JICA緒方研究所

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東アジアで人間の安全保障がどう受け入れられているか—武藤主任研究員らが英国開発学会で発表

2017年9月22日

2017年9月6日からの3日間、Development Studies Association 2017(英国開発学会)の年次カンファレンスがイギリスのブラッドフォード大学で開催され、JICA研究所の武藤亜子主任研究員らが研究成果を発表しました。

日本の平和構築支援について報告した石川JICA国際協力専門員

同カンファレンスは「Sustainability interrogated: societies, growth, and social justice」をテーマに59のパネルなどで構成され、約350人が参加。武藤主任研究員は石川幸子JICA国際協力専門員、ウン・ミ・キム梨花女子大学教授、ブレンダン・マーク・ハウ梨花女子大学教授と共に「Aid, Statecentricity, and Human Security in East Asia」がテーマのパネルに登壇し、研究プロジェクト「東アジアにおける人間の安全保障の実践」の成果発表を行いました。

石川国際協力専門員は、フィリピンのミンダナオにおけるフィリピン政府とモロ・イスラム解放戦線(MILF)の和平プロセスを例に、日本の平和構築支援について報告しました。人間の安全保障の概念が、プロパガンダ、ポリシー、プラクティスの“3Ps Strategy”によって政府主導で進められる中、プラクティスの一端を担うJICAの開発援助を通じた平和構築を紛争・平和研究の文脈で理論的にどのように考えるかというモデルを提示し、人間の安全保障のコンセプトのもと、日本の平和構築支援が変化してきたことを説明しました。

武藤主任研究員は東アジアでは人間の安全保障の概念が一定程度受け入れられていると発表

武藤主任研究員は、ASEANと日中韓の11カ国で人間の安全保障の概念がどう受け入れられているか、各国に拠点を置く研究者によるケーススタディーの成果と展望を報告しました。「多くの国で、人間の安全保障の概念は一定程度受け入れられている。政府を信頼して国の主権を尊重する国もあれば、国と市民社会の間に緊張をはらむ国もある。脅威に直面する場合、紛争よりも自然災害の方が国際協力を受け入れやすく、紛争に際して国際協力を受け入れる場合は国際機関の方が受け入れやすい」といった気付きを説明しました。今後に向けては、緩やかな地域の枠組みやネットワークの重要性を指摘したほか、人間の安全保障の概念は紛争などによる外的なショックで人々や国の状況がさらに悪化するダウンサイドリスクや脆弱な人々のエンパワメントも視野に入れるため、持続的な開発目標(SDGs)を補完しうる概念であると述べ、東アジア地域の多様性をふまえた人間の安全保障の概念の進展に期待を示しました。

会場からの質疑応答では、人間の安全保障の概念が受け入れられているかどうかの基準の明確さについてや、その基準が客観的に示されるのかなどについて質問の手が挙がりました。これに対し、武藤主任研究員は「人間の安全保障の概念がどこまで受け入れられているか、客観的に捉えるのは難しいかもしれない。しかし、例えばJICAでは、この概念が導入されたことにより、保健医療の分野で主流だった大病院の建設からコミュニティ・ヘルスや一次医療施設の強化支援へと視野が広がり、援助の現場がより草の根に広がっていった。人を中心に考える人間の安全保障の概念がもたらした変化と言えるのではないか。人間の安全保障は、短期かつ迅速な変化を促す概念ではないかもしれないが、じわじわと広がる概念と捉えることができる」と回答しました。引き続き、書籍化も視野にいれつつ、研究成果の発信を行っていく予定です。

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