JICAの事例紹介

人間の安全保障の実現 メインイメージ

ボスニア・ヘルツェゴビナ「スレブレニツァ地域の帰還民を含めた住民自立支援計画」-民族の共生と地域社会の再生に向けて-

(協力期間:2006年~2008年)

1992年4月、旧ユーゴスラビアからの独立を巡ってボスニア系(ムスリム)、セルビア系、クロアチア系の3民族による紛争が勃発しました。3年以上続いた紛争の死者は約18万人とも言われ、200万人にも上る難民・国内避難民が発生し、第二次大戦欧州最悪の紛争となりました。

1995年12月に紛争は終息し、難民・国内避難民の帰還が始まりましたが、帰還家族や一家の働き手を失った母子家族は経済基盤が脆弱で、援助物資、各種年金、児童育英基金などに頼らざるを得ない生活でした。

JICAは、帰還家族や母子家族を主な対象とし、農牧業の再興を通じた住民の経済的な自立と、農作業や技術研修を通じた民族間の対話や交流を促進するため、2006年3月から農村開発の長期専門家をスレブレニツァ市に派遣しました。スレブレニツァ地域は、紛争末期にボスニア系(ムスリム)住民とセルビア系住民の対立が激化し、大量虐殺事件が起きた場所です。民族間に残された不信感情は、紛争終結後なお地域社会一体となった発展を妨げており、JICAは民族和解の促進に特に配慮した復興・開発支援を行っています。

「人間の安全保障」から見たポイント

  • 民族間の共働事業を通じ、復興から開発への継ぎ目のない協力を実施。また、開発の成果を生むことにより人々の信頼醸成を促進。
  • 帰還家族や母子家族など、特に脆弱な人々を対象とし、保護と能力強化を図っている。
  • 住民・NGO・行政機関など、多様なアクターとの連携を進めることにより、成果の拡大を図っている。

視聴覚教材 シリーズ III「民族共生と地域社会の再生に向けて-ボスニア・ヘルツェゴビナ-」

ニジェール「住民参画型学校運営改善計画プロジェクト(みんなの学校プロジェクト)」-コミュニティによるより良い学校づくりから地域の活性化に向けて-

(協力期間:フェーズ I 2004年~2007年/フェーズII 2007年~2010年)

ニジェール国はサブ・サハラ諸国の中でも最貧国の一つであり、人口の約6割が1日1ドル以下で暮らしています。総就学率は世界最低水準にあり、初等教育における地域間格差、男女格差も大きい状況にあります。

ニジェール政府は人々の教育機会拡大のために、地域住民への啓発と学校運営への参加促進に取り組み始め、校長、教師代表、保護者会代表、母親会代表の合計6名から構成される学校運営委員会(COGES)を全小学校に設置し、地域住民の参加を通じた学校運営の改善を試み始めました。

JICAは、2004年よりCOGESが委員を民主的な選挙によって選出し、選出された委員が中心になって地域に密着した学校活動計画を立て、その立案・実施・評価等のサイクルを地方行政官がモニタリングしていくCOGESの運営モデル確立し、その普及のため支援しています。地域住民の参加を通じた学校運営の改善および学習環境改善を実現するだけでなく、地域全体の活性化に繋がっています。

「人間の安全保障」から見たポイント

  • 学校を地域、そして人々のものと捉え、「人々中心」の事業を展開。
  • 現地NGO、JOCV、技プロ等の様々なアクターと連携しつつ、学校運営委員会(COGES)の機能強化及び就学率向上のために、コミュニティ・政府双方へ働きかけている。
  • 教育機会拡大と質の向上だけでなく、学校をエントリーポイントとして農業や保健・医療改善などコミュニティ全体の活性化に繋がっている。

視聴覚教材 シリーズ I「地域社会と緊急支援を結ぶ-アフリカ編-」

エルサルバドル「シャーガス病対策プロジェクト」-様々なアクターとの協力により、国境を越える貧者の病に強力に対抗-

(協力期間:2003年~2007年)

