JICA緒方研究所

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教科書開発を通じた算数・数学の学力向上を目指す—プロジェクト・ヒストリー出版記念セミナー開催

2017年11月27日

大学生の参加も多く、中米の教育の課題などについて質問があがった

JICA研究所は2017年11月10日、JICA事業の軌跡をまとめた書籍「プロジェクト・ヒストリー」シリーズ第16弾『中米の子どもたちに算数・数学の学力向上を 教科書開発を通じた国際協力30年の軌跡』の発刊を記念し、セミナーを開催しました。著者の西方憲広氏のほか、エルサルバドル教育省のオスカル・アギラ中等教育局長が講演しました。

開会のあいさつに立ったJICA研究所の萱島信子副所長は、「本書は算数・数学の新しい教科書を普及させ、中米の算数教育を改善した30年に及ぶ壮大な物語。西方氏は、“算数を学ぶ・教えるとはどういうことか”を問い続けている。これは日本の教育とも共通する課題であり、開発途上国から気づかされることも多いのではないか」と述べました。

登壇した西方氏は、中米各国での取り組みを紹介しながらこれまでの成果を振り返りました。これらの国々では、教科書の項目が系統立てた順に並んでいない、教員の指導力が不足しているなどの理由から、算数・数学の学力が低い子どもたちが多く、授業内容を理解できていないことが課題でした。

現在はエルサルバドルの算数・数学指導力向上プロジェクトに携わる西方憲広氏

西方氏は1987年に青年海外協力隊の小学校教諭隊員としてホンジュラスに赴任し、教員の指導力を強化するための研修を実施。この取り組みは後任の隊員たちによって全国的な活動へと発展し、2003年にスタートした算数指導力向上プロジェクトで算数教科書と指導書の開発、教科書の全国配布という成果へとつながっていきました。さらに2006年以降は広域プロジェクトとして、エルサルバドル、グアテマラ、ニカラグアでも教科書開発が進められています。日本を参考に、教科書だけでなく教員用指導書を作成したことや、他国の開発援助機関やホンジュラスの教育大臣の協力があったからこそ、この活動が周辺国へ波及したことなどを説明しました。

また、西方氏は2015年からはエルサルバドルで初中等教育算数・数学指導力向上プロジェクト(ESMATE)のチーフアドバイザーとして、算数教育支援に取り組んでおり、現在力を入れていることとして、教科書の執筆者が子どもたちに授業をすることで実態を知り、教科書の改善につながっていることを紹介しました。「数学が得意な人が教科書を作ると難しくなるので、授業をすると教育的視点で数学を見るようになり、それで初めて“数学教育”に変わる。目指しているのは、子どもたちが自分で考え、相互に教え合う能動的な学習時間を増やすこと。1987年に始めた取り組みに、深みと広がりが出ていると感じている」と語りました。

「質の高い教育を目指す」とエルサルバドル教育省のオスカル・アギラ中等教育局長

アギラ中等教育局長は、教育省内部の連携不足の解消、教員の能力強化、学校運営の効率化などを通して、エルサルバドルの教育システムの改善に取り組んでいることを紹介。「2018年にエルサルバドル初の算数・数学の教科書を開発できたのが大きな成果。教科書を必要としている生徒は27万人に上るため、なるべく早く教科書を配布したい」とプロジェクトに期待を寄せるとともに、「資源のないエルサルバドルでは人材こそが資源。そのために質の高い教育を推進していきたい」と抱負を語りました。

2人の発表を踏まえ、JICA研究所の細野昭雄シニア・リサーチ・アドバイザーは、「持続可能な開発目標(SDGs)」では『誰一人取り残さない』を理念に質の高い教育を目指している。一人一人の能力を発揮できるようにすることが真のインクルーシブな成長につながる」とコメントし、「考える学習」(「自ら学び自ら考える力を身につける学習」)の重要性を強調しました。

会場からの質疑応答セッションでは、「授業時間が半日のみという時間的制約がある中で学力をつけるためにどう工夫するのか」、「中米と日本の教科書の一番の違いは何か」などの質問が寄せられ、活発な議論が行われました。

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