田中理事長が日本記者クラブで会見-「元気の出る援助」とは何か-

2012年6月15日

田中明彦JICA理事長は、6月13日、日本記者クラブで会見し、日本のODAの歴史的変遷や特徴と新たな開発課題へのJICAの対応について説明したほか、JICAが果たすべき役割として自らが掲げる「元気の出る援助」について述べた。

世界の動きに即した日本の援助

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会見には多数のメディア関係者が集まった

冒頭、田中理事長は、1954年に戦後補償の一環として始まり、日本を取り巻く状況が大きく変わる中で数々の変遷を経てきた日本のODAを総括。「国際社会への復帰を果たした日本は、70年代から80年代にODA供与額を急増させ、貿易黒字の還流を通じた世界経済への貢献を強めた」と述べた。「その後、1991年から10年間にわたり、世界のトップドナーとなり、国内外で透明性の向上、説明責任を求める声が増大する中、ODAの基本理念などを定めたODA大綱を発表。2000年代に入ってからは、グローバリゼーションの進展に伴い、平和構築や復興支援、気候変動対策などの新たな課題への取り組みを強化すると同時に、新興ドナーとの協力も進めてきている」とした。

また、日本のODAの特徴については、「日本の開発経験に基づく『自助努力への支援』にある」と述べ、そのアプローチとして、「オーナーシップ」(援助受け入れ国の強いリーダーシップと責任の尊重)、「成長志向」(経済インフラ整備と民間セクター開発)、「能力開発」(援助受け入れ国の新しい知見の吸収)の三つを挙げた。

新たな課題に挑むJICA

JICAは、大きく変化する世界の社会、経済システムの中で、その変化に伴う新たな開発課題に即した援助を行うべく変革を遂げてきている。その一つとして、田中理事長は、「格差と不均衡を是正するための『インクルーシブ(包括的)な開発』の推進」を挙げ、「持続的な経済成長により貧困削減を達成するためには、より多くの人々が広く平等に成長の過程に参加し、恩恵を得ることが大切だ」と述べた。

さらに、人々が恐怖や貧困から解放され人間らしい生活ができるよう、「人間の安全保障」を重視し実践してきたこと、気候変動や感染症など、地球規模課題の解決に向けた取り組みを強化してきたこと、従来重点地域としてきたアジアに加え、アフリカ等への支援を拡大してきたことを挙げた。

世界も日本も元気にする援助

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出席者からの質問に答える田中理事長

4月の就任以来、田中理事長が目指すべきビジョンとして掲げている「元気の出る援助」については、大きく分けて四つの側面があると説明した。一つ目は「平和を構築する援助」。平和の実現には、紛争当事国が内戦や国内不安から脱却し、そこに住む人々に「人間の安全保障」をもたらすという価値があるが、それに加え、国際社会の平和と安定は日本の安全保障にも資するという意義があることを強調した。

二つ目は「市場が拡大する援助」。格差と不均衡の是正に配慮しながら、ASEAN地域や東部・南部アフリカ地域など、地域全体の市場が拡大するような広域インフラの整備に努めていることを紹介。そういった事業を進めるに当たっては、日本の民間企業と連携しながら、途上国、民間企業、ODAのwin-win-winの関係を目指していきたいと述べた。

三つ目は「知識を高める援助」。田中理事長は、地球規模課題の解決に向けた日本の研究機関と開発途上国の研究機関との国際的な共同研究(注)に触れ、このような両国の知識を高める援助手法をさらに活用していく考えを示した。四つ目は「友情の輪が広がる援助」。「途上国の研修員の日本国内での受け入れ、日本人専門家やボランティアなどの途上国への派遣、日本と新興ドナーが連携して第三国を支援する南南協力などは、日本の人々と世界の人々との連帯感の基礎となる重要な協力のあり方の一つだ」と訴えた。

これらを踏まえ、田中理事長は、「この四つの側面から援助を進めていくことが、世界の人々と共に生き、平和と繁栄をつくる『開かれた国益』の追求、すなわち『元気の出る援助』につながる」と述べた。また、「援助は対外国家戦略の一環であるが、JICAだけで実施することは不可能であり、政府関係機関、地方自治体、民間企業、NGO、大学など、さまざまなパートナーとの協力が不可欠だ。これらのパートナーと力を合わせ、世界も日本も元気にするために力を尽くしたい」とあらためて強調した。

(注)地球規模課題対応国際科学技術協力(Science and Technology Research Partnership for Sustainable Development:SATREPS)。JICA、独立行政法人科学技術振興機構(JST)と途上国の大学や研究機関が連携して環境・エネルギー、防災、感染症など、地球規模の課題の解決に向けて行う共同研究。