当事者意識を持ってリードする。着眼点3結果を求めてやり抜く。リーダーシップ2現場:よく観察し、誠意をもって現場志向で解決する。着眼点1謙虚に誠実に向き合う。着眼点2よく観察し、本質を見極める。着眼点3現場志向で能動的に行動する。リーダーシップ3大局観:広いアンテナで外を向き未来を見通す。着眼点1広い視野で考える。着眼点2仮説をもって探しに行く。着眼点3変化を感知し、自ら変化する。リーダーシップ4共創:ビジョンと共感で巻き込み、より大きなインパクトをつくる。着眼点1自らの核を持ち、ビジョンをつくる。着眼点2共感を生み、仲間を増やす。着眼点3インパクトにつなげる。リーダーシップ5革新:不断の改善と大きな変化を先取りして挑戦する。着眼点1本質をつかむ。着眼点2新たな地平を構想する。着眼点3挑戦する。

国際協力のプロとしてのスキル獲得

JICAで働くうえで必要となる基礎的な能力・スキルの獲得に向け、事業等の基礎知識を常時学べる「JICAアカデミー」や職階別研修(非管理職向け2コース、管理職向け4コース)、コアスキル研修等の研修プログラムを構築し、職員全員への定着を図っています。また、データサイエンスを組織運営上の重要課題と捉え、2022年度より先進人材の育成に向けた人材育成プログラムを策定しています。さらに、国内・海外に多くの現場を持つJICAならではの制度として、「現場力」の醸成を目的として新入職員を海外に約3ヶ月間(国内は2週間)派遣するOJT(On the Job Training)を実施しており、2022年度及び2023年度には計117名の新入職員を派遣しました。また、在外事務所への赴任の機会も入構後早期から設けています。

階層別研修参加者461名。コアスキル研修参加者:国際マクロ経済・財務分析:75名、プロジェクト管理170名。入構5年以内在外赴任率(総合職職員。母数に育児休業等の休職取得者も含む)新卒採用:89.7%、社会人採用:65.2%。

いずれも2023年度。
※総合職職員。母数に育児休業等の休職取得者も含む

自律的な能力開発・キャリア形成支援

JICAでは日常的なメンタリングのほか、意向調査や評価面談、キャリアコンサルテーションの機会を通じ、一人ひとりの自律的な能力開発・キャリア形成を後押ししています。それを支える制度として、所属部署以外の業務に従事する「10%共有ルール」や社内インターン制度を設けているほか、組織内公募ポストの拡充を図っています。

JICA外との「他流試合」も重視しており、省庁・民間企業・大学・自治体・国際機関等と多岐に渡る機関へ出向者を送り出すとともに、職員自らが希望する研修機関を選定する実務経験型専門研修制度も設けています。JICAでは、職員が兼業を行うことも可能であり、年々、兼業者数も増えてきています。さらに、休職して修士・博士号を取得するための長期研修制度や、外国語習得や公的資格取得のための自己研鑽補助制度も設け、主体的な能力開発を支援しており、これらの取り組みを大幅に拡充・強化する方針です。

10%ルール活用率:19.2%。出向者(送出):86名。実務経験型専門研修参加者:2名。組織内公募ポスト数:107。兼業者:109名。長期研修派遣者(前年度からの継続派遣者も含む、2023年度の延べ派遣人数):海外27名、国内3名。

いずれも2023年度。
※前年度からの継続派遣者も含む、当該年度の延べ派遣人数

派遣先の例。出向(2023、2024年度)。省庁:外務省、経済産業省、国土交通省、財務省、内閣官房、農林水産省など。国際機関:アジア開発銀行(ADB)、経済協力開発機構(OECD)、国連開発計画(UNDP)、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)、世界銀行など。民間企業等:独立行政法人中小企業基盤整備機構、日本政策投資銀行、ボストンコンサルティンググループ合同会社、三菱UFJ銀行など。自治体・大学:岩手県陸前高田市、島根県隠岐郡海士町、広島大学、長崎大学など。海外長期研修(2023年度):Harvard Kennedy School, Mid-Career MPA; Massachusetts Institute of Technology, MIT Sloan Fellows MBA Program; University of California, Davis; University College London; The London School of Economics and Political Science; London Business School. 実務経験型専門研修(2022~2024年度):NGO PIC India(インド)、Neev Fund(インド)、株式会社DOYA/NPO法人Dooooooo、デンマーク・デザイン・センター(デンマーク)。

