オンライン・セミナー「多文化共生・日本社会を考える」連続シリーズ 第6回 特別編「日本のアルキ方 -国内日系人、デカセギからプロフェッショナリズムへ-」挨拶【於:オンライン】

日本のみなさま、おはようございます。中南米のみなさま、こんばんは。そして世界各国からご参加のみなさま、こんにちは。

本日は全国・全世界からご参加いただき誠にありがとうございます。特に中南米の国々からは、夜遅い時間にご参加いただき感謝いたします。

まず始めに、私たちJICAが日本での外国人材受入支援をはじめた経緯と、日本人の海外移住の歴史との関係をお話ししたいと思います。

日本政府は2019年4月に改正入管法を施行するなど、外国人材を受け入れていこうという方向を打ち出しました。しかし、私は果たしてその準備ができているのかと不安に思いました。そこで、途上国からの研修員受け入れや、海外への日本人移住者送出しの経験があるJICAなら、外国人材の受入にも貢献できると考えました。2019年12月に、当時の菅官房長官にお会いしてその旨申し上げたところ、ぜひやってほしいとの後押しを頂いたので、外国人材受入促進支援を積極的に展開するようになりました。

JICAは、2020年度より「外国人材の受入促進支援強化」を重点的に取り組むこととし、2021年4月には外国人材受入支援室を設置しました。国際協力の経験を活かし、国内で外国人材の受入促進支援、そして多文化共生に本腰を入れています。

今日の多文化共生について語るときに忘れてはならないのは、日本人の海外移住の歴史です。日本人の海外集団移住は、今から154年前の明治元年、1868年にハワイ・グアムへの移住から開始されました。その後、ペルーやブラジルなどの中南米諸国にも多くの日本人が移住しました。

その後、第二次世界大戦で移住が中断した後に、海外移住が再開されました。この海外への移住振興を担っていたのが、我々JICAの源流の一つである海外移住事業団です。

JICAは中南米地域を中心とした移住者の送り出しを行い、移住者が現地の生活に溶け込み、地域の社会発展に貢献できるよう、支援しておりました。この事業は1993年まで実施していましたが、その後もこれらの地域の日系社会の発展のために協力を行っています。日本人およびその子孫の日系人が現地でどのような評価を受けたかは、この後申し上げますが、この経験を現代の国内の外国人材受入、そして多文化共生に活かしたいという思いで、本事業にとりくんでいることを強調したいと思います。

さて、日本人移住者や日系人は、海外、特に中南米地域で高い評価を受けていることをご存じでしょうか。移住者の方々は、気候・風土や文化・言葉の違いを乗り越え、移住先国に溶け込み、懸命に働かれました。そして、現地に根を張り、新しい文化を移住先国の人々とともに作り上げ、現地の国づくり、社会発展に貢献してきました。

「日本人は、勤勉で、信頼できる」、ブラジルではポルトガル語で「信頼できる日本人」を意味する「ジャポネーズ・ガランチード」と言われました。今でも中南米各国を訪問すると日本人を歓迎してくれる国が大変多いのです。日本人移住者や日系人の方々の貢献によって、ブラジル、アルゼンチン、パラグアイと言った中南米諸国の人々が日本に親しみを感じていただいていることを強く感じます。

さて、こうした日本人の海外移住経験は現代日本にも適用できると考えています。 日本経済がバブルに沸いた1980年代半ば以降、中南米の日系人の日本への「デカセギ」が始まり、社会的には日本国内でも文化の多様性が生まれました。国内日系社会を含む様々な国からの外国人材を受け入れ、そして多文化共生を進めることは、減少する労働人口を支え、そして日本の経済成長には欠かせない重要なことだと考えています。

デカセギが始まった当初は中南米の方が多く、今ではベトナム等、多種多様なバックグラウンドを持つ方々を受け入れることが必要な社会となっています。

日本の中南米等への移住の経験、つまり、どのように現地に受け入れられ、どうやって現地社会の発展に貢献したか、という歴史が、現在、そしてこれからのグローバル化が求められる日本社会の参考になります。日本人移住者が中南米で名声を得られたように、現代においても、未来の日本の多様性や新たな文化形成を担う可能性がある外国人材を受け入れ、日本自身が変わっていく契機にする必要があると思います。

現在の外国人材の出身国のほとんどは開発途上国、つまりJICAが実施する国際協力のパートナー国であって、途上国からの外国人材受け入れは、日本の経済発展のみならず、相手国の発展にも貢献する「国際協力そのもの」と考えています。外国の方に「日本に来たい・日本に来てよかった」と思ってもらうことは、日本と相手国の国民レベルでの信頼関係の醸成にも繋がるもので、JICAが掲げる「信頼で世界をつなぐ」というビジョンの実現につながるものです。

JICAは過去に外国人材支援策として、1993年より約10年間、日系人本邦就労者の、帰国前技術研修という事業を実施していました。これは、母国・中南米への帰国前に的確な技術研修を実施することで、母国における社会復帰を促進することが目的でした。この事業は中南米における移住者・日系人社会の活性化の一助となったと考えてはいますが、日本国内におられる日系人・日系社会に対する直接的な貢献とは必ずしも言えませんでした。

このような反省も踏まえ、また、現在の日本では、外国人材の受入促進を支援することが相手国との信頼を深めることになり、国際協力そのものだとの考えで、JICAは、民間企業、地方公共団体やNPO等との連携により共生社会の構築に向けた取組の推進を実施しています。その一環として2020年11月に、JICAは、多くの民間企業やNGOなどと共に「責任ある外国人労働者受入れプラットフォーム(JP-MIRAI)」を設立しました。

また、若手の日系人が日本国内の外国人集住都市で地域の課題解決に参加する「日系サポーター」事業を行っております。こういった取り組みを通じて日系人を含む外国人材が日本社会で共生し、成長し、夢を持って暮らせるようなお手伝いをしたいと考えています。

そして、今回のようなセミナーを開催し、広くこの課題を国内外に共有し、多くの方々と一緒に語り合い、課題解決の方策を探りたいと考えています。

さて本日のセミナーですが、まず、国内の外国人材・多文化共生の現状の一端を認識いただくために、日系人の様々な就労状況を紹介できればと思います。いわゆる移民2世と言われる、デカセギで来日された日系人のお子さんである日本で生まれた方を含む、各世代を代表する方々に、実体験を踏まえたお話しを講演いただきます。

国内の日系社会は30年以上の歴史があり、日系人の就労状況もバリエーションが豊かになっています。従来の工場単純労働だけではなく、本日お話しされる二人のように、芸術分野、先端技術分野で活躍されている方々もおられます。お二人から苦労、夢、就労意識、などをお伺いし、時代に沿ったその変化を感じ取り、国内日系社会・外国人材の現状と、日本国内への貢献についてもご理解いただきたいと思います。

そしてまた、長年外国人の日本への就労問題を見守られている二宮正人サンパウロ大学教授の基調講演にも耳を傾けていただき、国内日系社会が日本の社会に多様性を与えていることを、ご理解いただければ幸いです。

最後になりますが、大変貴重なご講演をいただく二宮正人教授、ジュニオール・マエダ様、安里・トレス・ルイス・アルベルト様に御礼を申し上げます。

以上