JICA緒方研究所

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変貌する製造業の「今」と「未来」を語る—世界銀行との共催セミナーを開催

2017年12月14日

講演したメアリー・ホールワード=ドレマイア世界銀行グループ貿易・競争力グローバルプラクティス上級経済アドバイザー

これまで世界各国の開発をけん引してきた製造業の現状と将来について考えることを目的として、2017年12月6日、JICA研究所が共催し、世界銀行グループセミナー「製造業主導型の開発の未来」が開催されました。世界銀行グループが2017年10月に発表した報告書「Trouble in the Making? The Future of Manufacturing-Led Development」の執筆を担当したメアリー・ホールワード=ドレマイア貿易・競争力グローバルプラクティス上級経済アドバイザーが講演し、開発の実務者や研究者ら約120人が熱心に耳を傾けました。

冒頭、世界銀行グループの宮崎成人駐日特別代表は開会のあいさつとして、「これまで開発戦略の中核を担ってきた製造業の行く末は、開発途上国だけではなく、先進国にとっても極めて重要であり、本報告書は今後の開発を考える上で示唆に富んだ内容が多く含まれている」と述べました。

「『将来、ロボットに全ての仕事を奪われる』とよく言われているが、杞憂ではないだろうか。新しい変化に対して準備は必要だが、それはチャンスでもある」。こう切り出したホールワード=ドレマイア氏は、歴史的に見て製造業はスキルが低い層の雇用を大量に創出し、生産性が向上することにより工業化が進み、そのことが国の成長につながると考えられてきましたが、その製造業自体が変化しつつあると述べました。例えば世界を見渡せば、コンピューターや機械といった高付加価値製品の製造は、中国を除き、高所得国では1990年代をピークに下降するなど、各国の産業の中で製造業が占める割合は変化しています。

また、IoT(Internet of Things)や高度化が進む産業ロボット、3Dプリンティングなどの新しいデジタル技術によりテクノロジーも進化し、さらに製造業がサービス業を内包化するようになった現状を説明。「例えばスマートフォンといったハードウエアにも、アプリといった多様なソフトウエアが入っているように、モノにサービスが埋め込まれるようになってきている。つまり、今後は製造業を考える際、このようなサービス産業に関連した仕事が重要になると考えられる」と見通しを語りました。

最後に、雇用を創出し、新しいチャンスを活用するために必要な要素として、「Competitiveness(競争力)」「Capabilities(能力)」「Connectedness(連結性)」という3つのCを挙げ、「低賃金の労働力は、もはや製造業を誘致する競争力の基準ではなくなった。物事が変化していることを認識し、科学技術イノベーション(Science, Technology and Innovation: STI)を有効活用することで新たな技術を使いこなし、早期に発展の機会にアクセスすることが重要」と指摘しました。

会場からの質問に対し、日本電気株式会社の久木田氏(中央)と慶応義塾大学の木村教授(右)と共に議論

この報告を受け、コメントした日本電気株式会社の久木田信哉グローバルビジネスユニット主席技師長は、「本報告書は、多様なサブセクター、地域にも適用できる内容であり、感銘を受けた。我が社にも製造業だけでなく、製造業のトランスフォーメーションを支援するビジネスがあり、参考になる」と評価。また、慶應義塾大学の木村福成教授は、「製造業はこれからも開発途上国の発展に必要だが、長期的にはアプローチを変える必要がある。途上国では人材育成などの課題が多く、開発戦略に本報告書の内容を適切に組み込んでいくべき」とコメントしました。その後、会場の参加者からは「気候変動や低炭素社会へのシフトがどう途上国に影響を与えるか」「先進国もすでに技術開発を進めているから、途上国との格差は埋まらないのではないか」といった質問や意見が投げかけられ、登壇者と議論を交わしました。

最後に、JICA研究所の北野尚宏所長が閉会のあいさつとして、「本報告書で提案されている3Cに関連した活動として、JICA研究所ではグローバル・ディベロップメント・ネットワーク(GDN)と共同し、ブラジルやガーナで行われている生産性向上に向けたカイゼン事業の研究に取り組んでいるほか、米国戦略国際問題研究所(CSIS)ともデータ技術を活用したイノベーションについての共同研究報告書を発刊している。今後も世界銀行とは共通の関心について協力関係を深めていきたい」と締めくくりました。

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