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開発途上国が直面する“学習危機”に立ち向かう—世界開発報告2018セミナー開催

2018年7月9日

世界開発報告2018を通して開発途上国での学習危機に警鐘を鳴らした執筆者たち

2018年6月21日、セミナー「世界開発報告(WDR)2018:教育と学び—可能性を実現するために」が、JICA研究所、世界銀行グループ、政策研究大学院大学(GRIPS)の共催で、GRIPSの想海樓ホールにて開催されました。

世界銀行グループは、1978年より毎年タイムリーなテーマを取り上げ、課題の分析と政策提言をまとめた「世界開発報告(World Development Report: WDR)を出版しています。WDR2018は「教育と学び—可能性を実現するために(LEARNING to Realize Education’s Promise)」と題し、初めて教育を取り上げました。

同セミナーでは、世界銀行のディオン・フィルマーWDR2018執筆担当共同局長とハルゼイ・ロジャース同共同局長が講演し、広島大学の吉田和浩教授とJICA人間開発部基礎教育チームの小塚英治課長(JICA研究所主任研究員)がコメントしました。

途上国の教育の現状と課題を分析した世界銀行のディオン・フィルマー共同局長

まず、フィルマー共同局長は、「WDR2018のメッセージは、学校に行くことが必ずしも子どもたちの学びに結びついていない、ということ。開発途上国の大半の子どもたちは小学校で習得すべき最低限の読解力や計算力を身に付けていない。これをWDR2018では“学習危機”と呼んでいる」と述べました。学校で身に付けるスキルは労働力として必要なスキルに通じるため、教育は人々が適切な収入を得て貧困から抜け出すのに役立ち、そして国家レベルでは国の生産性を上げ、経済成長を促すとされます。国の投資として教育ほど大きな効果が期待できるものはないものの、十分に行われていない世界の現状をデータで示しながら紹介しました。

なぜ子どもたちは学習できていないのか。それは、「学ぶ側の子どもたち、教える側の教員、教科書など学ぶためのツール、学校運営といった要素それぞれの体制が整っていないから」とフィルマー共同局長は説明。例えば、貧困層の子どもは栄養不足などが原因で授業に集中できない、教員は学校に来なかったり担当教科の知識が十分ではなかったりする、学校設備を導入するだけで何年もかかったり導入しても使われない、というように課題が多く、これらを包括的に解決していく必要があります。また、フィルマー共同局長は「教育分野には政治家や官僚、NGO、国際機関など多様な関係者が関わっており、それぞれに政治的・経済的な利害があるため、総合的に課題を解決するためのシステムがつくれない“Low learningの罠”に陥っている」と分析しました。

WDR2018で提言しているアクションを紹介した世界銀行のハルゼイ・ロジャース共同局長

続いてロジャース共同局長は、韓国やベトナムなどでの学校教育の改善例をふまえ、WDR2018で提言しているアクションとして、学習の進捗をきちんと評価すること、学校がすべての子どもたちの学習の場となるようエビデンス(科学的根拠)に基づいた行動をすること、関係者が連携し学びにフォーカスした総合的な仕組みを構築することを紹介しました。さらにフィルマー共同局長も、Low learningの罠から抜け出すための方法として、社会がこの課題に関心を持つように情報を開示し、関係者間の連携を促進するほか、その国や地域に合わせた学校教育の改良も挙げました。

コメントしたJICA人間開発部の小塚英治課長(左)と広島大学の吉田和浩教授

講演を受けコメントした吉田教授は、1990年代以降の「万人のための教育(Education for All)」を掲げた教育開発のグローバルな取り組みや教育経済学の歴史に触れ、「日本はよりよい教育に向けて改善するノウハウを持ち、それを途上国に伝える役割を果たせるはず。ただし、日本のノウハウをそのまま使えるわけではないため、各国に合わせるためにはローカルレベルのアクターの主体性が鍵を握る」と指摘しました。

小塚課長は、「この報告書の重要なキーワードは『システム』であり、多様で複雑に関わり合うアクター・制度を踏まえて各国に適した教育政策を考えることが重要」とコメント。JICA研究所で実施した教育や保健分野についての研究プロジェクト「JICA事業の体系的なインパクト分析の手法開発」を紹介しながら、「途上国では学習危機がどれほど深刻か浸透しておらず、親の多くは子どもが学校に行くだけで安心している。だからこそ、子どもたちの学びの現状を関係者が知ることが学習危機と闘う第一歩であり、WDR2018の提言を支持する」と述べました。

会場からは、教員の育成方法、関係者間の連携、エジプトに導入されている日本式の教育についてなど、多くの質問が挙がりました。最後に、JICA研究所の萱島信子所長が「教育に関してグローバルな一つの解決策はないと改めて実感。WDR2018は唯一の解決策を示す処方箋ではなく、教育開発を模索する際のガイドブックとして手にとり、各々の国の固有の背景・状況に合わせて考えていくべき。WDR2019“The Changing Nature of Work”でも引き続き教育に関連する議論が盛り込まれる予定で、ますます力を入れて取り組むべき課題だ」とあいさつし、セミナーを締めくくりました。

世界開発報告2018(世界銀行ウェブサイト)

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