【石川県・富山県】海とともに未来を拓く人材を育てる ~インドネシア行政官が学ぶ里海の知見と水産ブルーエコノミー~
2026.06.10
JICA北陸では、青年研修「水産ブルーエコノミー」を2026年5月13日から5月28日の日程で実施しました。
「海の恵みを活かしながら、持続可能な未来をどう築くか」。
本研修では、インドネシアの行政官が北陸の水産現場を訪れ、ブルーエコノミーの実践を体感しながらその可能性を探りました。
近年、「ブルーエコノミー」は、海の資源を持続的に利用しながら経済成長を図る考え方として注目されています。特に開発途上国では、水産業が重要な生計手段である一方で、海洋資源の減少や食料需要の増加、自然災害の頻発化など、さまざまな課題に直面しています。こうした課題に対応するため、JICAは事業戦略として「水産ブルーエコノミー振興」を策定しました。
◎JICAクラスター事業戦略「水産ブルーエコノミー振興」
<ブルーエコノミーと「里海」の考え方>
一般にブルーエコノミーは、環境への負担をできるだけ抑えながら、海運や観光を含む多様な経済活動の価値向上を目指す概念ですが、JICAでは特に水産業を中心とした持続可能な発展に重点を置いています。この考え方は、日本で培われてきた「里海」の理念とも通じるものです。里海とは、豊かな自然と人々の生活との共存を図る一つの社会生態系システムであり、人手が加わることにより生物生産性と生物多様性が高くなった沿岸地域を指します。里海の取組は、沿岸住民をはじめとする多様な主体が連携・協力しながら進められており、途上国の水産分野の発展にも応用可能な知見として注目されています。
◎日本の里海の取り組み
こうした考え方を背景に、沿岸・海洋資源の持続可能な活用と地域経済の発展を担う人材の育成を目的として、本研修にはインドネシアの若手行政官13名が参加しました。
インドネシアは世界最大の群島国家であり、広大な海洋・沿岸域を背景に水産業をはじめとした多様な経済活動が展開されています。一方で、資源依存や環境負荷、地域間格差といった課題も抱えており、近年はブルーエコノミーの推進を通じた持続可能な海洋経済への転換が進められています。
<現地視察①:七尾市の牡蠣養殖>
研修プログラムでは、専門家による講義に加え、北陸各地での現場視察が重要な学びの機会となりました。
石川県七尾市では、石川県漁協七尾支所の協力のもと、籠を用いた牡蠣養殖および選別・洗浄工程の視察を行いました。生食用として出荷される「七尾牡蠣」の品質管理やブランド化の取り組みに加え、震災を契機とした漁業形態の転換など、復興に向けた漁業者の工夫について理解を深めました。里山からの豊かな栄養が海へ流れ込む能登の環境はカキの生育に適しており、養殖開始後の調査では籠周辺に小魚が集まる様子も確認されています。こうした取組は、水産物の生産にとどまらず、海域の栄養循環や生態系の回復にも寄与し得る点で、研修員の関心を集めました。
牡蠣の養殖方法について学ぶ
なお、七尾牡蠣は「能登復興支援事業※」に採択されており、養殖事業の拡大とブランド化に向けた動きが進められています。また、能登官民連携復興センターに配属されているJICA北陸センターの国際協力推進員も、本事業の支援に関わっています。
◎里山里海の復興に挑む 能登半島地震から2年
※「能登復興支援事業」は、吉川晃司氏と布袋寅泰氏によるロックユニット「COMPLEX」からのご寄附を契機として、企業等から寄せられる寄附金の受け皿として石川県が創設した「能登復興応援基金」を活用し、災害を乗り越え能登の未来を創る先導的な取り組みを支援する事業です。
◎能登復興支援事業の助成先について
<現地視察②:氷見市の定置網と養殖の取り組み>
富山県氷見市では、氷見市役所にて日本農業遺産に認定されている定置網漁業について講義を受けた後に、宇波浦漁業協同組合の協力のもと定置網漁業の現場を視察し、地域に根ざした資源利用の仕組みや、長年にわたり受け継がれてきた持続的な漁業のあり方について学びました。定置網漁業は、沿岸に設置した網で回遊魚をとらえる「待ちの漁法」であり、網に入った魚の3割程度しか漁獲しない等、資源保護に配慮した持続可能な漁業です。氷見では自然条件を生かしながら発展し、400年以上の歴史を有する地域の基幹産業となっています。
例えば、漁業者が河川の上流域での植樹活動や用水路の維持管理を行い、農業や林業に従事するだけでなく、氷見市の定置網組合は地域住民の出資によって運営されており、定置網漁業による収益が地域へ還元される仕組みとなっています。こうした仕組みのもと、漁場の管理方法や地域の行事・信仰といった文化も継承されており、持続可能な水産業と地域づくりを一体で実現してきました。
一方で、漁獲量が自然条件に左右されやすいという課題に対応するため、宇波浦漁協では安定的な収入の確保を目的として銀鮭養殖に取り組んでいます。こうした取組は、地域の漁業者が主体となり、持続可能な水産業と経済活動の両立を図る実践事例として、研修員の理解を深めるものとなりました。
早朝の定置網漁業を視察
閉講式では、研修員を代表してイルタンさんより、本研修での学びに加え、各視察先で温かく受け入れていただいた関係者への感謝の言葉が述べられました。地域での交流を通じた学びの大きさがうかがえる場面となりました。
北陸で得られた経験が、帰国後の研修員のみなさんの業務へとつながり、国際的な知見の共有と協働の広がりに寄与していくことが期待されます。
研修員を代表して挨拶するイルタンさん
研修を終えた研修員一同