日本比較教育学会で日本の国際教育協力研究について発表—萱島所長ら

2018.07.19

2018年6月22~24日に広島県東広島市で第54回日本比較教育学会が開催され、24日の自由研究発表「理論・思想・歴史」セッションで、JICA研究所の研究プロジェクト「日本の国際教育協力:歴史と現状」についての発表が行われました。同研究は、1950年代から現在までの日本の国際教育協力の変遷や特徴を包括的に記録・分析し、日本の教育支援の成果や課題を明らかにすることで、今後の政策策定やプロジェクトに生かすことを目指しています。

日本の高等教育協力の歴史について発表したJICA研究所の萱島信子所長

JICA研究所の黒田一雄客員研究員(早稲田大学教授)が司会を務めた同セッションでは、まず、広島大学の吉田和浩教授が「日本の国際教育協力政策の特徴—1990年以降の変遷とその背景要因」と題して発表しました。90年代は、経済発展を中心とした開発から、人間を中心にした開発に転換した時代。教育分野では基礎教育の普及を柱とする「万人のための教育(Education for All)」が世界的な潮流になり、そして日本では初めてのODA大綱が整備されました。そうした国内外の開発思潮や変化する開発途上国の教育開発のニーズに対応しつつ、日本の国際教育協力の政策が、90年代以降、日本の教育の強みを打ち出しながら進展してきたことを紹介しました。

同大学の石田洋子教授は、「日本の国際教育協力を通した基礎教育開発への貢献—教育行政および学校運営強化への支援—」について発表しました。80年代半ばから教育行政機能の地方分権化と学校教育への保護者・住民参加が積極的に推進され、途上国の教育省や地方行政機関のキャパシティー・ディベロップメントが重視されるようになりました。日本は90年代後半から基礎教育分野の技術協力プロジェクトを開始し、2000年代から教育行政支援や学校運営改善の協力を行っています。石田氏は教育行政能力強化や学校運営改善を支援した技術協力プロジェクト45件を分析し、そこから得た課題やプロジェクトの成果を高めるための学びを共有しました。

次に、名古屋大学の山田肖子教授と島津侑希助教、JICA研究所の辻本温史リサーチ・オフィサーが「日本の人づくり支援の源流と現在—ODAにおける産業人材育成支援の変遷」と題して発表。日本のODA事業で最も歴史がある分野の一つ、職業訓練・産業人材育成(Technical and Vocational Education and Training:TVET)支援として50年代から実施されたJICAの技術協力プロジェクトのデータから、分野、地域、支援形態の特徴を時系列に分析し、日本国内と国際的な政策環境の変遷が実際の支援とどのような関係があったかを紹介しました。また、海外の人材育成のために通商産業省(当時)所管の特定機関として設立された一般財団法人海外産業人材育成協会(AOTS)と外務省所管のJICAのTVET支援を比較し、JICAは幅広い地域をカバーし、製造や農林水産分野で基礎的な技術力の底上げに尽力している一方、AOTSはアジアをメインに、自動車部品や半導体といった日本企業のニーズに応えた人材育成支援を続けていることも紹介しました。

続いて、JICA研究所の萱島信子所長が「日本の高等教育協力の歴史—高等教育機関の育成や拡充のための協力」と題して発表しました。日本がODAの初期から積極的に取り組んできた高等教育機関の設立や育成といった高等教育協力が、60年代に医学分野を中心に始まり、それが現在では地球規模課題対応国際科学技術協力プログラム(SATREPS)など国際的な共同研究や、アセアン工学系高等教育ネットワーク(AUN/SEED-Net)プロジェクトなど広域的な高等教育活動の促進、エジプト日本科学技術大学設立プロジェクト(E-Just)など日本の名前を冠した大学の新設といった新たな取り組みにまで拡大してきた歴史を紹介しました。萱島所長は、「高等教育協力は、約200の日本の大学の教員が参加して行われてきた。それを通して途上国の大学との関係構築や国際共同研究の実施、留学生受け入れの増加などが進み、結果的に日本の大学の国際化に貢献している」と、発表を締めくくりました。

AUN/SEED-Netに参加しているタイのモンクット王工科大学で学ぶ留学生たち。同大学は日本が長年支援してきた

同研究の成果は、2019年前半に書籍として刊行する予定です。

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