中央アジア・シンポジウムで田中理事長が基調講演

2015年3月31日

基調講演を行う田中理事長

3月27日、田中理事長は、東京大学において開催された「中央アジア・シンポジウム〜未来を見据えた中央アジアの今:チャンスとチャレンジ〜」(外務省、グローバル・フォーラム、東京大学大学院総合文化研究科「人間の安全保障」プログラム、The Japan Timesの共催)に登壇しました。

本シンポジウムは、中央アジア諸国との対話と協力の枠組みである「『中央アジア+日本』対話」の一環として、中央アジアの地政学的重要性や日本と中央アジアの協力の可能性に関する討論を通じて同地域への理解と関心を深めることを目的に開催されたものです。

中央アジア5か国(ウズベキスタン、カザフスタン、キルギス、タジキスタン、トルクメニスタン)からの有識者に加え、ロシアと米国の中央アジア専門家としてカーネギー・モスクワ・センターのトレーニン所長及び戦略国際問題研究所のクーチンス・ロシア・ユーラシア・プロジェクト長などが参加し、200名を超える聴衆が来場しました。シンポジウムでは、中根外務大臣政務官による開会挨拶、伊藤憲一グローバル・フォーラム代表世話人による挨拶に続き、田中理事長が基調講演を行いました。

冒頭、あいさつに立った中根外務大臣政務官は1990年代後半に橋本元首相が提唱した「ユーラシア外交」や2004年から開始された「中央アジア+日本」対話等に触れつつ、日本の対中央アジア外交の歴史を紹介しました。また、1992年以降の中央アジアへのODA供与額について日本が米国に次いで第2位であることを指摘し、日本のODAが中央アジア地域の発展に大きな役割を果たしてきたことを強調しました。

シンポジウムの様子

その後の基調講演で、田中理事長は、現在の中央アジアが抱えるチャレンジとチャンスについて述べた上で、チャンスを活かしチャレンジに取り組んでいくためのポイントを指摘しました。

チャレンジについては、まず、ウクライナ情勢を巡る対ロシア制裁、イスラム過激派組織「ISIL」の浸透、アフガニスタンでの国際治安支援部隊の撤退等、安定した発展を目指す同地域が多くの懸念に直面している点を指摘しました。その上で、同地域が有する構造的なチャレンジとして、雇用機会の改善、非資源部門の産業多角化、限定的な援助資金・民間投資の拡充、老朽化したインフラの整備を挙げ、ミレニアム開発目標が一部達成困難な状況についても言及しました。

チャンスとしては、周辺の大国と協調しながら、地域が持つ潜在力を開花させる動きについて紹介しました。具体的にはエネルギーや運輸分野での協力を進める中央アジア地域経済協力(Central Asia Regional Economic Cooperation:CAREC(注1))、地域機構としての上海協力機構(注2)の枠組みなどです。また、最近の新しい動向として、ユーラシア経済同盟(注3)の発足等にも言及しました。そして、JICAが「中央アジア+日本」対話における議論を踏まえて具体的なプロジェクトを実現している点について、紹介しました。

田中理事長は、最後に、チャンスを活かしチャレンジに取り組んでいくためのポイントとして以下の3点を指摘しました。第一に、開かれた地域として域内・域外との協力関係を維持・構築すること、第二に、国内の制度整備を進めながら、周辺国との連結性を高める戦略を立て、具体的な行動につなげること、第三に公共部門の能力強化を通して、経済成長の恩恵が広く人々に分配される仕組みをつくっていくことが求められているということです。

その後のパネルディスカッションでは、基調講演で触れられたポイントにも言及しつつ、中央アジアをめぐる国際環境や運輸・物流、水とエネルギーについての中央アジア地域の課題と日本の協力性について活発な議論が行われました。

JICAでは、今後も、「中央アジア+日本」対話の進展も踏まえながら、域内外をつなぎ、開かれた強靭な中央アジア地域を実現する協力に取り組んでいきます。

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(注1)CAREC:1997年にADBが事務局となって発足し、中央アジア5か国にアフガニスタン、アゼルバイジャン、中国、モンゴルとパキスタンを加えた10か国と6つの国際機関からなる。エネルギーや運輸を重点分野にドナー資金も得つつ具体的な開発プロジェクトを実行していく実務的な協力の枠組み。

(注2)上海協力機構:ロシア、中国、カザフスタン、キルギス、タジキスタン、ウズベキスタンの6カ国の協力機構。加盟国間の相互信頼醸成、政治、経済、テロ対策、文化、教育等、多岐にわたる協力を実施。

(注3)ユーラシア経済同盟:今年1月にロシア、ベラルーシ、カザフスタン、アルメニアの4ヶ国で発足。資本、サービス、労働の移動の自由を発展させるもの。