中南米で2000万人以上が感染の危機にさらされ、感染者の多くが死に至る病であるシャーガス病は、媒介虫のサシガメが生息しやすい藁葺き屋根や土壁の家屋に住む貧しい人々が犠牲になるため、「貧困層の疾病」といわています。

JICAは、専門家および青年海外協力隊の派遣、機材供与等を組み合わせ、保健省・市役所による殺虫剤散布、住民参加型サシガメ監視体制の構築、市役所や保健ボランティアを通じた啓発活動や住居改善法普及などへの支援を行いました。また、広域研修によって近隣諸国(ホンジュラス、グアテマラ)の関係者と共に専門知識を深め、国を越えて経験を共有し、事業の質の向上と効率化に努めています。

「人間の安全保障」から見たポイント

  • 様々なアクターの協力によって国境を越える感染症の脅威に対抗している。
  • 行政のキャパシティ・ディベロップメントと人々のエンパワメントにより予防と媒介虫対策に取り組んでいる。
  • シャーガス病対策をエントリーポイントに、住居改善を始めとするコミュニティ開発に発展させる支援である。
  • 1国での活動成果・ノウハウを、近隣諸国に拡大。広域感染症という「恐怖」の問題と共に貧困という「欠乏」の問題の双方を視野に入れた支援。

視聴覚教材 シリーズ I「国境なき脅威との闘い-中米-」

セネガル「安全な水とコミュニティ活動支援計画(PEPTAC)」−人々が脆弱性を克服するために−

(協力期間:フェーズ I 2003年~2006年/フェーズII 2006年~2010年)

サハラ砂漠西南の乾燥地帯に位置するセネガルにとって、安全な水へのアクセスはきわめて重要な課題です。給水施設を持たない村落では、女性や子供が遠く離れた井戸まで、1日に何度も往復して水汲み労働を行っており、母子の健康や就学率にも影響を与えています。また、水が確保できる地域でも、衛生的に問題のある浅井戸や溜り水を安易に利用しているケースがあり、感染症の罹患や皮膚病などの原因となっています。

JICAは、安全な水へのアクセスを向上させるため、行政レベルでの水資源管理・給水施設整備と住民自らの力で持続的に安全な水を確保していくための水管理組織(ASUFOR)への支援を行っています。住民による水管理組織(ASUFOR)の設立、従量制料金の導入、公正・公平・透明な住民組織運営など、持続的な水供給を住民自らが行える仕組み作りを行うとともに、水管理組織による野菜栽培や家畜飼育などのコミュニティ活動も支援しています。

「人間の安全保障」から見たポイント

  • 政府レベルと地域社会・人々双方への協力により、持続的な体制づくりをしている。
  • 水管理の体制作りを通じて、地域社会や人々の能力強化を図り、コミュニティ内の貧困削減へと成果を拡大している。
  • 社会的に弱い立場にある女性や子どもを水汲み労働から解放し、コミュニティ内での意思決定や収入創出活動への参加を促すとともに生活改善や就学促進に繋げている。

セネガル「総合村落林業開発計画プロジェクト(PRODEFI)」-人々が脆弱性を克服するために-

(協力期間:フェーズ I 2000年~2005年/延長フェーズ 2005年~2008年)

支援の背景

JICAは、森林植生が減少し、土壌の劣化や砂漠化進行による農業生産への影響も深刻化なセネガルにおいて、地域住民が主体となった持続的村落資源管理を行う村落林業促進モデルの開発を目標とし、住民研修を中心とした「総合村落林業開発計画プロジェクト(PRODEFI)」を実施しました。地域住民のニーズに基づいて計画された研修を村落内で実施し、参加者を限定せず希望者みな受講できる「住民参加型研修」を通じて、村人の自発的参加を促進。植林活動の促進と地域生産システムを改善させ、住民の生活向上と生態系の維持・回復を目指しています。

「人間の安全保障」から見たポイント

  • 地域のニーズにあった持続的な仕組みをつくるために、地域社会や人々の能力強化を図る。
  • 特定の地域での住民参加によるモデルの構築だけではなく、政府によってそのモデルが全国展開されることを目指す。

視聴覚教材 シリーズ III「人々が脆弱性を克服するために-セネガル編-」