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「みんなの学校」シンポジウムで評価の重要性や活用の仕方を議論-小塚主任研究員や世界銀行局長

2016年12月20日

議論する小塚主任研究員ら
議論する小塚主任研究員(右から2人目)ら

JICAは2004年以降、西アフリカ地域を中心に、住民参加型の学校運営により子どもの学びを改善する「みんなの学校プロジェクト」を進めています。世界銀行が2017年末に発行する『世界開発報告2018』でも教育がテーマとなることから、JICAと世界銀行は2016年11月21日、JICA市ヶ谷ビルで、シンポジウム「地域住民・学校の協働による子どもの学びの改善~みんなの学校プロジェクトの取組みと世界の事例から~」を共催しました。世界銀行の同報告担当局長や、同プロジェクト元チーフアドバイザーの原雅裕氏、同プロジェクトのインパクト評価を実施したJICA研究所の小塚英治主任研究員(人間開発部基礎教育第二チーム課長)らが登壇し、プロジェクトの評価やその活用の仕方についても議論しました。

JICA研究所の小塚主任研究員はニジェールでのプロジェクトのインパクト評価について紹介。「子どもの学びを改善するため、学校交付金を導入したグループと、それに加えて学校運営委員会への研修を実施したグループを比べると、後者の方が家族のサポートが増え、算数やフランス語の試験の平均点が上昇するなど、効果的であったことが分かった。こういったエビデンスを蓄積していくことが、今後、国際的により重要視されていく」と報告しました。

世界銀行のロジャース氏
世界銀行のロジャース氏

小塚主任研究員の発表に先立ち、世銀の世界開発報告2018執筆担当共同局長を務めるディオン・フィルマー氏とハルゼイ・ロジャース氏が、子どもの学びの改善のための方策について発表しました。両氏は、ミレニアム開発目標(MDGs)では学校へのアクセスに重きが置かれ、その目標はある程度は達成されたが、2014年に西アフリカで実施された教育システム分析プログラム(PASEC)によると、6年生の算数の学力がその後も学習を続けるには不十分なことなどが分かったと指摘しました。そして、「学校に行けるようになっても、学習そのものがきちんと行われていないこの現状を“学習の危機”と呼んでいる。その原因として、就学前の家庭での準備不足、教員の質の低さ、コミュニティーの学校への関与の少なさなどが挙げられる」と述べました。

こうした課題を改善させる働きにもつながる事業のインパクト評価については、2000年には32件の実施にすぎなかったのに対し、2014年には227件に大幅に増加したことを紹介したうえで、一つのプロジェクトをみて、そのモデルがどこにでもあてはまると考えるのではなく、どういう介入がどのような成果を生んだのかを考えることが重要と説明しました。さらに、より重要なこととして、エビデンス(科学的な証拠)が指し示すものと実際に学校で起きていることのギャップを見極め、最も大きなインパクトを生み出せる介入について理解することを挙げました。

世界銀行のフィルマー氏
世界銀行のフィルマー氏

その後のパネルディスカッションでは、コートジボワール国民教育省官房長のカブラン・アスム氏らも参加し、様々な議論が交わされました。フィルマー氏はフィリピンやパキスタンなどでの成功事例を示しつつ、「学校運営に対する交付金の使い道や、生徒の成績や地域の平均点といった情報を住民に開示することがインパクトとなり、コミュニティーが学校運営に関わるきっかけになる」と話しました。また、小塚主任研究員は「住民参加の学校運営は、やり方によっては格差を拡大してしまう可能性もある。ある国では、現金給付によって男の子や勉強ができる子だけが優先された事例もあり、このような格差が出ないよう留意することが重要」と指摘しました。

フィルマー、ロジャース両氏は、このシンポジウムと、同日及び翌日の2日間にわたりJICA市ヶ谷ビルで開催された『世界開発報告2018』コンサルテーション会合のために来日しました。同会合には、JICA研究所の研究員や外部の研究者らが参加し、JICA研究所の研究成果やJICAの知見、日本の研究者による研究成果を両氏と共有しました。

このうち、JICA研究所の研究成果としては、ブルキナファソ及びニジェールにおけるみんなの学校プロジェクトのインパクト分析の結果や、東アジアにおける地域統合と労働市場のためのクロスボーダー高等教育の分析の結果、障害と教育研究の成果などが発表されました。

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