【草の根技術協力事業】士幌町とキルギスの農業教育プロジェクト、共同商品開発を成果に終了
2024.11.22
北海道士幌町の株式会社CheerSがキルギスの農業技術カレッジ(以下、カレッジ)と協働し、2021年11月から3年間実施していたJICA草の根技術協力事業「地域におけるフードバリューチェーンを活用した実践的な農業教育プロジェクト」が10月末に終了しました。
本事業では、士幌町と(株)CheerSは、士幌町立北海道士幌高校(以下、士幌高校)が地域の農家や事業者と連携をして士幌の地場産品を生かした商品開発をしている取組を、キルギスのカレッジに紹介し、現地の農業教育に役立てる協力を実施してきました。
士幌町とキルギスはほぼ同緯度に位置しており、気候も似ているため、共通の特産品が多く見られます。士幌高校とカレッジは、その中でも「シーベリー」に着目をしました。事業開始の時点においては、士幌町ではすでに士幌高校の生徒と士幌町商工会が共同開発した「シーベリーソーダ」などのシーベリーを用いた製品開発が進んでいる中、残渣(果汁や果実を絞った後の皮や種)が多く残ってしまうことが課題となっていました。一方キルギスではシーベリーは河岸や湖岸に自生しており伝統的に家庭内で食す身近な果実ではありましたが、衛生管理・加工技術が十分にないことが課題となっていました。両者が持っていた課題認識をもとにシーベリーの残渣に着目をし、両国の食文化に受け入れられるお菓子はできないかとレシピ開発が始まりました。
イシククル湖岸に群生するシーベリー
事業開始直後はコロナ禍の影響によりオンラインでの交流がメインとなっていましたが、両校の生徒が中心となってグラノーラバーの開発を進めることが決まり、レシピ開発が始まりました。CheerSの職員や士幌高校の先生方がカレッジを全5回訪問したり、カレッジの先生方が士幌町を2回訪問したりする中、レシピの改良とカレッジでの農業教育の改善に向け協力を進めてきました。(一般財団法人自治体国際化協会(CLAIR)の助成により、士幌高校の生徒2名及びカレッジの生徒4名も互いの国へ渡航をしています。)
士幌町内の施設にてシーベリー加工実習
カレッジでの共同開発実習(座学)
カレッジでの共同開発実習(実践)
共同開発されたこのグラノーラバーは2024年1月にはキルギスのチュイ州で行われた一村一品(OVOP)品評会に出品し、見事OVOPブランド商品として認められています。
このグラノーラバーは「メリジェ」と名付けられ、事業終了後もキルギスおよび士幌町での販売を目指し、両校での活動が続けられる予定です。
士幌高校での衛生検査研修
改良を加えた共同開発商品の試作
士幌町収穫祭での試食・アンケート調査
キルギスチュイ州OVOPブランド認証委員会での発表・審査の様子
事業終了にあたり、本事業関係者よりコメントをいただきました。
◆中野泰弘教頭(士幌高校、プロジェクトマネージャー)
両国間の交流は、両国で栽培している「シーベリー」がきっかけとなっております。本校の教育内容に興味を持っていただいたキルギス農業技術カレッジとの間での技術交流は本校の教職員のスキルアップや国際的な視野に立った指導など、大いに役立つことがありました。また、このプロジェクトでは町内の多くの方に協力を頂いており、学校独自では目的を達成できなかったかと思います。今回のプロジェクトに参加していただいた皆様に改めて感謝申し上げます。
◆佐藤正三教諭(同上、サブプロジェクトマネージャー)
2023年の4月から約1年半、主に商品開発や生徒間の交流でプロジェクトに携わらせていただきました。着任してすぐに、シーベリーの残渣を使って商品開発をしてほしいと言われたときはどうなるかと思いましたが、士幌高校とカレッジが協働したことで商品(グラノーラバー)を完成させ、チュイ州のブランド認証を受けたことは担当者として大きな達成感を得られました。今回のプロジェクトをとおして、私自身これまで全く知らなかったキルギスという国の現状や課題について理解を深めるとともに、熱い思いを持ったカレッジの先生方と協働したことで、グローバルな視点を持った活動について考える貴重な機会となりました。
◆山﨑恒教諭(同上)
本事業の後半1年半に携わり、1つの目標達成にむけカレッジ、士幌高校で商品開発を行いブランド委員会で認証されたことは非常に大きな成果となりました。私自身キルギスという国をよく知りませんでしたが、キルギスの関係機関の方々、カレッジの先生・生徒と交流をし、現在の課題を共有し解決に向け取り組むことができたのは非常に貴重な体験となり、私の財産になりました。
◆西潟孝司さん(士幌高校2年生)
先生や両親に勧められて行った初めての異文化交流でしたが、色々な経験ができてとてもよかったです。この交流によって、キルギスの文化や生活だけでなく、経済体制にも触れることができました。また、カレッジの学生やキルギス在住の日本の方と交流した際には、日本とキルギスの違いについて感じることができ、貴重な体験となりました。今回の交流を通して、幅広く様々なことを学ぶ事ができたので、この経験を今後の学校生活に活かしていきたいと思います。
◆斉藤誠幸氏(株式会社CheerS)
前職の頃よりプロジェクトに関わることになりまして、シーベリーを通じて始まったキルギスとの活動が無事に実施できましたことは、関係者の皆様をはじめ、多くの方々のご尽力の賜物と深く感謝しております。活動の過程では情勢が厳しい時期もありましたが、カレッジの先生方や生徒の皆さんの学びを活かしたいという思いが、このプロジェクトを前進させる大きな原動力となっていたと感じております。素晴らしい文化に触れる機会もいただき、私自身にとっても貴重な経験となりました。これからもより良い活動が続いていくことを祈っております。
◆古茂田紫乃氏(株式会社CheerS)
事業の構想の時期から約5年間、コーディネーターとして携わらせていただきました。私自身もキルギスの素晴らしい文化に触れ、カレッジの皆さんとの協働からかけがえのない経験をさせていただきました。コロナ禍や近隣国の情勢不安で活動に制限がある時期も乗り越え、共通の作物である「シーベリー」をきっかけに、学生同士、教員同士が切磋琢磨し学び合う姿に背筋が伸びる想いでした。このご縁が現地の皆さんのより良い未来につながることを祈っています。
実践的な農業教育手順書完成
完成した手順書とメリジェの試作品
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