健全な職場環境
~健全で健康な人材~

労使関係と労務・健康管理

健全な労使関係を維持すべく、団体交渉や事務折衝に加え、理事長を含む役員と労働組合執行委員との直接対話も行っています。また、過重労働を防止し、業務効率の維持・向上を図る観点から、休暇取得の促進、適切な業務実態の把握と超過勤務の抑制に取り組んでいます。具体策として、パソコンのログオン・ログオフ時刻を記録するほか、部署別の超過勤務状況を毎月組織内で公開しています。

またJICAでは、必ずしも医療体制が整っていない開発途上国での勤務や出張も多いため、健康管理は特に重要です。法定の健康診断、ストレスチェック、産業医による助言・指導、感染症予防に関する啓発等に加え、病気休暇・休職制度の整備や、円滑な職場復帰支援等の取り組みを行っています。海外赴任に際しては、JICA国際協力共済会によって赴任先での病気や怪我の治療費の補助、緊急移送等をサポートすると共に、赴任者全員に対し、研修を通じて海外での健康管理方法の指導を行っています。

休暇平均取得日数:年次有給休暇13.57日、夏期休暇6.39日。ストレスチェック受検率:87.8%。ラインケア研修受講者(管理職向け):277名。

いずれも2023年度。
※1 本邦勤務者。年次有給休暇は20日/年度、夏期休暇は7日/年度付与だが、年度途中の採用者や有期及び非常勤の雇用者は付与日数が異なる場合がある
※2 ラインケアとは、職場のライン上にいる事業管理者(部長、次長、課長等)が、部下の心の健康をケアするために、相談対応や職場改善などに取り組むことを指す

ハラスメント防止・対応

職場環境を健全なものとするためには、ハラスメントの防止および発生時の適切な対応が不可欠です。JICAでは、ハラスメント行為を就業規則で禁止するとともに、理事長によるメッセージを発信し、ハラスメント防止及び対応に関するガイドラインを策定しています。加えて、組織内外に相談窓口を設け、ハラスメントが発生した際には速やかな事実確認を行い、その結果を踏まえ、行為者への注意・指導及び処分を含めた問題の解決を図っています。定点意識調査においてもハラスメント行為に関する設問を設けており、2023年度の回答の平均値は4.43(5段階での回答。平均値が高いほど、該当する行為が少ないと考えていることを示す)でした。また、各種職階別研修や在外赴任前研修で注意喚起を行っているほか、部署別の研修も実施し、ハラスメントを許さない職場づくりに取り組んでいます。

ハラスメント防止を扱った研修の実施回数:30回。

2023年度

エンゲージメント

より働きがいのある職場を目指し、JICAで働く職員の声を汲み取り改善へとつなげるため、現地スタッフを含む全員を対象に毎年定点意識調査を実施しています。また、「風通し促進キャンペーン」を通じ若手職員と役員の双方向のコミュニケーションの機会を設けています。今後も更なるエンゲージメントの向上に向け、人的資本にまつわる各種施策の改善・強化に取り組んでいきます。

自分は、JICAのビジョンに共感している:4.23(ベンチマーク:3.24)。JICAは、自分にとって働きがいのある組織である:3.99(ベンチマーク:3.10)。

いずれも2023年度。
※定点意識調査より。5段階での回答。ベンチマークは調査会社が2022年に従業員数1,000名以上の企業に勤務する社員を対象に実施したインターネット調査の結果を基にしたもの。